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納得できない3

※河合視点

 大和は野球部には戻らないと明言した。


 だから、俺はもう野球部の件はすっかり済んだものと安心して、また、普段どおりの休み時間を、つまり三年一組のメンバーだけで、いい感じに格闘技談義なんかをしながらまったりと過ごすつもりだった。


 なのに、なのに、あれからというもの、康平とかいうヤツがしょっちゅう3の1に入り浸って、野球部のことを大和に相談している。

 女房役だかなんだか知らないけど、大和は野球部には戻らないと言ったのに!

                               

 おまけに、アイツが大和に球を受けてくれって強請るもんだから、大和は俺を捨てて体育館ではなくグラウンドへ行ってしまう。

 俺は大和と一緒に新しいプロレス技を研究する昼休みを、何よりも楽しみに学校に来てるのに!



 今日も、青木が踏んばったが、約束しちまったから(わり)いなと言って俺達を捨てて行ってしまった。

 大和がいないと、なんか技研究もする気がおきない。

 がっかりして、机に突っ伏している俺に青木が謝った。


「ごめん、だめだった」

「いいよ、気にしなくて。大和は幼馴染のご機嫌とりで忙しいんだ。俺達クラスメイトよりも、あっちの方が大事なんだよ」

「そんなに拗ねるなよ。俺達だけでもいいじゃないか、な?」

「そうだよ、いこーぜ! ほら!」


 石井と小出が落ち込む俺に気を遣って、優しい言葉をかけてくれる。

 気持ちはすごく嬉しかったけど、とてもそういう気にはなれなかった。


 教室でうじうじしていると、二人組の男が扉から教室を覗き込んで、きょろきょろ誰かを捜す素振りを見せる。


 まただ。


「大和か?」


 俺は机に突っ伏したまま、二人組の男に声をかけた。


「あ、うん」


「康平ってヤツとグラウンドに行ったぞ」


「康平と?! そうか、やっぱ噂は本当だったんだな! サンキュー! 行ってみるよ!」

 嬉しそうな声を上げて、二人は走り去って行った。


 あの日以来、こうやって大和を訪ねて来るヤツ、多分同小出身者、が急増した。

 男だけでなく女子もやって来る。

 

 俺達がそれを不思議そうに眺めていたら、大森が事情を話してくれた。

 大和は小学校時代、男女問わずモテモテの超人気者だったらしい。

 


『功ちゃんはね、俺達の小学校ではヒーローだったんだよ。強くて優しくて、何でもできて、何より功ちゃんといると楽しいことばかりでさ、毎日学校に行くのが楽しくてしようがなかった。功ちゃんがいるクラスでは虐めも起きないし、みんな功ちゃんが大好きだったんだよ。だから、あの事件の後、あんなふうに悪口を言われたり、根も葉もないひどい噂が流れたりしたのが本当に信じられなかった。いくら訂正しても、同小以外の人は誰も信じてくれないし、そのうちに功ちゃん自身が心を閉ざしてしまって、俺達、本当にどうしていいのかわからなかったんだ。だから、きっかけは高岡さんなんだろうけど、こっち側に引き戻してくれた河合達には、俺達本当に感謝してるんだ』




 大森の言った通り、俺達に礼を言って行く者も少なくない。

 感謝されて悪い気はしないけど、俺はなんかショックだった。


 狂犬大和の真実は、俺だけが知っていると思っていたから。




 新学期、噂が噂だけにどんなアブナイ奴かとクラス全員が戦々恐々としてたわりには、教室で見た狂犬は全然フツーだった。

 いつも冷めた顔でクラスを睥睨している、いけすかない野郎には違いなかったけど。

 


 俺は大和のタブーを冒したために、凍りつくような恐怖を味わった。

 でも、そのおかげで分かった事がある。

 大和は誰にでも噛み付く狂犬じゃない。

 誤解を生む行動が、大和をそんなふうに見せてしまうだけだったのだ。

 そしてそれは、大和と真剣に向き合った俺だからこそ、知り得たんだと思っていたのに。


 でも、考えてみれば、俺と大和の付き合いはまだひと月、長い年月を共に重ねてきた幼馴染に勝てるわけがなかった。

  


 あーあ、つまんない意地を張っちゃったな。

 大和は俺にも来いよって誘ってくれたのに。



 悶々と大和について考えていたら、窓辺にいた耕輔が話しかけてくる。


「おお? ひょっとしてゲームをするつもりなのか? おい、俊哉、ちょっとこっち来いよ! 大和が打席に立ってる」


 どれどれと窓からグラウンドを覗いてみると、康平がピッチャーで、打席に大和が立ち、野球部とクラスの連中が内野と外野に散らばっている。

 そして、歓声を上げて見ているクラスの女子。


 ・・・・・・


 落ち込みに、さらに追いうちをかけるような疎外感。


 

 いやいやいやいや、幼馴染には負けても、クラスの中で大和と一番仲がいいのは俺だし!! 

 俺、あいつにめっちゃ頼りにされてるし!

 名前だっていっぱい呼ばれるし。

 それに、何より大和の真価にいち早く気付いて、傷付いて閉ざしていた心を開けたのは、この俺様だ!!

 そうだよ、大森が言ってたじゃないか。

 俺達にはどうすることも出来なかったって。だから、本当に感謝しているって。

 つまり、今の大和にとって一番の友は俺ってことじゃね? 

 そう結論を出したら、すっかり気分が良くなった。

 

 予想通り、大和はヒットを打った。


「さすが、大和だな!」

「ああ。大和は動体視力がめっちゃいいからな」

 気分良く俺が大和をほめると、耕輔がそれに答える。


「動体視力?! そうなのか?」

「ああ、だから相手のパンチとか見切って避けれるんだよ」

「へぇ~」

 ぜんぜん知らなかった。

 

「あ、そうだ。俺さ、お前に聞きたかったんだよ。クラスで大和と一番仲がいいのはお前じゃん?」


 ほらほら、やっぱ自分だけの思い込みじゃなかったし!


「ま、まぁそうかな」



 

「俊哉、大和がさ、あんなふうに俺達に打ち明けてくれるなんてさ、驚いたよな」


 !!


 だが、耕輔のぽつりと呟かれた言葉に、俺は凍りついた。

 なんの話だ? 俺、知らねーし!! 聞いてねーし!!


「ホント意外だったよな」

「うん」


 二人が当たり前に相槌を打ち、俺はさらにパニックに陥った。


「でさ、俺達、大和のこと好きだし、ダチだと思ってるし、もう知らんぷりしてるのがもどかしいっつーかさ。お前、大和から何か聞いてんじゃねーの?」 

「みんなもどうしていいか迷ってる感じだよね」

「さすがにリアル大和には、聞き辛いしな」


 目の前が真っ暗になった。

 クラスのみんなも知ってるらしい。

 

「そこでだ! リアル大和に一番親しいお前に聞きたい! クラス男子としては、どういうスタンスをとるべきなんだ? 是非とも教えてくれ!」


 ・・・・・・


 俺の方こそ、是非とも教えてくれ。

 どーして俺だけハブられてるのか、誰か教えてくれよおおおおおおおおおおおおおおっ!!







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