第5話 お茶会の誘い
第5話
お茶会の誘い
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サロンには吸血鬼の王侯である第二師団の師団長であるミラーゼ・ブラッド少将がソファに座り優雅に紅茶を飲んで居りミラーゼの副官の最上位吸血鬼がソファの後ろに直立不動の姿勢で侍って居た。
「失礼します。ドラーク閣下をお連れ致しました」
「あら、ご苦労様。下がって良いわよ」
「はっ。失礼します」
深々と頭を下げて吸血鬼の男は下がる。
ヴルストはミラーゼの対面のソファに腰を下ろしてその後ろに護衛として付いて来ていた二人の蜥蜴人の兵士二人が直立不動の姿勢で待機する。
ヴルストが座ると目の前に紅茶が用意される。
「久しぶりねヴルスト」
蠱惑的な笑みを浮かべながら、血の様に紅い髪と瞳を持ち、肌は日に焼けた事がない様な陶器の様な白さを持ち、プロポーションは完璧でまさに理想の大人の女性の様な見事なプロポーションだ。
桃色の薄い口から甘ったるい声色でミラーゼは尋ねる。
「ミラーゼ。魅了をやめて下さい。鬱陶しい
ので」
「あら、御免なさいね。つい出てしまったわ。それとミラーゼ姉さんと呼びなさいよ」
ミラーゼが手を振ると魅了が消える。
「ついって。はぁ。……それと姉さんって貴方の方が先に師匠の弟子になった姉弟子なのは確かですけど自分の姉では無いですよ。種族も違いますしね」
「あら、種族は関係ないわよ。我々リザール門弟は皆家族じゃない」
「確かにそうですけど……」
「まあ、良いわ。別に貴方を困らせようと思っている訳ではないからね。それよりもこの紅茶はどう?態々私の可愛い部下が人間に化けてまで調達してくれた高級品よ」
言われて目の前に置かれている紅茶を見て一口飲む。
「美味しいですね」
「そう、それは良かったわ。それにしてもそんな他人行儀な言葉遣いじゃなくてもっと砕けた感じで良いのよ」
「まあ、確かに階級は同じ少将ではありますが、貴女は姉弟子ですからね」
「へぇ可愛いところがあるじゃない」
嬉しそうに微笑みながらミラーゼは紅茶を一口飲む。
「そうそう、多分師匠にはもう聞いたと思うけど今度私の部隊が、貴方が占領した交易都市サザニエルの周りの都市を攻略する事になったの」
「ええ、聞いていますよ」
「なら、話は早いわね。まだ交易都市サザニエルが攻略された事は近隣の都市には知られてない筈だから少し協力してもらえるかしら?例えば虚偽の情報をそれとなく他都市に流すとかしてくれない?」
「ええ、構いませんよ。それでどの都市にどの情報を流して疑心暗鬼にさせる気ですか?」
「まあ、人聞きの悪い事を言うわね。まるで私が詐欺師の様な言い草じゃない」
可愛らしく頰を膨らませるミラーゼにヴルストは溜息混じりに「はいはい。で、どのような情報を?」
「う〜カラミーチェ〜ヴルストが酷いわ」
後ろの副官の女性にミラーゼは講義する。
まるで作り物の様に整った綺麗な顔を困った様に歪めてカラミーチェは「いえ、その、あの…」と、しどろもどろになる。
「ミラーゼ。副官を困らせるものではないですよ」
「わかったわ。御免なさいね。カラミーチェ」
「いえ、大丈夫です」
その後紅茶を飲みながらミラーゼと話し合い陽も傾いて来たので今日は此処に泊まり明日サザニエルに帰る事にする。