第7話 予定調和な不穏分子
第7話
予定調和な不穏分子
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だいぶサザニエルが落ち着いて来た頃、次に行動に移したのが防衛都市ガルツと交易都市サザニエル間の街道の設備向上だ。
サザニエルとガルツの街道は石畳では無くただの土を均しただけなので雨などにより所々凹凸が出来て居たりする。
その為に第四師団の工兵隊と態々軍団長リザールに要請して性格が穏やかな巨人族にトロール族、大鬼族など力自慢の者達を借り受け街道の整備に回した。
そして街道周辺には護衛の部隊を配備して街道の途中、途中には休憩所も建設する予定だ。
こうして魔王軍が慌しく動き出し、わざと都市の巡回兵などを減らし幾つかの路地などを空白地帯にすると予想通り鼠が掛かったと連絡が来た。
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ヴルストは会議室に主だった面々を集めて会議をする。
「ドラーク閣下。予想通り不穏分子が動き出しました。まだ正体までは判明して居りませんが、近々行動に移すかと予想されます」
「そうか。監視する人員を増員させよ。他に怪しい動きをして居る者達は居るか?」
先程までヴルストに報告して居た吸血鬼の将官の横の席に座って居た妖魔族の将官が立ち上がり報告する。
「はい。都市外を監視して居る者達からの報告ですと、この都市サザニエル周辺に最近近隣都市からの偵察部隊と思われる小隊を幾つか発見致しました。どうやらサザニエル陥落の報が届いたらしく慌てて部隊を編成して送り込んで来たようですが如何致しますか?」
「今は捨て置け。近いうちに第二師団が近隣都市に攻勢を掛ける。それで此方に構って居る余裕はなくなるだろう。それにしてもサザニエル陥落はなるべく隠し通して置く予定だったが、何処から漏れたと思われる?」
「はい。多分先程まで報告にありました不穏分子共の仕業でしょう。我々の知らない連絡手段があったのかも知れませんな」
「ならば徹底的に調べ上げよ」
「はっ!了解しました」
命令された将官は立ち上がり敬礼して会議室から出て行く。
「それと流して居た虚偽の情報はどうだ?」
「はい。それについては私から申し上げます」
将官の一人が挙手をして席から立ち上がる。
「聞かせてもらおう」
ヴルストは腕を組み背もたれに体重を預けて居た姿勢から、腕を解き前のめりの姿勢になり手を顎の下にある置いて話を聞く。
「はっ。報告します。まず近隣の都市の領主達にはそれぞれ違う情報を流しました。
西側の都市には近々魔王軍が攻め寄せて来るとの情報を流して軍備を固めさせ、隣接する都市にはその都市の領主が吸血鬼化されて此方に攻め寄せて来るつもりだと情報を流させて、西側の都市で吸血鬼騒ぎも起こさせました。
更にこの都市の領主の偽物を用意してこの都市の密偵の近くで行商人に扮した魔族と偽領主の密会現場を目撃させまして、これと同じような事を此方の都市の密偵にも同じように小細工をした現場を目撃させました。
これにより各地の都市は疑心暗鬼に陥っており、いざ我ら魔王軍が攻め寄せて来たとしても、ろくに連携は取れないと思われます」
「そうか。良くやった」
「はっ。ありがとうございます」
褒められた将官は顔を喜色に染めて恭しく一礼して席に着席する。
それを他の将官は羨ましそうな見つめて居た。
彼らはヴルストを尊敬ないし崇拝して居るので褒められるだけで相当に嬉しいのだ。
その後も色々と情報交換や指示を出してこの日の会議はお開きになった。
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会議から数日後
急報がもたらされた。
サザニエルに向けて近隣都市の内二つから軍が攻め寄せて来たのだ。
数は両都市合わせて計2000の部隊だ。
対してサザニエルに駐屯している兵士は約1000程だ。
殆どの兵士は街道の為の工事やその警備に、残りの者達は休暇を与えて魔族領に帰還している。
勿論そうして不穏分子を炙り出す為だが、まさか近隣都市が攻め寄せて来るとは想定して居た中でも悪い部類だ。
勿論迎撃する事は容易い。
残った1000程の兵士は皆武芸に優れた者達だ。
そして予め配置して兵士達の警戒網に不穏分子達が続々と捕まっていった。
魔王軍が駐屯している都市を僅か2000程しかも殆どが騎馬の彼らで落とす事は困難を極める。
だがそんな彼らが自信満々に攻め寄せて来るのにはやはり訳があった。
それは不穏分子の存在だ。
彼らの正体は捕まえてはっきりとわかった。
彼らは聖輝教会の信徒達だ。
首には聖輝教会のシンボルのロザリオを下げて居た。
何人かで放火をしてその消化作業に専念している隙をついて街門を開けて外の部隊を招き入れる作戦だった様だ。
だがそれは失敗に終わり彼らは全員捕縛され城門が開かず右往左往しているそと騎馬部隊は、竜神族の戦士数名が飛び出し竜に形態変化して焼き滅ぼした。
そして事の首謀者のこのサザニエルの聖輝教会の教会長である司祭長を直ちに捕縛した。
その後の調査で彼らがどうやって外と連絡を取って居たのか?それは教会の地下に秘密の隠し通路がありそれが都市の外にまで伸びて居てそこから外に出て連絡を取り合って居た様だ。
通路は狭く人1人が通るのがやっとの大きさの為に鎧をつけて剣を持っての侵入は難しい為にこの通路からの侵入は断念した様だ。
なので外から騎馬で押し寄せ信徒達が街門をを開けてそこから騎馬部隊が侵入し魔王軍を討伐する予定だったらしい。
だがたかだが一回の都市の教会長が何故2000者軍勢を動かせたのか。それは簡単な事だった。
その2000人全てが聖輝教会の信徒で両都市の領主敬虔な信徒で名誉司祭の称号を賜って居た為だ。
普通ならこんな無謀な作戦を立案、実行しようとしないが、それを可能にしたのが信仰心らしい。
ヴルストは部下に「我々も魔王崇拝者ではあるが、盲目に付き従うだけでなくちゃんと考えて行動をしているのに対して、奴らは『神の名の下に』や『御告げ』と言う言葉だけでどうしてこう盲目的に行動できるのだろうか?」と呟いたとされている。