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ダンジョン攻略で借金返済!   作者: 明治産
第一章 初歩編
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第四話 「期待に応えて」

 私は物心ついた時から剣を握らされていました。母親に美しい剣舞が出来るようにと教えられてきたから。

 しかし、私自身は剣舞があまり好みじゃなかったのです。

 舞えど舞えど、叱られるし叩かれる。『動きが鈍い』、『剣が遅い』。様々な理由で叱られました。

 いっつも叱ってくる母様が嫌で剣舞が嫌になることもありました。

 でもそんな怖い母様でも、やっぱり母様という存在は母なわけで。綺麗な剣舞ができたときはとりわけ笑顔で褒めてくれました。『よくできたね』と、頭を撫でて褒めてくれたのがとても嬉しくて。

 その嬉しさをまた味わいたかったから剣舞は頑張れたんです。

 でもそんな日常もずっとは続かなかったのです。

 父様が姿を消しました。突然、なんの置き手紙もなしに。ただただ大量の借金だけを置いて、私達家族の前から姿を消しました。父様のミスで大量の負債を抱えてしまい倒産したのは知っていましたが、まさかそんな、無責任な事をするなんて思わなかったのです。

 それから母様が剣舞を見てくれることもなくなって、働きに出る事が多くなりました。

 それでも私は剣舞をしていました。シエン兄様や母様のように働きに出る事がまだ歳も幼くて出来なかったためです。

 毎度のごとくくたびれて帰ってくる母様やシエン兄様を見るたびに心が苦しくなりました。


 母様は日が経つ毎にどんどんやつれていって、目つきも段々悪くなっていってさらに怖くなりました。話しかけると凄い形相で睨んできました。

 もう前の面影は全く無かったのです。


 それから何年か経過したときに、シエン兄様が盲目になりました。

 それが、決定打になったんでしょうか。

 朝起きたら母様もいなくなっていました。父様と同じく何もなしに忽然と消えていました。

 家も全部手放し、広かった家は橋の下にある小さな穴の中に変わりました。

 シエン兄様は盲目で働けないので、私が頑張らなくちゃいけなくなって、街に繰り出すことにしました。

 今思えば、靴磨きで稼ごうとしたのが間違いだったんでしょう。

 この街に靴磨きを望む者はいなかったのです。

 誰一人として私の前を通り過ぎるだけで靴磨きを望む者はいませんでした。

 ただ通り過ぎる人々を見るだけで一日が過ぎます。

 本当に稀に靴磨きを望んでくれる人が居るぐらいで全くお金にならないことの方が多いです。

 その時にやっと、ようやく気付けました。シエン兄様と母様がどれだけの苦労をしてきたのか。

 多分、こんなんじゃまだあの二人の苦労には届かないだろうけど…片鱗は味わえた気がします。


 お気に入りだった白地の服も飛んでくる砂埃で茶色くなって、私自身も汚れていきました。

 そんな日々を過ごしている時に、ある出会いがありました。レン・ソウウォンとの出会いです。

 最初出会った時には目に砂をかけられましたし、頭を踏みつけられたりしました。

 もうこれ以降会う事は無いと思いましたが、すぐに再会することになってしまいました。逃げ場のない家の中で。

 私だけじゃなくシエン兄様にまで酷いことをするのかな、と思って家の端っこで縮こまっていると、四人ぐらいの男の人に私は連れていかれてしまいました。

 あぁ…売りさばかれるのでしょうか…と思ったのですが、体を綺麗にしてくれたり、服を新調してくれたりで想像の斜め上を行く事をされました。

 美味しいご飯も食べさせてくれたりで正直頭があがりません。


 その次の日に母から一番厳しく教えられた大上段、袈裟懸け、横一文字を一先ず彼にやって見せてみると、彼は振りの良い所と悪い所を優しく教えてくれました。

 その様子がなんだか少しだけ、懐かしいような感じがして。少しだけ心が豊かになりました。

 体作りの内容や、教えは母様の時よりは厳しくありませんが、彼の教え方は何処か、何かが母様の教え方に似ていて、拒絶することはありませんでした。

 彼の教えはやる気があって、私を強くしようとしてくれている。だから、その期待に応えてあげなければいけませんね。


 ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─


「さ、今日も体作りから始めよう」

「はい」

「内容は昨日と同じだから、頑張ってね」

「分かりました」


 私の鍛練は初めの時から変わらず早朝から開始します。

 筋肉を付けるための腕立て、腹筋、背筋を時間を掛けてやります。

 かなり辛いです。昨日の鍛練のせいもあってか、体中が痛い。動くたびに痛みが増していく。


「ん?動きが悪いよ。どうしたの?」

「ちょっと体中が痛くて…」

「筋肉痛かぁ。まぁ初っ端から詰めすぎたのもあるし…そうだ。じゃあ、素振りを二百回ぐらいやった後に少し二人で街を歩きに行こうか。勿論運動の一環としてね」

「どうしてですか?」

「軽い運動をしておくと筋肉痛の回復が少し早まったりするかもしれないんだよ。お風呂とかも有効的だけど、うちは付いてないからあまり効果は見込めないけど」


 剣舞をしていた時も時折なりましたが、やはり慣れません。

 しかし、素振りを二百回もしなければならないのだからこの人はやはりやる気です。

 それはさておき、街に行くのであればあそこに行っておきたいですね。

 あの土地に。

