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罪作りな男3

 とりあえず、こいつらの不安はきっぱり払拭しておこう。


「カツアゲなんてしたことねぇよ」


 俺がはっきり否定すると、河合や河崎、そして川越も明らかにホッとした表情を見せた。

 さて、どうするか。

 金の出所をはっきりさせなければ、奢るどころか、信用を失うことになりかねない事態だ。

 適当にでっち上げるか、それとも、投資で儲けたと白状するか。

 最近は中学生の投資家も増えてきてるから、案外すんなり受け入れるかも・・・かな?

 そこで、ふと思いつく。


「バイトは、・・・知り合いの店のサイト管理者をやってる」


 まるっきりの嘘ではない。

 正式な管理者は親父だけど、頼まれて何度かメンテナンスに入り、小遣いをもらった事がある。


「口を濁したのは、大ぴらにしたくなかったからだ。中学生が管理者をしてるなんてバレたら、店の信用にかかわるだろう?」 


 俺が弁解すると、皆、なるほどと納得してくれる。

 助かった。


   

「じゃ、誤解も解けたことだし、出るか。川越、伝票をくれ」


 しかし、嘘ではないからこその突っ込まれたくない事情があったりもする。

 早々に話を打ち切り、どさくさにまぎれて上手く誘導したつもりだったのだが。


「だめよ。それとこれとは話が別でしょ。みんな、一人ずつ会計してもらうわよ」


 川越は俺の差し出した手を無視して、みんなを引き連れレジへと向かおうとする。



 ・・・・・・



 やってくれるじゃねーか!

 


「大和! 相手は女だ!」


 俺の只ならぬ気配を感じて、河合が制止の声をあげる。

 川越は昔から生真面目で強情な奴だった。

 態度が鷹揚になっていたから、随分成長したもんだなと感心していたけど、本質はやはり変わらないようだ。


「ククッ、ああ、その通りだ」


 しかし、俺にとっては好都合。

 日和見主義な奴に愛美は任せられん。

 だがな、川越、今日のところは悪いが譲ってもらうぞ。

 止めようとした河合の手をすり抜けて、川越を追いかける。

 

「川越、ちょっと待ってくれ」 

「何? えっ?!」 


 経験上、俺は自分の容姿が女に好まれるのを知っている。

 男は女に、女は男に弱いものだ。

 伝票を持つ川越の腕をとって引き寄せた。

 

「俺は、みんなに世話になってるから、礼がしたいんだよ。特に川越、お前には本当に感謝しているんだ。今後も愛美のことでは面倒をかけると思うし、お前になら安心して愛美を任せられる」

 

 川越のような女には、力を誇示するのではなく真摯に頼って懇願するにかぎる。


「だから、これは俺に任せてくれ」


 色仕掛けに固まった川越の手から伝票を抜き取るのは、赤子の手をひねるより簡単だった。






 カゾクヲ・・・ヤメル?


 耳がキーンとして、周囲の音は何一つ聞こえないのに、その言葉だけが頭の中に響いている。


 家族の繋がりはやめるとか、やめないとかそういうもんじゃないだろう?

 この世に生まれて、俺はずっとずっと、お前を探していた気がするのに。

 漸く出会えた魂の片割れなのに、なんで、愛美はわからないんだよ! 

  

「大和くんの気持ちは嬉しいけど、私には返せるものがないから、・・・困る」

「何言ってんだよ。家族なんだから、返す必要なんて、」

「だから! 大和くんの、そういうの、困るの」

「なんでだよ!」


 怒りすら湧き上がる。


「大和くん! 愛美さんは嫌だって言ってるの! 愛美さんに嫌われたいの?!」 


 が、その一方で、俺と愛美は他人で家族じゃない、共にいられる保障なんて何もないんだと頭の片隅で叫ぶ自分もいた。


「愛美さん、大和くんは嬉しくて、つい調子に乗っちゃっただけなの。私がちゃんと話すから。だから、許してあげて? やめるなんて、悲しいこと言わないで? ね? るみ、愛美さんをお願い」


