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罪作りな男1

※河合視点

「バイト代が入ったから、俺が払うよ」


 会計の段になって、大和が代金を払ってくれるという。

 俺は、単純に大和がバイトをしてたことに驚いた。

 俺も小遣いが足りなくて、兄ちゃんにバイトしたいと相談したことがある。

 でもその時、中学生で出来るのは新聞配達くらいだから、高校に入るまでは我慢しとけって言われた。


「スゲー、大和、バイトなんてやってたんだ。何やってんの?」


 大和が新聞配達なんてやってるわけないから、うまい話があるのなら俺も便乗したいなーなんて、期待も込めて尋ねたのだけど。


「何って、・・・まあ、いろいろだ」


 大和は口を濁して、教えてくれなかった。 

 大和って、ほんっと!こういうとこあるよな。

 秘密主義っていうのかな!

 ボンバーマンの件だって、どうやったのか結局教えてくれなかったし。 

 あ、もしかして大っぴらには言えないようなヤバいバイトとか?


 ・・・・・・


 バイト代なんて言って、本当は・・・

 いやいや、大和は確かにグレてたけど、そういう卑劣な真似をする奴じゃない。(よな?)

 ただ、大和って奥が深くて、イマイチ正体不明なとこがあるのも事実なんだよな。

 俺達の知らない別の顔を持っていたとしても、全然不思議じゃない気がする。 


「ほんとにいいのか? 全額だと結構な金額だぞ?」

「問題ない」


 しかし、俺は事なかれ主義なので、ここはスルーすることにする。

 俺はさっき高岡さんにちょっかいをかけて大和の不興を買ったばかりだし、ごちゃごちゃ言ってまた機嫌を悪くされるのも嫌だった。 

 

 うん、大和は大人っぽくて部活もしてないから、高校生だって言ってバイトをしているに違いない。

 口を濁したのは、ガラじゃない接客業のバイトで言うのが恥ずかしかったからだ。

 心の中でテキトーな理由をつけて納得していると、女子達がその性格によって四者四様の反応を見せる。


「大和くん、いいよ。私、ちゃんとお金持ってきてるし、自分の分は自分で払うから」

「大和がそう言うなら、甘えちゃおうっかな? サンキュー、大和」

「大和くん、ダメだよ! 奢ったりとか、そういうのは絶対にダメ!」


 高岡さんは遠慮して、調子のいい河崎はのっかり、堅物の川越はごねた。


「不良の間ではカツアゲする事をバイトと呼ぶのでしょうか? 他人から巻き上げたお金で奢られても嬉しくないというか、」


 そして、問題児の谷口は周りの人間を凍り付かせた。

 

 そりゃ、俺だってチラッと思わないでもなかったけどさ!

 大和のことは好きだし、友達だ。 

 だけど、大和の家庭環境や特異な兄妹関係なんかも今日初めて知ったわけだし、付き合いが短い俺は全面的に信頼するほど大和を理解しているわけじゃない。

 

 でも、そんな失礼なこと、本人の前で言う?!

 だが、それが谷口という人間だった。 

 クラス女子に敬遠されて(そりゃそうだろ)ぼっちだった谷口を、グループに入れてやると言った川越を偽善者と呼んだ事もある。

 

 谷口は毒を吐いては相手を傷つけ、周囲にいる人間を嫌な気持ちにさせる。

 川越は二重人格のコミュ障だからしょうがないとか言ってるけど、クラスでこいつは嫌われ者だし、正直俺も苦手だ。

 このグループに入っていなきゃ話すこともなかっただろう。  

 みんなが顔をひきつらせたのを見て、谷口が失敗したという顔をする。 

 

「・・・えっと、私、」

「ガッツリ、大和に毒を吐いてたよ」


 河崎が呆れたように答える。

 川越は気まずそうだ。


「す、す、す、す、すみませんすみません! でも、あの、大和くん、私、思ってません! 大和くんは不良だけど、優しくて、そんな、恐喝とか、本当に、思ってないのに! 私は、ただ、不良の人達って、学校の外では何をしてるんだろうとか、出所がはっきりしないお金は少し気持ち悪いなとか、ほんのちょっと思っただけで、本当に、」

「わかってる。わかってるから、谷口、落ち着け」


 そして、毎度のことだけど、谷口は酷い言葉を浴びせたのは自分のくせに、泣きそうな顔でおろおろ必死に言い訳をしている。

  

「あの、私、頭がおかしいんです! だから、あの、本当にごめんなさい。どうかゆるしてください」

「谷口、俺は、怒ってない。だから、落ち着け」


「・・・はい」


「もう、麻耶ちゃんったら」

「本当に、ごめんなさい」

「いいんだ。俺は不良だし、知り合って間もないお前ら(・・・)がそう思うのも無理はない。誤魔化すような言い方をした俺が悪かった」


 グループに入れた川越すら、度々やらかす谷口を持て余しているのに、おおよそ悪意とは縁がない高岡さんは別として、大和は谷口に寛容だった。

 怒らないばかりか、谷口にいらぬ事を言わせてしまったなと謝って、バイトは知り合いの店のウエブサイト管理者をしていると言った。


「中学生が管理者をしてるなんてバレたら、店の信用にかかわるだろう?」


 大和がシステムに詳しいことはボンバーマンの一件で周知の事実だったから、みんななるほどと納得した。

    

「じゃ、誤解も解けたことだし、出るか。川越、伝票をくれ」


 大和が出した手を無視して、川越は伝票を持って立ち上がる。 


「だめよ。それとこれとは話が別でしょ。みんな、一人ずつ会計してもらうわよ」


 

 

 ・・・・・・ 




 かわごえぇぇぇぇ!!

 ここは当然大和に譲ってしかるべきところだろう!

 大和は谷口の暴言にも怒らないで、穏便におさめたんだぞ!

 これじゃ、男の面目丸潰れじゃないか!

 それでなくても、不良はメンツに命をかけるものなのに!

 お前に言い負かされてスゴスゴ逃げ出すような、クラスの弱っちい男子とはワケが違うんだ!

  

 宙に浮いている大和のカラの手がゆっくりと握られて、拳の形になる。

 やべぇ!


「大和! 相手は女だ!」


 俺は、川越が大和を怒らせてしまったと焦って制止の声をかける。


「ククッ、ああ、その通りだ」

「え?」


 が、大和は口角を上げて笑っていた。

 止めようとした俺の手をサッとかわし、川越を追いかけて行く。

 

「川越、ちょっと待ってくれ」 

「何? えっ?!」 

「みんなには世話になってるから、礼がしたいんだよ。特に川越、お前には本当に感謝しているんだ。今後も愛美のことでは面倒をかけると思うし、お前になら安心して愛美を任せられる。だから、これは俺に任せてくれ」


 大和は俺の想像を超えて、一枚も二枚も上手だった。

 川越の腕を掴んで引き寄せ、鮮やかな手並みで硬直している川越の手の中から伝票を抜き取った。

 




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