 この砂丘地帯にある国、シャントンは私達センオウ家が治めていた大企業がありました。それのおかげで家も大きかった。

 でもあの時全てが無くなった。今はもう何もない空き地になっているだろうけど、やはりまた、見ておかないといけないと思うのです。


「レン様、少々わがままを言わせていただいてもいいでしょうか?」

「んー?どうぞ」

「私達が前に住んでいた家を目に収めたいです。なので、素振りが終わり、街に歩きに行くときに、連れて行ってくれないでしょうか?」

「いいよ。でも、何もないよ?」

「良いんです。どうせ、センオウ家の娘、と名乗る事もなくなるので最後ぐらい目に収めておこうと思っただけなので」

「ふーん…」


 日も昇ってきて太陽の光が私達を照らし始めました。

 この時間になってくると、街の人々も起き出して、活発になります。

 走れるぐらいの道すら無くなるぐらい混み合うので、急いで素振りを終えて、さささっと行ってしまいましょう。だからと言って、おざなりにする気はありませんが。


 ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─


 倭刀の素振りをこなすリーを尻目にソウウォンは二人が生活している小部屋へと向かった。

 何故かシエンが一向に出てこないからだ。

 扉を軽く叩き、中に入る。

 其処にはシエンとルイが一緒に話をしているようだった。


「成る程ね。君達そういう仲になったのかい?」

「なんだその言い回し…。レン兄、妹の方は?」

「ん、今素振り中さ。シエンが一向に出てこないからどうしたのかと」

「あー…。朝のうちは親睦を深めてあとは反響定位の感覚を覚えさせようと思ってな」

「ふーん。まぁ、君が教えてくれるのなら問題ないんだけど」


 ジ・ルイはシエンと同じとまでは行かないが、視力がとても悪い。

 視界の八割は暗黒に染まっているぐらいには視力が低下しており、反響定位を利用しないとまともに歩けすらしない。

 故にシエンの気持ちも理解が出来るし、反響定位を教えることもできる。

 一番の理解者でもあり、教えるのに最適な人材だ。

 そんな話をしていると素振りを終えたらしいリーが部屋に入ってきた。


「レン様、三百回終わりましたよ」

「二百回で良いって言ったじゃん」

「ちょっとやりたくなってしまって…ダメでしたか?」

「いや、全然。ていうか汗まみれだね、本当にしたのは素振りだけかい?」

「えぇまぁ…。とりあえず拭くものを下さい」

「はいはい、じゃあちょっとおいで」


 リーとソウウォンはそんな会話をしながら部屋を出て行った。

 そんな二人の背中を見ながら、シエンとルイが口を開く。


「お前は羨ましいよ。顔が多少は見れるんだから」

「そんなしょげんなって。お前もいずれ表情が分かるようになる」

「表情だけだろう?…はぁ」

「盲目は戻らねえからな。それぐらいしか分からなくなる、仕方ないんだ」

「まぁ、な」


 ルイは更に続ける。


「盲目のお前がダンジョンに行くとかほざいた時は驚いたが、若干期待してる俺がいる。昨日の感覚の掴みようを見りゃな。俺と類は違えど目に障害を持った奴がかつて誰も成し遂げなかった偉業をなそうとしてる。かぁっ―!心が躍るねえ!」

「期待?」

「おう。俺なんてそんな事思ったこともなかったし、その点で言えばお前は、俺より格上だよ。困難に立ち向かおうとするその姿勢がな」

「そんなもんか…」

「さ、外に行くぞ。十分話もしたし、また今回も感覚を掴めるようにな」

「あぁ」


 ルイがシエンの手を引き、片手に杖を握らせる。

 今日も杖を叩いて状況を知るという感覚を掴む訓練だ。


 布で汗を拭き、清潔な白い服に着替え、街に出たリーは少し緊張しているようだった。


「なんで緊張してるの?」

「え…。やっぱり靴磨きをしていた時の道行く人の視線が未だにちょっとまだ怖くてですね…」

「まぁ…仕方ないね」


 彼女の言葉に同情しつつ、早歩きで細い道に進路を変えて進む。

 本来、このような細い道を進むことはない。

 しかし、ソウウォンがこの細い道を選んだ理由は、センオウ家の邸宅跡地がある道に出るための近道になるからだ。


「本当にいいのかい?何もない空き地になってるけど」

「えぇ」

「変わった子だねぇ、君も」

「まぁ、そうですね…私もそう思います。………此処ですか」

「うん。何もないでしょ?」


 細い道を出て、さっき通ってきた大通りとは違い、人が全くおらず、閑散としている大通りに出てすぐの場所にその土地はあった。

 リーは初めて見る有様だった。

 土が露出し、所々に草が生えている空き地。


「うーん…。何かよく分からない感覚ですね」

「だろうねー」

「あっでも、一つ、思い浮かんだ事があります」

「なんだい?」


 ソウウォンが聞くと、リーがソウウォンの方を見て目を輝かせながら言った。


「いつか、ダンジョン攻略に成功して、借金も返せたら。此処に小さな家を買いたいです。あぁ、それと、さっき大通りで見かけた綺麗な倭傘…。あれも欲しいです!」

「…そうだね。じゃあ僕も君を頑張って鍛えないとね!」

「はい、お願いします!」


 こうしてまた一日が過ぎていった。

 リーの志はどんどん高まっていくし、シエンは反響定位の習得にそう時間を要しないかもしれない。

 彼らの伸びたる才能はどんどん増えていく。

かなり遅れました…すいません…。

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