「あ、うん。愛美さん、行こ? 谷口も、行くよ!」

「は、はい!」



 俺は混乱していた。


「大和くん、気持ちは分かるけど、さすがに本物は重いよ」

「俺はただ、愛美に似合いそうだと思ったから・・・」

「中学生がするプレゼントじゃないって言ってるの!」

「今日は愛美が家族になってくれた特別な日だからさ、」


「・・・・・・」


 川越は溜め息をついて、再び口を開く。


「わかった。じゃあさ、パトロンでもあるまいし、なんでもかんでも買ってやるって愛美さんにつきまとうのだけはやめてくれる?」

「なんでだ? 俺はパトロンというか愛美の庇護者なんだ。金だって十分あるんだし、」

「お金の問題じゃないの! 愛美さんは、やめて欲しい、迷惑だってハッキリ言ってたでしょう?!」

「愛美は奥ゆかしいんだよ。なぁ、川越、愛美にどう言えば伝わるのかな、俺達の間柄で遠慮は必要ないんだって」


「・・・・・・」


「あ、あのさ、大和、た、たぶんだけど、高岡さんはプレゼントされることに馴れてないんじゃないかな。人間ってさ、馴れてないことをされると、怖いだろ? 怖ければ、当然逃げたくなる。大和は、高岡さんの気持ちを一番に考えてやるべきじゃないかな」



 河合に指摘されて、目が覚めた。


「そうか・・・・・・そうだよな」


 河合の言う通りだ。

 愛美はまだ卵から孵ったばかりの雛なのだ。




 愛美は俺の謝罪をすんなり受け入れ許してくれたし、やめると言った事も撤回してくれたけど、俺はすっかり怖くなってしまった。


 知らぬ間にまた何か失敗を犯して怖がらせるんじゃないか、無神経な人と嫌われて、愛想を尽かされるんじゃないか、とか。


 傍には行きたいのに、愛美の前でどう振る舞えばいいのかわからない。

 嫌われる要素しか思い浮かばない。

 不安ばかり大きくて、自分の行動に自信が持てない。

 この俺が・・・

 こんなこと、生まれて初めてだった。

 



 しかし、愛美を連れ帰る時間となり、いつまでも隠れているわけにはいかず、うっかり失態を演じないよう気を引き締めて愛美のもとへ向かう。

  

「これ、俺達全員から。パンケーキ奢って貰ったお返しだ。今日の記念になればと思ってさ。受け取ってくれ」


 二人で先に帰るため挨拶すると、河合から袋を渡された。

 開けてみろと言うので、袋から取り出す。


「何だ? スマホケース?」

「うん。高岡さん」


「あ、うん」


 河合に促され、愛美が真新しいピンク色のスマホケースに入った自身のスマホを俺に差し出す。


「あっ」


 それは、俺がもらったスマホケースと同じもので、色だけが違っていた。


「双子なら、お揃いじゃないとな! だろ?」


 河合が気が利くだろとばかりにウインクで合図して寄越す。

 愛美を見れば、照れくさそうに笑っていた。


「愛美、いいのか? 本当に、俺が、・・・その、これを持っても」


「うん。さっきはごめんなさい。私ね、自分だって大和くんにいろいろ無理を言って困らせてるのに、大和くんばかり責めたりするのはおかしいって反省したの」


 本来、俺はフィルムだけ貼ってケースは付けない派だけど、愛美とお揃いなら話は別だ。


「ありがとう、愛美。それに、みんなも」


 その場でケースに収め、お揃いの色違いのケースに入れられた俺と愛美のスマホを並べて眺める。

 並んだ二つのスマホは、まるで俺達のようで、なんともほほ笑ましいじゃないか。

 具現化することで、俺と愛美の不確かだった二人の繋がりが、確かなものへと変わった瞬間だった。

 




 

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