風邪1
俺は悶々としていた。
もう愛美に五日も会えていない。
愛美は原宿に出掛けた日の夜、熱を出し、寝込んでしまっていた。
連れ出した責任もあるし、当然看病する気でいたけど、俺は愛美の家から閉め出された。
戸籍上は、家族でもなんでもないのが悔しい。
だがもう、我慢の限界だった。
「おばさん、入らせてもらうよ」
俺は強行突破を図る。
チャイムを鳴らし、玄関が開けらると同時に体を滑り込ませ、驚いているおばさんをしり目に勝手知ったる愛美の部屋へと向かった。
ドアをノックし、返事も待たずに声をかけて部屋に入る。
「や、大和くん?!」
愛美はベッドに起き上がって、目を見開いて驚いている。
「良かった、ちゃんと居たんだな。おばさんは頑として会わせようとしないし、ラインも既読になんねーから、ひょっとして入院してんじゃねーかとか、マジ焦ったんだぞ」
俺はその愛しい存在を自分の目で確認して、やっと安心することが出来た。
「ごめんなさい」
「どうだ? 具合はまだ悪いのか? 来週には来れそうか? ごめんな、風邪なんて引かせちまって」
俺としたことが、あの日はいろいろあって、愛美への気遣いが疎かになってしまった。
「ううん、それは違うよ! これは、私の体が情けないくらい弱いせいだもん。お父さんがね、これまでの通学の疲れが出たんだろうって。だから、大和くん達のせいじゃない。・・・・・・こっちこそ、ごめんね! せっかく連れて行ってくれたのに、熱なんて出して。本当に申し訳ないと思ってる。・・・でも、私は一緒に出掛けられて、すごく楽しかったよ。最後に素敵な思い出が出来たって・・・本当に感謝してるのっ・・・」
「愛美?」
愛美は拳をぎゅっと握って、涙をぽろぽろこぼし始める。
「大和くん、今までたくさん親切にしてくれて、本当にありがとう・・・もっと頑張りたかったけど、私が・・・いると、・・・やっぱりみんなに迷惑ばかりかけてしまうから・・・もう学校に通うのは諦めようと思うの」
自分の耳が信じられなかった。
愛美と家族になって、ハッピースクールライフを満喫しようと思っていた矢先のカウンターパンチだった。
「ちょ、ちょ、ちょっと待て!! ちょっと待てよ!! そんな一度風邪を引いたくらいで、大げさ過ぎるだろ!!」
「ううん、そんなことない。この一か月半、学校に通ってわかったの。私、普通の中学生になれたつもりでいたけど、それは大きな間違いだった。私はひとりじゃ何にもできない。これまで通学を続けてこれたのは、ずっと大和くんや鈴ちゃん達が助けてくれたからだもん。みんなが親切にしてくれるからって、甘えて迷惑ばかりかけて。もうこれ以上、クラスの重荷になりたくないの。だって、私、三年一組のみんなが大好きなんだもん」
愛美はすっかり落ち込んでいて、俺が励まそうが慰めようが、聞く耳を持たなかった。
俺が何を言っても、頑なに泣いて首を振るばかり。
あんなに喜んで学校に行っていたのに。
意地を張りやがって。
・・・・・・
あー、もう、しょうがねぇなあ。
「よしわかった! なら、俺も学校に行くのやめる!」




