初恋こじらせ王子1
誰が初恋こじらせてるだ!
女と付き合った事くらいあるし、当然ウブな童貞でもねぇ!
俺をネタに遊びやがって、マジむかつく。
たが、まぁ、俺もクラスの連中を利用しようとしているわけだし、どっちもどっちということか。
今後は遠慮なくこき使ってやろう。
しかし、ゴムの件については、マジ助かった。
俺としたことが、すっかり抜け落ちてた。
いつ見られたのか全く覚えがないが、忠告してくれた事に関しては、素直に礼を言いたいと思う。
俺は、男の責任として、ゴムをつけるのは当たり前だと思っている。
だから、いつでも使えるよう財布に入れているわけだけど、中学生が日常的に持つものではないからな。
持ち歩いている時点で、アウトだ。
使っているとみなされてもしょうがない。
もちろん、俺達は付き合ってるわけじゃないから、別に浮気でもなし、責められるいわれもないけど、男の勘として絶対に知られてはならないと思う。
というわけで、ふざけた事を言いふらした河合には、朝っぱらから整理券の争奪戦に参加してもらい、アレはすでに財布から撤去してある。
俺は万全に体制を整えて、駅の待ち合わせ場所で愛美を待っていた。
一緒に来ても良かったけれど、愛美は体力を考えて車で送ってもらうことにした。
川越はすでに来ていて、河崎からはもうすぐ着くとラインが入る。
と、見覚えのある車が目の前で止まり、愛美が出てくる。
出迎えようと一歩を踏み出したところで、俺は固まった。
「おはよー!」
「おはよう、鈴ちゃん、大和くん! 今日は誘ってくれてありがとう! 足手まといだと思うけど、どうかよろしくお願いします!」
「・・・・・・」
愛美はぺこりと頭を下げる。
「いいよいいよ! それより、愛美さん、ひょっとして全身バーバリー?!」
「お、おかしいかな? 私、ほとんどお出かけしないもんだから、着ていく服があんまりなくて。ワンピースよりかはマシかなと思ったんだけど」
「・・・・・・」
「ううん、すごく可愛いと思うよ。ただ、全身コーデってすごいなーと思って」
「あ、うん、それはね、体型的にお直しがあるところじゃないと買えないっていうか、距離的に病院に近いっていうか・・・本当は私も鈴ちゃんみたいに流行のものを着たいんだけど・・・」
「・・・・・・」
「そーなんだ。でも、愛美さんによく似合ってるよ? ね、大和くん! 大和くん?」
「ん、あ、ああ、・・・・・・」
なんてこった!
毛の生えてないひな鳥に毛が生えた!!
イモムシがチョウになった!
鶏ガラみたいだった愛美が、フツーに華奢な女の子に見える!!
なんで?
っていうか、むちゃくちゃ可愛いんだけど?!
「お待たーって、げっ!!」
と、そこに河崎が走って来て、愛美を見て声を上げる。
「やっぱり、ヘンなんだ・・・」
河崎の第一声に、愛美は顔を曇らせ呟く。
「えっと、あの、ヘンっていうか、その・・・」
「ぜんっぜん、へんじゃないよ! ほら、バーバリーって、高いじゃん?! だから、全身コーデに驚いたんだって。そうでしょ?!」
「う、うん! そうなの!」
二人の取り繕ったようなフォローに、ますます不安げな顔を見せる愛美に言った。
「俺は、好きだな」
ヘンどころか、膝丈のスカートや白いブラウスは清楚で愛らしい愛美にとてもよく似合っていたし、何より、上に羽織っている薄手の春コートは体にフィットして、制服みたいにだぶついていなかった。
愛美を鶏ガラに見せる制服は、まじクソだな。
「ほら!」
「本当に?」
「ああ。愛美によく似合っているよ」
ただ、流行りものを着たがる中学生の中において、シンプルで地味過ぎるデザインはブランドばかりが悪目立ちするのは確かで、やっぱり浮いてるみたいと、愛美は俺達の服装と自分を見比べてしょぼんとした。
そんな愛美を三人がかりで宥めすかし、ようやく笑顔が戻ったところだった。
「遅れてすみません! うわぁ~、愛美さん、これ見よがしですねぇ!」
遅れて来た谷口の一言に、愛美はすっかり落ち込んでしまった。
やっぱり、こいつらだけに任せなくてつくづく良かったと思う。
自分達の楽しみを優先させて、すっかり目的を忘れている。
確かに当初の原宿は、修学旅行の買い物に出掛けるついでに、人気のパンケーキを食べプリクラを撮ろうと計画されたものだった。
だが、目的はすでにシフトチェンジしている。
俺達は、急遽旅行に参加出来なくなってガッカリしている愛美を、せめて原宿に連れて行って楽しませてやろうと、やってきたのだ。
なのに、主賓を落ち込ませてどうする!
「愛美、カバンとコートを寄越せ。そんで、こっちを着てみろ」
愛美のカバンはもとから俺が持つつもりだったから、最近愛用の大ぶりのトートーバッグを持ってきていた。
中には、もちろん愛美のお出掛けセットが入っている。
ハンカチ、タオル、ウエットティッシュ、オキシドール、絆創膏、バッテリー、日傘だ。
トートーバッグに愛美の小さな肩掛けカバンと春コートをほうり込み、俺のスカジャンを着せてやる。
バランスを見ながら、黒いキャップも被せてみた。
「これでどうだ?」
「「「おおっー!!」」」
三人から歓声が上がる。
「イイ感じに崩れたね!」
「うん! 良くなったよ!」
「愛美さん、すごくキュートです!」
・・・・・・
三人の評価が上々なのは良かったけど、俺のスカジャンとキャップを身に付けた愛美は、さらに破壊力を増して俺の心臓を鷲掴みにした。
心拍数が上がり、顔に熱がこもる。
慌ててニヤけそうになる口もとを手で隠した。
「でも、私が着てしまったら、大和くんが寒くない? 大和くん?」
上着を脱いでTシャツ姿になった俺を心配して愛美が声をかけてくる。
だが、俺はそれに答えるどころではなかった。
やべぇ、恥ずかしくて、愛美の顔がまともに見れない。
寒いどころか、全身から汗が噴き出していた。
「・・・いや、寒くない。大丈夫だ。それより、ちょっとトイレに行ってくる」
顔を背けながら何とか答えて、心を落ち着かせるために俺はトイレに向かった。




