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納得できない5

※河合視点

 翌朝、俺は大和が荒らしヤローを見つけ出すために、片っ端から生徒を締め上げて聞いて回るんじゃないかと、いてもたってもいられず早くに家を出た。

 大和はやると言ったら絶対にやる。

 俺は、警告を無視した自業自得ヤローが、大和にボコられるのは全然構わない。

 マジ自業自得だ。


 だけど、大和がここで大暴れすると、また一年の時の二の舞にならないだろうか。

 俺は不安になった。

 そして、再び心を閉ざしてしまったら? そんなの、絶対に嫌だ。


 昇降口に着くと、川越と大森とそして康平がいた。

 三人も俺と同じで、掲示板でのやりとりから大和を心配して、学校に早く来たとのことだった。

 とにかく大和が暴走行為に走らないよう止めなければならない。

 四人で大和が登校してくるのを待ち構える。

 

 ところが、しばらくして高岡さんと登校してきた大和は、予想に反して落ち着いているように見える。

 大和が俺達に気付いて苦い顔をした。


「鈴ちゃん、おはよう! アレ? みんな揃ってどうしたの?」

「愛美さん、おはよう! なんでもないよ、たまたまそこで話してただけ。教室に行こう?」


 川越が気を利かせて高岡さんを連れて行く。

 大和は高岡さんが十分離れたのを確認すると、心配をかけて悪かったと謝った。

 俺達は、すっかり冷静さを取り戻している大和を見てホッと一息つくも、大和は売られた喧嘩をすでに買ってしまっている。


「で、どうするんだ?」


 大和は(おとこ)だ。このままにしておくとは、とても思えない。

 それに、俺自身も大和や三年一組がコケにされたままなのは、癪に障る。

 大和を暴走させたくはないけど、何らかの一矢を報いたい気持ちはあった。

 だから、俺は大和を手伝うつもりで尋ねたのだが。


「もう手は打ってある」

「へ? どういうこと?」

「ボンバーマンにDMを送った。今夜にでも掲示板に詫びが入るだろう。もう怒っちゃいねぇけど、誰に喧嘩を売ったのか、きっちりわからせてやらねーとな」

 

 大和はそう言って不敵な笑みを浮かべると、俺達を残しさっさと教室へ行ってしまった。 

 三人で茫然と大和を見送る。


「あの掲示板にDM機能なんてあったっけ?」

「さぁ」

「う~ん」


「仮にあったとして、ボンバーマンをDMで脅したってことかな?」 

「さぁ」

「う~ん」


「でも、それって本人を特定しなきゃ、意味ねーじゃん?」

「さぁ」

「う~ん」


「・・・・・・」

「?」

「?」


 大和の言うことはよくわからなかったけど、こいつらと話していても不毛なことだけはよくわかった。

 話を切り上げ、戻った教室はなんとなくざわついていた。

 掲示板でのやり取りを知っている連中が、大和の動向を窺っているのだ。

 しかし、その日の大和は、クラスメイトの思惑を余所に、高岡さんの傍を離れることはなかった。

 

 夜サイトを開いてみると、大和が言った通り、ボンバーマンから平身低頭な詫び状が掲示板に投稿されていた。

 一体何をどうすればこんなことになるのか。

 ボンバーマンは、一晩で大和の犬となり果てていた。


 


  

「河合、ちょっと来てくれ、頼みがあるんだ」


 数日後の休み時間、大和に呼び出されて相談を受けた。

 掲示板を止めて、もっと直接的に高岡さんのサポートをしてくれる人間とライングループを作りたいという。


「女子のリストアップは川越に任せたけど、男子の方をお前に任せてもいいか?」

 

「ああ、それはもちろんいいけど・・・」


 俺はすぐに承諾したものの、耕輔が言っていたことを思い出し、クラス男子の悩みのタネだった『忖度』について、思い切って聞いてみた。


「あのさ、俺達もさ、高岡さんのサポートに協力したい気持ちはあるんだぜ? だけど、正直どういうスタンスを取ればいいのか、全くわからないんだ。ほら、女子はともかく、下心がなくても、やっぱ大和としては他の男が高岡さんに近付くのは嫌だろ?」 


「嫌? 何でだ?」 


 大和はピンと来ない調子で、俺に問い返す。


「なんでって、好きな子と仲良くされて嬉しい奴がいるかよ!」


 俺達は、余計なことをしてお前(・・)の勘気に触れたくない。

 だって、お前超おっかねぇじゃん!!

 ボンバーマンの一件で、既に証明済みだし。

 大和から聞くなと言われたから、どうやったのかは未だナゾのままだけど、大和は圧倒的な力を見せつけてボンバーマンに勝利した。

 あの時、掲示板は悪者の荒らしをこてんぱんにやっつけた大和にめっちゃ盛り上がっていたけど、内心震え上がっていたクラス男子は少なくない。

 なんかもう、大和と俺達とでは張り合う気も起きないくらい格が違い過ぎる。

 大和は拳を口の辺りにもっていき、考える素振りを見せる。


「う~ん、俺は、愛美を気遣ってくれるなら、男だろうが女だろうが関係ない、歓迎するぜ?」


 ところが、大和は意外な言葉を口にした。


「え? そうなのか? てっきり俺は、大和は高岡さんが好きなんだと思っていたけど」


「どうなのかな、実は俺もよくわからないんだ。でも、愛美に対して感じてるのは、浮ついた恋愛感情というよりは、もっと強迫観念みたいな切羽詰まったやつなんだよ。小さい頃から入退院を繰り返してきた可哀想な奴でもあるし、それに何つーか、アイツって毛が生え揃っていない生まれたての雛みたいだろ? 温めて餌を食わして、世話してやらねーとって。同情なのか、度の過ぎた庇護欲なのか、なんなんだろうな」


 なるほど、大和は小学生の時は弱い者の味方で正義のヒーローだったらしいし、グレる原因となったリンチ事件も、真実は仲間を想っての行動だった。

 もともと、そういう弱きを助け強きをくじく的な?性格なのかも知れない。


「ふーん」


 なら、それほど気にすることはないのかな。


「この気持ちが何なのか俺にはさっぱり見当がつかないけど、気になって離れられないなら、とことんアイツの望みを叶えてやるかと思ってさ。ところが、アイツKYだろ? 頑固だしさ、俺の忠告なんて一つも聞かねぇで、次から次に問題を引き起こしやがる。俺がアイツの尻拭いにどんだけ苦労してるか。でもな、KYなのも頭が花畑なのも、病気で学校に来られなかったからなんだ。むしろ、そんな生活でよくひねくれなかったよな。お前もそう思うだろ? 疑うことを知らないから俺としては心配でしょうがないけど、そんだけ純真なんだよ。アイツが子供みたいに目を輝かせて喜ぶとさ、こっちまで楽しくなるし、特別に美人ってわけじゃないけど、笑うとちょっと可愛いだろ? 川越にはさ、過保護にし過ぎだって言われるけど、その顔見たさにうっかり甘やかしちまうんだよな」



 ・・・・・・



 いや、おめー、それ、ぜってー好きだし。




 

 

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