第2話 交易都市サザニエル攻略戦・後編
第2話
交易都市サザニエル攻略戦・後編
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「領主様。報告によりますと派遣された近隣の兵士達は無事に鉱山都市に到着され魔王軍と交戦状態に入った様です」
「そうか。今我々の周辺都市は防備が手薄になって居る。より一層の警戒体制を敷く様に衛兵隊長に伝えて来れ」
「畏まりました。その様に伝えて置きます。他には何か御座いますでしょうか?」
「いや、今の所他に火急の要件ない。下がって来れて構わない」
「はい。では、失礼します」
恭しく頭を下げて文官は執務室を後にする。
室内に残ったのは領主と侍女の二人だけだ。
「紅茶を淹れてくれ」
「畏まりました。旦那様」
そう領主が命じた時警鐘の音が都市内に鳴り響いた。
「この音の方向から察するに東門の方からだな」
慌ただしい足音が聞こえて室内に衛兵が一人入って来る。
「失礼します!東門から魔王軍と思われる集団が接近中です!現在隊長の指示のもと防衛体制に移行しました!」
「御苦労。私の館の警備兵達に住民を落ち着かせて回る様に伝えて来れ」
「はっ!しかしそうすると領主様の護衛がー」
「ー構わない。まだ都市内部に侵入された訳ではあるまい。ならば警備兵達にはパニックに陥って居るだろう住民を落ち着かせる為に動いてもらう」
「了解しました」
敬礼して衛兵は警備兵の元へと駆け寄る。
最低限の警備兵を残し他の者達は都市の各所へと散らばり騒ぎを治めに向かった。
領主は念の為に腰に剣を差して自身も陣頭指揮を執る為に椅子から立ち上がった所に都市突如空に火球が打ち上がり、都市の各所から悲鳴と怒号が聞こえ始めた。
そして窓を打ち破り一人の竜人が目の前に姿を現した。
「なっ!?竜人!」
思わず声を出した領主の言葉を侵入者は否定する。
「竜人では無い。竜神族だ」
竜人は見た目が竜を無理やり人型にした者達でその力は竜には及ばないが、魔族の中でも上位に位置する力の持ち主だ。
竜神族はその竜人の上位種で竜の形態に変化出来る暴虐の化身だ。
その代わり竜神族はとても少なく一説では途絶えたのでは?と言われるほどに希少な種族である。
竜神族一人で国一つを滅ぼす力を秘めて居ると言われて居る程に強力な力の持ち主である。
そして領主もその言葉が嘘偽りでも無いことを理解する目の前に現れた偉丈夫の内包する力が桁の狂った領域に達していると本能で理解する。
これでもこの領主は武人として名が知れて居りそこらの魔族には負けない自信があったがそれも一瞬で吹き飛んでしまうぐらいに格が違うと理解し、まるで産まれたばかりの子鹿の様に足をプルプルと震えさせ呼吸も荒くなる。
侍女など失禁までして口から泡を吹いて気絶してしまって居る。
何とか耐えられて居るのは向こうが殺気を放っていないからだろう。
だがそれでもその圧倒的な存在感に心の弱い者達は耐えられないだろう。
それでも何とか領主は武人としての意地で腰の剣を抜き構える。
「この都市を貴様ら魔族共には渡さん!」
言うと同時に領主は剣を上から振り下ろーすよりも遥かに早くヴルストは領主を背中にある大剣を引き抜き一刀両断にする事も可能だが、後の戦後処理などに影響するので峰打ちに抑える。
それでも竜神族の一撃は人間には強力で肋骨を数本に吹き飛ばされ壁に激突した事により腕を骨折に足の骨に罅が入るなどの重傷になった。
ヴルストからすれば領主の動きはまさに止まって見える。
領主が瞬きする暇さえ与えずに自分が一撃を入れられ吹き飛ばされた事に気付かずに視界が暗転して気絶した。
ヴルストの後に続いて領主の館へと侵入した部下達は手早く館内の者達を拘束して行く。
部下に命じて領主を討ち取った事(正確には死んで居ないがこう言った方が早く事態を収拾出来るために敢えてこう言った)を各所に知らせて抵抗勢力を鎮圧して行く。
旗印の領主が滅せられた(と勘違いでは無いが正確でもない)と聞いた衛兵は武器を置き武装解除して行く。
市民は黙って第四師団の師団員の命令に従って一人ずつ名簿に名前を署名して行く。
こうして交易都市サザニエルは魔王軍第一軍団、第四師団の占領下に収まった。