初恋こじらせ王子3
そうだよ。
なんで今までわからなかったんだろう。
俺の大切な、大事な家族だ。
こうして気づけば、もうそれ以外のなにものにも思えなかった。
「家族なんだ、心配するのは当然だし、これほど愛美を愛おしく思うのもそのせいだったんだな」
モヤモヤしていた気持ちがどんどんクリアになって、愛美への愛情に変わっていく。
「俺、ワケがわからなくてずっとモヤモヤしてたけど、やっとわかってスッキリしたよ。愛美が可愛いんだ。大切にしたい。お前の望みはなんでも叶えてやりたい。何者からも守ってやりたい。俺にお前を守らせてくれ。愛美は、嫌か? 俺がそんなふうに思うの、迷惑か?」
ますます湧き上がってくる愛しい気持ちを抑えきれなくて、愛美に告白した。
「ううん、迷惑なんて! 私、一人っ子で、ずっと兄弟がいたらいいのにって思ってたし。それに、そういうことなら、少しくらい甘えちゃってもいいのかなって。私、大和くんに世話をかけるばかりで何も返せないでしょう? だから、ずっと申し訳なく思ってて、でも、自分だけだと失敗ばかりで、」
「甘えてくれていい! 申し訳ないなんて、思わないでほしい。家族なんだから。それに、俺、愛美に甘えられるの、・・・どっちかっていうと、好きっつーか、嬉しいっつーか、」
「うん、・・・あの、ありがとう」
「俺のほうこそ、」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て!! ちょっと待て!!」
いいところで邪魔が入る。
「なんだよ」
「家族って! おかしーだろ! 素直に彼女でいいじゃねーか!」
「彼女? 彼女って何だ? 女って意味か?」
「それ以外にあるかよ」
河合は何を言い出すのか。
「馬鹿にするな。女はこの世に山ほどいるが、愛美は一人しかいないんだぞ? 彼女なわけないだろう!」
「なんでそーなるんだよ! 大和は高岡さんのこと好きなんだろ?」
「当然だ。家族だからな」
「だから、その家族ってなんだよ?!」
河合は本当に頭が悪いな。
「家族は家族じゃないか。この世で最も大切にして守るべき者だ。お前にだって家族はあるんだから、わかるだろう? 俺は愛美を心より幸せにしてやりたいと思ってる」
「・・・・・・」
「えっと、高岡さんを幸せにしてやりたいって思うのは恋愛じゃないのか?」
「だから、そういう浮ついた軽い気持ちじゃねぇっつってんだろ」
「でもさ、」
「もう、ごちゃごちゃうるせーぞ、お前は!」
愛美がせっかく快く受け入れてくれたのに、蒸し返して、思い直したりしたらどーすんだよ!
「わかった! わかったから! もう一回だけ確認させてくれ」
「なんだ」
「大和は高岡さんの事を、恋愛対象ではなく実の妹のように思っていると、そう言うのだな?」
実の妹? 美姫のように?
う~ん、河合に念押しされてみると、なんかちょっと違う気がする。
でも、愛美が家族であることは間違いない。
なら、姉か? もっと違うな。
こうもっと離れがたいというか、距離的に近い感じの間柄って何だ?
ここまで出てるのに、あーくそっ、モヤモヤする!
そうか、わかったぞ! 双子だ! 愛美は双子の妹だ!
「そうだ。愛美は俺にとって、双子の妹のように愛しい存在だ」
実の妹と言われて引っかかるものがあったが、双子の妹ならまさにピッタリだ!
俺の片割れ、愛しい分身・・・
ずっと探し求めていたように思う。
俺が己の半身に出会えた感動に浸って、歓喜に打ち震えていると、
「なら・・・高岡さん、もうそれ食べない? 俺がもらっても構わないかな?」
「え? あ、うん」
河合が突然、何を思ったのか愛美の残したパンケーキにフォークを突き刺そうとした。
俺は反射的にその手首を握って止める。
「何をする」
「何って、別に大和の彼女じゃないんだから、いいだろ?」
は?! 何言ってんのコイツ!
「いいわけねーだろ!」
あまりに頭の悪い河合の所業に、ぶん殴ってやろうかと思ったが、愛美の前で暴力をふるうわけにはいかない。
握った手はそのままに、左手にフォークを取り、愛美が残したパンケーキを自分の口に詰め込んだ。
「愛美、純粋培養された愛美にこんなことは教えたくはないけど、男って生き物はな、お前が考えもつかないような汚らわしいことを頭の中に巡らせている悪い虫なんだ。ばい菌が移るから、家族以外の男に餌を与えてはだめだぞ」




