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学校裏サイト2

 相手(・・)に怒りを向けることによって、俺は影のような不安から逃れた。


 俺に手を出したことを後悔させてやる。

 スマホの電源を落とし、ベッドに投げ捨てる。

 自分の部屋から物置のような狭い親父の書斎に移動し、パソコンの電源を入れた。

 親父は単身赴任で、週末に家に戻る生活をもうずっと続けている。

 何重にもかけられたセキュリティーを外して起動させ、裏サイトへのハッキングをかけた。


 俺の親父は、世間一般の親とはまったく違う。

 河合が俺を凶暴なサイコパスと言ったけれど、それはまさしく親父だ。

 喧嘩で補導された時、母さんに心配をかけた(・・・・・・・・・・)ということで、俺は容赦なく両腕の骨を折られた。


 普通の親なら、喧嘩をしたことを咎めるところだろう。

 だが、親父は違う。

 良心も愛情もないサイコパスの親父は、母さんだけを溺愛していて、善悪の基準も、母さんが幸せになることが善でその逆が悪となる。

 つまり、喧嘩であろうが犯罪行為であろうが、母さんにバレなければ、親父にとってそれは悪ではない。


 それもそのはず、喧嘩もハッキングも情報操作も心理操作も生きる(すべ)だと教えたのは、他ならぬ親父なのだ。

 親父の教育方針は、世間一般の親のように危険なものから子供を遠ざけて守るのではなく、逆に危険なものを徹底的に学ばせて、回避能力を身につけさせるやり方なのだ。

  

 こうして、俺達兄妹(きょうだい)は、まともな母さんとサイコパスの親父に、ダブルスタンダードで育てられたわけだけど、親父は世間や母さんの前では善良な一般市民を装っていて、凶暴なサイコパスの本性を見せることはない。

 そこでふと気づいた。

 あれほど欺くのに長けている親父が、なんで俺達にだけ本性を見せたのだろう?


 こいつのメールアドレスに紐付いたアカウントがいくつもあった。

 いろいろ使い分けをして、遊んでいるようだ。

 全てのアカウントの過去スレを見て、何か本人と特定できるような内容が書き込まれていないか探す。


 しかし、コイツは荒らし用ではない方でも、尻尾を掴ませるようなヘマはしていなかった。

 なるほど、あれだけ挑戦的だったのは、絶対にバレない自信があったからということか。

 河合と違って、用心深い奴のようだ。

 クスリと笑いが込み上げる。

 河合は一発で本人だと分かってしまうようなハンドル名で、悪口を書きたい放題していた。

 アイツはいい意味でも悪い意味でも、開けっぴろげだからな。

 

 しかし、こっちはどうかな?

 今度はツイッターにハッキングをかける。

 同じメールアドレスで検索すれば、また複数のアカウントの登録があった。

 

 一つは公式用、一つは趣味用、残りは荒らし用ってとこか。

 公式用を見ればなんとなくコイツの人となりがわかった。

 しかし、俺が知りたいのはコイツの趣味で、それさえ分かれば見つけたのも同然、会員登録やグッズの購入、リアルに繋がる何かが必ず存在する。





「大和くん、どうしたの? 顔色がすごく悪いよ? 大丈夫?」

「え? あ、ああ、大丈夫だ。ちょっと昨日寝るのが遅かったから、寝不足なだけだ」


 奴の名前はすぐにわかったが、俺はもう、考えない振りをして無視することは出来なかった。

 ネットにかじり付き、心臓病についての記事を隅から隅まで、朝まで読み続けた。

 

「実力テストの勉強とか?」

「まぁな・・・なぁ、愛美、あのさ、・・・聞きたいことがあるんだ」


 ずっと気になりながらも、今まで怖くて聞けなかったこと。


「お前の、・・・心臓の、・・病名って何だ?」


「え? なんで、なんでそんなこと聞きたいの? そんなの、聞いたって面白くないよ?」


 愛美は立ち止まり、怪訝な顔で俺を見つめ、真意をはかろうとする。


「病名がわかっていれば、いろいろと気を付けてやれるだろ? 心配なんだよ。誰にも言わない。・・・それとも、知られたら困ることでもあるのか?」


「そんなこと、・・ないけど・・・」


 しばらくの沈黙の後、愛美は小さな声で原因不明の肥大型心筋症だと答えた。

 俺は、ひとまず胸を撫で下ろす。

 昨日、ネットで調べて、俺なりに愛美の病名を肥大型心筋症と予測していた。

 肥大型心筋症の手術の予後は、悪くない。


「不整脈はあるのか?」


「・・・・・・」


 そう、悪くないのだ、不整脈がなければ!

 祈るように、愛美の返答を待つ。


「ないとは言わないけど、今まで不整脈で倒れたことはないよ。それに、こうして学校に通ってるんだよ? ひどかったら、ここにいないよ。そうでしょう?」


「そうだよな。ひどかったら、医者が止めるよな?! そうか、不整脈はあっても軽いものなんだな。良かった、安心したよ」


 俺は、愛美の言葉を信じた。

 その方が、俺には都合が良かったから。





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