学校裏サイト1
最近は、夜遊びに出掛ける気にもなれず、かといって家にいても落ち着かないので、昔やっていた日課のトレーニングを再開していた。
肉体的に疲労すれば、愛美について頭を悩ませずに眠れるかなと思って。
妹を呼びつけて組手の相手をし、シャワーを浴びた後、もう一つの日課を済ませるために、スマホを手に取る。
佐藤は学校裏サイトに書き込まれた一文がきっかけとなって、虐めを受けた。
問題になったためそのサイトは閉鎖されたが、生徒達の間ではまた新たな学校裏サイトがこっそり立ち上がっていた。
俺はログインして、投稿内容をチェックする。
ネットの力は侮れない。
一晩でそれまでの人間関係を瓦解させてしまうほどの影響力を持っている。
佐藤の例がそれだ。
当初は、掲示板に俺と愛美を馬鹿にするような悪口や、二人の関係を邪推するものがやはり書き込まれていた。
力で口を塞いだから、まぁそうなるだろうとは思っていたから、それは驚かなかった。
とはいえ、勿論、ただの悪口だからとそのまま放置するわけにはいかない。
その影響が必ずリアルの方に現れるからだ。
俺はいろいろ考えた結果、火消しに走るのではなく逆に懐に入ることに決めた。
力で押さえつける方法では、中傷が他の裏サイトへ移るだけだからだ。
それに、誤った情報を流布されるくらいなら、自ら発信して真実を広めた方がよっぽどいい。
俺は三年一組というスレッドを作り、愛美の実情を訴え、クラスメイトの助力を乞うた。
『投稿者:狂犬』
ハートが、今日の掃除の時間に世話になったみたいで、サンキューな。助けてもらったって感謝してた。
『投稿者:狂犬』
ありがとう。ハートの体力測定に付き合ってくれて。生まれて初めて自分の記録が出来たってすごく喜んでいたよ。ボールの投げ方もわからなくて時間がかかったのに、みんな優しくしてくれたって、ありがとうな。
投稿を続けるうちに、クラスの女子が返信を返してくれるようになり、今では俺に期待以上のものをもたらしてくれている。
別行動している時の愛美の様子を教えてくれるのだ。
愛美は、手術によってようやくまともに動けるようになった体が嬉しくてしょうがない。
だから、運動制限がついているにも関わらず、普段からオーバーワークになりがちだった。
様子がわかればフォローをしてやれる。
今日は、下校時に愛美から聞いた『話題』について投稿することにした。
愛美は、休憩時間でのおしゃべりの際、みんなに気を遣われているみたいだと言った。
自分が仲間に加わると部活や学校行事の話はやめてしまい、アイドルやテレビの話、映画や本の話題にすり替えられるのだとか。
『投稿者:狂犬』
頼みがある。多分みんなは、ハートに気を遣って、学校行事や部活の話を避けてくれているんだろうけど、逆にたくさん話してやって欲しいんだ。みんなのことを知りたがっているし、想像力がたくましくて図々しいから、話だけでも自分が体験したように思えるらしいから。
『投稿者:にゃんこ好き』
へー、そうなんだ!
『投稿者:リン』
了解WWW
『投稿者:匿名希望』
りょ!
すぐに、川越達から了承の返事が返ってくる。
それに続いて他の女子からも、続々入る。
返事を返してくるのは、クラスの三分の一ほどだが、閲覧者は少なくとも半数以上いる。
現実のクラスを見ればそれは一目瞭然で、いい方向に流れている手応えは十分あった。
二つの目では足りないところを、四十五十の目が補ってくれれば安心できる。
キラキラ瞳を輝かせて、嬉しそうに部活の話に聴き入る愛美の姿を思い浮かべ、ニマニマしていた時、突然、それが目に入った。
『投稿者:ボンバーマン』
コレナニ?お涙ちょうだいの青春ドラマ???超笑えるんだけど。
ならさ、心臓病の主人公は最後に死ななきゃね(笑)
俺は凍りついた。
頭では、ただの嫌がらせだとわかっている。
なんの意図も思惑もない、ただのからかい、悪ふざけ、ストレス解消、水を差して相手を怒らせて遊んでいるだけ。
なのに、心臓は勝手に大きく鼓動を打ち始め、俺は薄闇に呑み込まれていった。




