気になる3
翌朝早くに目が覚めた。
まだ、時間が早いから二度寝をしようと目を瞑ったが、どうにも眠れない。
理由は分かっている。
愛美だ。
アイツがまた朝っぱらから妙な事をしないだろうかと気になって、のんびり寝ていられないのだ。
愛美は自分でも宣言していた通り、これまで病気を理由に出来なかった事を一つ一つ、やろうとしている。
その気持ちは理解出来るし、純粋に応援してやりたいと思う。
しかし、アイツは己の力量というものが全く分かっていない。
運動制限がついているくせに、運動場を走っていた前科者だしな。
また何かしでかしているんじゃないか、ものすごく心配だ。
無茶をしたために病院に逆戻りなんて笑えないことが、愛美には十分起こり得る。
あんなに学校が好きな奴なのに。
昨日は一日中、クラスの連中を眺めて嬉しそうに笑ってた。
しばらく布団の中で葛藤を繰り返した後、やはり我慢出来ずに愛美の家を張ることにした。
何もなければそれでいい。
出て来ないな。
塀に隠れて、愛美が出て来るのを窺う。
やっぱり、昨日、張り切り過ぎて、ぶっ倒れてるとか?!
案の定じゃねぇか!!
自力通学だって、アイツにとっては厳しい。
学校も体力がつくまでは半日だけにすべきだな。
体育はどうせ見学で参加出来ないんだから、その時間は保健室で寝てればいい。
よし、俺が交渉してやろう。
学校側だって、また出席日数不足で留年させるのは不本意だろうし、生徒で文句を言うヤツがいたら、俺が黙らせてやる。
もし休みなら、学校側に訴えなければとつらつら考えていると、愛美が姿を現した。
元気な姿を確認して、ほっとする。
そして愛美は、学校に向かってよたよた歩き始めた。
俺は、間隔をあけてバレないように後ろからついて行く。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
のろい。
はっきり言うと、全く進んでない!
お前、このままじゃ遅刻だぞ?!
しかも、休憩してるし!
マジ、こいつイライラする!
見ている俺の方がもたねぇ。
「よ、よう、登校時間まで一緒とは、奇遇だなあ、はははは、・・・・・・カバンを寄越せ、運んでやる」
後ろからさりげなく追いついて声をかけ、カバンをひったくった。
「え、あ、あの、・・・」
「さっさと、・・・ゆっくり行くぞ」
「あ、うん。あの、ご親切にありがとう」
「・・・気にしなくていい」
俺は愛美を昨日みたいに置き去りにしないよう、速度に気をつけながら歩いた。
愛美は、たくさん書く事があったのに、昨夜は日記も書かずにすぐ寝てしまったとか、体中が筋肉痛で朝起きるのが辛かったとか、次から次へととりとめもない話をしゃべり続けている。
昨日もそうだった。コイツはおしゃべりだ。
そして、俺はその愛美の話に黙って耳を傾けている。
女のくだらないおしゃべりは嫌いなはずなのに。
教室に入ると、中にいたクラスメイトが全員目を見開いて俺達を見る。
ま、男女が仲良く一緒に登校したのだから、即座に冷やかしが入ってもおかしくない状況だ。
もちろん、俺はさせねぇけど。
何も言うんじゃねぇぞとクラスの連中に睨みをきかせた。
俺は別に何を言われようが恥ずかしくもなんともないけど、愛美はきっと嫌だろうからな。
冷やかされたせいで、コイツが俺にカバンを持たせなくなったら困る。
俺の言いたい事をクラスの連中はちゃんと読みとったようで、誰も何も言わなかった。
何事もなかったかのように、振る舞っている。
よし、それでいい。
愛美は、川越達のところへ行って、楽しそうに話し始めた。
俺は席について、昨日から今に至るまでの自分について、考えを巡らせた。
明らかに俺はおかしい。
一体これはどういうことなのだろう。
愛美の行動が、とにかく気になってしようがない。
今だって、腕を組んで寝ているようなフリをしながら、耳は愛美の声を拾っている。
フツーに考えれば、俺が愛美に恋愛感情を抱いたということになるんだろうが、そういう浮ついた感じでもないんだよな。
なんつーか、もっと切羽詰まったカンジ?
ほうっておけない的な、見て見ぬふり出来ない的な、たとえて言うなら、目の前で溺れている人間をスルー出来ないような、そんな感じだ。
俺が見捨てれば死んじまう。
しょっぱなに、切ないもんを見ちまったせいかも知れない。
退院したらやりたいことリストには、なんつーか普通の生徒にしたら、当たり前のことばっかが書いてあった。胸が詰まる。
今まで病気で叶わなかったアイツの願いが、全部実現すればいいなと思う。
感傷的な気持ちになるということは、やっぱり俺は愛美に同情してるのかな?
でも、同情だけでこんなに気になるものか?
さっぱりわからん。
ただ、事実として、
一、アイツが笑っていると、俺は安心する。
二、アイツが嬉しいと、俺も嬉しい。
三、アイツが楽しいと、俺も楽しい。
四、アイツが困っていたら、助けてやりたいと思う。
五、アイツが喜ぶなら、少々の面倒は厭わないだろう。
六、アイツが瞳を輝かせて、ワクワクしながら物事に取り組んでいるところを見るのが好きだ。
いや待てよ、真剣な表情も捨てがたいかも。
褒められて、はにかむところなんかも可愛くていいしな。
・・・・・・
えーっと、やっぱり、スキなのかな?