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損な役回り

 愛美についてはもう考えない事にした。

 いくら考えてもよく分からないからだ。

 ピッタリ当てはまる言葉が見つからない。


 俺はアイツに同情して、好意も持ってるんだろう。

 あのひ弱そうな外見に、庇護欲を掻き立てられてるのかも知れない。

 アイツをどうやっても守らなければという焦燥感を伴った、この切羽詰まった感情を庇護欲と呼んでよいものかは判断に苦しむところだが。


 いずれにしても、俺がアイツを気にしないでいるのはムリなのだ。

 それはここ数日で見事に証明された。

 もう、なるようにしかならない。



 

 愛美の登下校のカバン持ちは、俺の日課となり、ゆっくり歩みを進めながら、愛美の話に耳を傾ける。

 心和む、なかなか楽しいひと時だ。

 何と言っても俺の傍にいる限りは、ハラハラ心配しなくて済む。


 俺が目を光らせているのと、川越や本人の努力の甲斐あって、愛美は無事にクラスの仲間入りを果たした。

 がしかし、ある問題が発覚した。

 そういう兆候はあった。

 俺に物おじしないとことか。 

 はぁ・・・

 愛美は、いい意味でも悪い意味でも、空気の読めない奴だった。

  

 


「ね、河合くん、プロレスごっこで遊んでるのは分かるんだけど・・・どうして青木くんばかりがやっつけられる役なの?」


「はぁ?!」


「交互にするとか、石井くんや小出くんが代わってあげるとか、」

「いいんだよ! 青木はやられる側でも、俺達と遊べて嬉しいんだから! なぁ青木、そうだろ?」 


「青木くん、そうなの?」

「・・・・・・」

「高岡セ・ン・パ・イには、関係ないことです。ほっといてくださいよ!」


 教室から言い争う声が聞こえる。

 遅かったか!

 生指(せいし)のセンコーに呼ばれて、俺がちょっと目を離した隙に、もうやらかしてやがる。

 

「青木くん、本当にそれでいいの? 交代して欲しいって言えば、河合くんだって」


 そうっと教室に入り様子を窺うと、やっぱり愛美が面倒事に頭を突っ込んでた。

 昨日、あれほどほっとけって言ったのに。


「お前さ、うざいんだよ! 大和がバックについてるからって、いい気になりやがって。自分じゃ何も出来ない病気持ちが! いい子ぶって馬鹿じゃねーの、クラスのお荷物のくせに!」 


「ちょ、ちょっと! 河合くん! いい加減にしなさいよ!」


「川越だって、本音ではそう思ってんだろ? みんな言ってるぜ? 大和にビビって言わないだけでさ、大人しく病院に引っ込ん、え? うっ」

 

「河合、随分楽しそうじゃないか、俺もまぜてくれよ」

 俺は後ろから河合にスリーパーホールドをかけ、それ以上の言葉を言わせないようにした。


「ぐっ、くるし・・・は、なして・・・」


 首から手を離し、今度はコブラツイストをかける。


「なぁ、青木、お前さー、これから河合にプロレスに誘われたら、俺も誘ってくれよ。こんな楽しい遊び、お前達だけでするのはズルイからな。いいだろ? 隠れてやったりしたら、俺拗ねるぞ?」


 おどけて言うと、クラスの男連中が笑った。

 調子にのってた河合が痛めつけられて、留飲を下げている者、怒った俺にビビってすり寄せてくる者、周りから浮くのが嫌で愛想笑いをする者、笑った理由はたち位置によって三者三様だが、正義は俺に傾いた。

 仲間の石井や小出ですら、ヒーヒー言ってる河合を助けられない。

 友達は大切だけど、己の身はもっと大切だからだ。

 


「プロレスの件はそれでいいが、暴言については、どう落とし前をつけさせるかな」

「悪かった、謝る! 高岡さん、ごめん!」


 その時、3時間目が始まるチャイムが鳴った。

「次はないぞ」

 脅して河合を離すと、仲間の連中が駆け寄ってそそくさと席に連れて行く。

 クラスは重い空気にどんよりと包まれた。


「愛美、気にすんな。お前に注意されて、ムカついた腹いせの言葉だ。少なくとも俺は、お前が一生懸命頑張ってるのを知ってるし、応援してやりたいと思ってる」


「私もお荷物だなんて思ってないわ。愛美さんを見てると、自分も頑張ろうって思えるもの」

「「私も」」


 川越達が援護射撃をしてくれた。

 俺一人の言葉では説得力に欠けるから、ありがたい、助かる。

 愛美へのフォローはこれで大丈夫だな。


「馬鹿かとはしょっちゅう思うけどな、そういう奴だから、しょうがねぇさ」

 俺が愛美を貶すと川越がそれに乗っかってくる。

「愛美さんはそれでいいのよ。むしろ、そのままでいて欲しい」

「はあ?! 川越、それは言い過ぎだ」


 俺と川越のやりとりを聞いて、クラスの連中が笑う。

 ようやくクラスの空気感が変わった。


 あー、やれやれだ。

 本当に川越のアシストには、頭が下がる。


 俺は、KYな愛美がクラスでやらかす度に、爪弾きに遭わないよう、その対応で四苦八苦している。

 俺のように一人でも平気な奴ならいいけど、愛美はクラスの連中が大好きで、仲良くしたいと思ってるからな。

 愛美がクラス内の友人関係に干渉するのも、好きであるがゆえの事、本人は良かれ(・・・)と思って行動しているのだ。

 だからKYなんだが。

 

「青木は逆に読み過ぎだ。進んで損な役回りを引き受ける必要はない。お前はコイツの無神経さを見習うべきだな」

「え? 無神経?」

「無神経だろーが。俺の忠告を無視しやがって。この俺に楯突くのは、お前くらいなもんだ。このKY女め! お前にはデコピンの刑だ」

「イタイッ!」


 愛美に軽くデコピンをすれば、クラスは大爆笑になった。

 明るい雰囲気になったところで、今度は、河合にフォローを入れる。

 

「河合、さっきは恥かかせて悪かったな。ついカッとなっちまってさ」


 俺が下手に出れば、河合もメンツが潰れずに済む。


「いや、俺の方こそ悪かったよ。高岡さんにも、・・・・・・青木にも。調子に乗り過ぎた」



 河合が単純な奴で助かった。

 逆恨みされると困るからな。

 恨みが俺に向くのなら構わないけど、愛美に危害が及ぶような事態だけは、どうしても避けなければならない。

 

 クラスの連中を脅して宥めてご機嫌とって、最近面倒なことばかりさせられてる(・・・・・・)気がする。 


 青木に説教しといてなんだけど、一番進んで損な役回りを買って出てるのは、俺じゃね?





  

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