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スクールカースト

「ね、大和くん、ネットいじめって知ってる?」


 きたよ。

 やっぱり、見逃してくれなかった。

 学校からの帰り道、いつものように愛美のカバンを持って隣を歩いていると、唐突に避ける間もなく聞かれた。



「そりゃまぁ、・・・な」


 やっと青木の件が、うまい具合に落ち着いたところなのに。

 なんでこう、じっとしていられないのかな、コイツは!


 うちのクラスには、保健室登校している女がいる。

 二年の終わりにネットいじめを受けて、不登校になった。

 未遂に終わったらしいけど、自殺を図ったとの噂もある。


「愛美、俺何度も忠告してるよな?! 平和に学校生活を送りたかったら、他グループの友人関係に手を出すなって! 青木の件は上手い方向に転がったから良かったようなものの、下手すりゃ余計に拗れるんだぞ。そうなったら、責任とれねーだろ!」


 大人しい青木は相変わらずクラスの弄られ役ではあるけれど、河合の態度が変わった事で、からかいも蔑むようなものではなくなり、逆に酷く馬鹿にするクラスメイトがいれば、河合が止めている。

 元から青木は河合が好きだったから、きっと嬉しいに違いない。

 

 だがこれは、ひとえに河合がいい奴だったから、上手くいったに過ぎない。

 河合の出方によっては、青木はグループから弾かれて、ぼっち決定。

 青木は河合と同じサッカー部だから、クラスで孤立するだけでなく、部活でも仲間はずれの憂き目に遭うところだった。


「うーん、でも、青木くんが楽しんでるとは思えなかったんだもん。せっかく学校に来ているのに、もったいないでしょう?」


 ・・・・・・


 そーなんだよ。

 コレなんだよ。

 俺がコイツに強く言えないのは、コレのせいなんだよ。

 愛美のズレた感覚は、病気のせいで、ずっと満足に学校に通えなかったせいだ。

 

 寂しい闘病生活を送っていた愛美にとって、焦がれた学校は友達がたくさんいて、楽しいところでなければならない。

 なんつーか、病院での妄想期間が長かったせいで、頭ん中がお花畑に病んじまったんだなぁ。

 愛美のユートピアでは、みんなが幸せなのだ。

 

 哀れな花畑の住人の愛美に、現実を付き付けるのは不憫だと黙っていたのだが。

 俺の力にも限界があるしな、やはり真実を知らせるべきだろう。


「わかった! 可哀相だと思って黙っていたが、もう、ハッキリ言うぞ! 学校はお前が思っているような楽しい場所でも、優しい場所でもねぇ! いいかよく聞け、学校での居場所は己の力でもぎ取らなきゃなんねーもんなんだ。お前に他人の世話をしてる余裕はない! だいたいお前のスペックなんて、三軍にも入れないくらいサイテーなんだぞ。川越がいなかったら、”ぼっち”確定だ。世話になってる川越にメーワクかけないように、大人しくしていろ!」


 愛美は目を丸くして驚いている。


「・・・・・・えーっと?」


 やっぱり何も分かっていなかった。


「あのな、スクールカーストつってだな、今の学校はお前がずっと夢見てきたような楽しいところじゃねぇんだよ。そいつのスペックで決まる身分階級によって、学校生活が左右される厳しい時代なんだ。一軍は花形運動部の人気者や情報通の洒落た連中、逆に三軍は地味で大人しい、特筆するものもない、なに考えてんのかわかんねー連中を指す。学校生活を楽しく謳歌出来てるのは一部の特権階級の生徒だけ、他の生徒達は、毎日を戦々恐々と過ごしている。なぜなら、三軍以下は問答無用で蔑まれてイジメを受けるからだ。お前のグループは、川越単体なら一軍だが、三軍の奴やお前が入ってるから相殺されてかろうじて二軍だ。二軍の立場は行動如何によって、一軍にも三軍にも成り得る。これ以上、厄介事を起こせばグループは確実に三軍格下げだぞ。お前だって、グループの足を引っ張りたくはないだろう?」 

 

「だけど、」


「クラスで生き抜くのはタイヘンなんだよ」


「でも、」


「でもじゃない、川越の苦労も分かってやれ」


 俺に面倒をかけんな!


「鈴ちゃんは、私なら人間不信になってしまった佐藤さんの心を開けられるかも知れないって、言ってくれたよ?」


 はあ?! なんだと!?



「私ね、治らない病気にうんざりして自暴自棄になった事があるの。そんな時に一つ上の同じ病気の男の子が友達になってくれてね、一緒に頑張ろうって、絶望から救われたの。私ね、自分の努力だけではどうにもならない時ってあると思う。どんなにもがいても抜け出せない時は、助け出してくれる手が必要なの。クラスのお荷物の私が何を偉そうにって、思うかも知れないけど」


 ・・・・・・

 

「佐藤を虐めた主犯格は力を持った特権階級だ。クラスの連中にそっぽ向かれるかも知れないぞ? お前をけしかけた川越ですら、保身のためには裏切るかも知れない」


 愛美はしばらく黙り込んだ。

 立ち止まり、スカートをギュッと握り締めて、俺におずおずと訊ねる。


「・・・・・・大和くん、も?」


 不安げに俺を見詰めている。

 縋るように瞳を揺らす愛美に胸が締め付けられた。

 体中がザワついて、俺は居ても立ってもいられなくなる。


「そんな顔すんな、ばーか」

 抱き締めようと伸ばした腕を、なんとかデコピンに軌道修正して誤魔化す。


「痛いよぉ」

 おでこを押さえて、愛美が抗議の声を上げた。


「そんな心細そうな顔をするお前が悪い!」

「えぇ~?」


「あのな、なんで学年一不良のこの俺が、クラスの連中ごときにビビんなきゃなんねーんだよ」

「ご、ごめんなさい」



 まだ不安そうな顔をしている愛美を慰めてやりたくなって、かつて妹にしていたように頭を撫でてやる。 


「心配すんな」


 懐かしいな。

 懸命に俺のあとを追いかけてくる妹。

 小学生の頃、同じ空手道場に通っていた妹は、俺みたいに強くなりたいって負ける度にビービー泣いて、その度に俺がこうやって頭を撫でてやった。

 そう言えば、もうすぐ全国大会じゃないか?

 久しぶりに組手の相手でもしてやるかな。

 

 妹みたいにちっこい頭だなぁと思いながら頭を撫でていると、前髪の隙間から赤くなったおでこが見えた。

 あ、俺がさっきデコピンしたとこか。

 前髪をすくってかき上げると、愛美が目を瞑って、俺に顔を無防備に預けてくる。


 え? え? なんで?

 どういうこと???


 まさか、キスを強請られてる!!!???

 マジか!!


 愛美は頭を撫でられるとそういう気分になっちゃうとか?

 まぁ、女にキスしてって言われるのは、初めてじゃないケド?!

 でも、愛美がそんな真似をするなんて、ものすごく意外だった。

 

 ああ、心細くなったところに俺が包容力のあるところを見せたから、つい甘えたくなったのかも知れない。

 功一の触れかたは優しくてスキよって、よく言われるし!


 でも、こんな道の真ん中でせがむなんて、愛美は甘えんぼうさんだなぁ~。

 しょうがない、ちょっとだけだぞ~。


 顎に手をかけ、キスしようと顔を近付ける。


「どうなってる? キズになってない?」

「え?」

「おでこを見てくれてたんじゃないの?」

「え? おでこ?」

「大和くん、すぐデコピンするんだもん」


 ・・・・・・


「お前のおでこは、なんともない」


 なんともなくないのは、俺の下心・・・






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