遺した本と、死んだ俺。
いつもと違うテイストですが作者は私です。
安心してくださいね!
「死ね」
俺の言い放ったこの言葉は、俺に死を運んできた。
この「死ね」は友達同士でじゃれ合う時に使う「死ね」とは違う。たとえ相手が死んでも構わない、そんな気持ちがこもった「死ね」だった。
彼女はいじめられていた。
きっかけは、些細なことだった。彼女は、学校に持ってきてはいけないとされるパソコンを持ってきていたのだ。
しかも教師はそれを容認していた。
「それが彼女の仕事だ。だから特別に許可した」
との事だった。
『特別扱い』。なんて使いやすいんだ。いじめの理由にはぴったりだった。
まず、全く興味のなかった彼女をどうすれば嫌がらせることが出来るのか、馬鹿な仲間と共に彼女を嗅ぎ回った。
馬鹿な俺と仲間は知らなかったが、彼女はどうやら物語を書いているらしい。それでお金を貰っている。
その事実は、俺らの破壊衝動を更に煽った。
もっと調べると彼女は新人賞なるものを受賞していて、社会からの評価も高く、俺らとは真逆のような存在だった。
俺も仲間もイラついていた。今だから分かるが、それは彼女への苛立ちではない。比べた自分の見劣りに苛立ったのだ。
資格もなく俺達は彼女に嫉妬していた。社会からの評価、地位、金。色々なものを手に入れた彼女に。
彼女の家族構成も分かった。父と母、それに弟が1人。4人家族だそうだ。
俺達は、集めた情報を元に彼女を追い詰める計画を立てた。
この時の俺達に明確な「目標」なんてものはなく、ただ彼女が、どんな形であれ俺達の敗者になることを想像し興奮していた。
まずは軽い嫌がらせから始まった。消しゴムをゴミ箱に捨てたり、中のシャーペンをへし折ったり。
その瞬間、クラスの連中は凍った空気の中察したらしい。
『次の標的はやつだと』
俺達は高校2年生。陰湿ないじめなど、そこら中に転がっている。もちろん先生は知らない。しかし生徒同士で何故か分かり合えるのだ。
狩る側と、狩られる側。傍観者と共犯者。
ある種の共通言語だろう。それをまとめて大人はスクールカーストと呼んでいるらしい。
そしてクラスの連中は、彼女と関わることをすっぱり辞めた。自分が標的になりたくないからだ。
当たり前のことだ。誰が振り上げた拳の中に顔を入れる。痛みから逃げられるなら逃げ出したいものだ。
それが第2のいじめ、「無視」に繋がる。
彼女は頭が良く、そして優しかった。
初めの嫌がらせで、犯人や共犯者、首謀者。そしてこれから先の物語を頭の中で描けていた。
無視される未来も間違いなく想像していた。
しかし、抗わなかった。
クラスメイトや、昨日まで喋っていた隣の人。最後には仲の良かった友達でさえ、誰にも助けを求めなかった。声を上げなかった。
声を上げればそいつが次だ。言われた方が吊るされる。優しく、利口だった彼女はそれを分かった上で誰にも言葉をかけなかった。
2ヶ月が経ち、いじめはエスカレートして行った。
わざと体をぶつけ、彼女のせいにしてタコ殴りにした。
それも、誰にもバレない腰や腹、背中など布で覆われているところを重点的に痛めつけた。
しかし彼女は強かった。それでも誰にも助けを求めない。俺達に向ける眼光は鋭く尖っていた。目だけで反抗していた。
それが飽きてくると、次は体を貪った。痣だらけになった彼女の体を、数人で回して楽しんだ。
それは例えば、体育倉庫であったり障がい者用トイレ、校舎の屋上など隙を見つけては彼女の腕を引っ張り連れ込んだ。
体液でベトベトになった彼女の体を見る時の高揚感は、これまでにないものだった。
しかしまだ彼女は学校に来続けた。強い心で、気持ちで。
俺達は始めの苛立ちとは違う種類のものを感じていた。今感じるのは、いかにして彼女を学校を辞めされるかだ。
そこで、俺達は標的を彼女の弟へ向けた。
少し調べたらすぐに通っている学校、学年、クラス、全て分かった。
決行の日。あえて彼女にはなんの手も出さなかった。
彼女の弟が学校から下校する時間を見計らい、拉致し、今は空き家となっている建物に引きずり込んだ。
そして、彼女とは違い目に見える所を重点的に痛めつけた。なんの身の覚えもない彼女の弟は、嗚咽混じりに泣きじゃくり、ただひたすらに痛みに耐えていた。
可哀想だと思う気持ちよりも、彼を殴った時に残る拳の感触、泣き叫ぶ声、液体だらけの醜い顔面、全てが俺達に高揚感、優越感を与えた。
元々、彼女に似て整い男前だった顔を、腫れぼったい痛々しい顔に仕上げる頃には日は落ち、街を照らす街頭がその存在感を顕にしていた。
俺達は、その弟に言伝を託し家へと戻した。
「明日、昼休み。体育倉庫」
そう姉に言うように伝えたのだ。
体育倉庫と、彼女が聞けば何をされるか、どんな仕打ちが自分を待っているか、利口な彼女なら100%理解出来る。その上で来るのかを確かめたかった。
次の日、彼女は目の下にクマを肥やし、涙で腫れたみすぼらしい顔で学校へとやってきた。
そして運命の昼休み、体育倉庫へ彼女は来た。
「弟に手を出したのはあなた達? 」
俺達を見据える目には、怒り、憎しみといった生半可なものでは無い、明確な殺意が宿っていた。
しかし、彼女は何も持っていなかった。
「あぁ。俺達だけど。なんか文句ある?あるなら言ってみろよ」
そう言うと、いつもの様に彼女に馬乗りになり、彼女を辱めた。
「殺してやる」
終わった後、彼女は呟いた。
「死ね。じゃねぇとお前の周りの人の顔、みんなボコボコになるぞ」
今思うと、クソみたいな脅しを彼女に振り掛け、俺達はその場を去った。
次の日、彼女は死んでいた。
人気女子高生作家の自殺は、全国で大々的に報じられた。学校や、彼女の家にはマスコミが押し寄せた。
そこまで世間が食いついたのには、彼女の策した罠があったからだ。
彼女は死ぬ直前、1つの小説を完成させていた。
内容は、中に出てくる少女がいじめられ自殺するという物語だ。
そう。彼女は自身の体験を小説にし、仕上げていたのだ。
遺書には、その小説の出版に対する強い要望が綴られていた。
世間では出版に対して否定的な意見も強かったが、彼女の母の要望や、出版社の担当編集の力もあり話題の著書は発売され、瞬く間に大ヒットを記録した。
一方で学校としては、いじめを示唆する内容の書籍を発売した当人が自殺という、衝撃的な事実を丸め込める訳もなく、世間から袋叩きにされ、校内ではいじめの首謀者であった俺や、共犯者だった仲間の立場はなくなるどころか、まるで癌を見るような目であった。
その後、彼女の父は被害届を提出、受理され俺達を刑事告訴し、書類送検され、今は少年院に入れられ保護観察処分となっている。
少年院で時を過ごす今、自分が死んだということを思い知らせれる。
「殺してやる」
彼女が放った「殺す」は、物理的にではなく社会的にという意味では達成された。
今でも夢に出るあの光景は、俺に後悔と少しの高揚感をもたらす。
彼女は強かった。美しかった。優しかった。そして誰よりも、恐ろしかった。
空に流れる飛行機雲が俺の意識を遠くへ飛ばす。
もうすぐ、彼女が死んで半年になる。
えげつないのを書いてしまった。「作チー」とは全く違う感じだ……。
でも、たまにこういうの書くのも楽しいですねっ!皆さんは、楽しんで頂けたでしょうか……?
一応、このお話はフィクションです。中に登場する人物の元となった人もいません。ただの私の妄想です。ご安心ください。