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ゆきずり雑談

作者: 垂氷

 都内某所の駅の傍。


 夕暮れ間近の街の中、足早に歩くは人の群れ。


 西に東に北に南に。手元の携帯見下ろし、もしくは足元睨み、はたまた前だけ見て。


 何を急ぐか、焦るのか。


 追い立てられるように早足で。


 行き過ぎる人の中にいて、その男、ぶらりぶうらりのんびりと、駅へと向かい歩いてた。


 目の下にはのたりと乗った濃い隈が。


 ゆれる身体は細身はあまりにも、器用に木の葉のように人波をくぐってすり抜け追い抜かれ。


 そんな男の向かいから、白髪の男が歩き来た。


 周囲と同じくスタスタと、僅かに跳ねる調子で、男とするりとすれ違う。


 その時僅かに触れた互いの背広の肘に、お互いおやと視線向け、


 ぴたりと足とめ、振り向いた。


「お久しぶりです」


 互いに声かけ、ひと、ふたつ。挨拶交わして、どうせなら、と共に歩き出す。


「最近はどうですか?」


「いやぁ、忙しいね。この景気じゃねぇ」


 軽く近況話しつつ、コンビニ入って、手に取る一升瓶と紙コップ。


「つまみはどうします?」


「あー焼き鳥喰いたいねぇ」


 コンビニ出る手元には、白い袋のビニールが。


 直ぐ近くの恩賜公園へ、足を向けた二人組。


 外灯の明かりが届かぬベンチにて、間をあけて腰掛ける。


 つまみを出して、酒を汲み、掲げて軽く打ち合わす。


「久々の出会いに」


 一気に飲んで、次を注ぎお互いに愚痴を肴に、酌み交わす。


 途中買い足しに出て、瓶二本転がる頃には、互いの頬は赤くなり


 話す言葉も随分と、妖しくなり


 交わす話は段々に、昔語りへと突入した。


「最近は駄目だね、自信が無くて」


「然り然り、昔は儂らでもこうして神にも妖怪にもなれたのに」


「怖がりなのに、逃げ道みつけちゃ誤魔化して」


「昔の人は素直だったからねぇ」


 僅かに届く月明かり、映す影は人ならず


「新しい神が出たのはいつだったか?」


「そんなん、分かるわけもねぇ。この間の会合じゃ、うすらボンヤリ生まれかけが居たっけなぁ」


「ありゃぁ、機械の妖怪か神だろう。意識なんてもてねぇよ」


「人の恐れは怖ろしい。怖くてこわくて、生き物のを下に見る」


「自分たちすら下に見るからなぁ」


「昔は人も神にもバケモノにもしてたのになぁ」


「最近じゃ産まれる影もねぇ」


 映る影は、ウサギとタヌキ。


「狐の奴はスローライフって最近は地方に行ってるんだって?」


「おうおう、そうよ。あいつ等都会は疲れたとさ」


「現代社会は皆疲労してるさ。その証拠に、バケモノ仲間も少なくなった」


「余裕がなけりゃぁ、恐れもしねぇか」


 クック、クックと喉鳴らし、飲み込む酒に管を巻き。


「なんでも理論詰めじゃァ肩が凝らぁな。全く、目新しい物に飛びついて」


「理解出来なきゃしてるふり。周囲に取り残されるのが怖くて恐れて」


「気づきゃ余裕無くしてる。現代人は悲しいなぁ哀しいなぁ」


「生きづらい世の中になっちまったなぁ」


「人が忘れりゃ儂らもただの野良。儂はまだ生きたいよ。まだ数百年しか生きとらん」


「人の不安はもう我らではなく、電子や化学へと向きつつある」


「己の中の不安に気づかずになぁ。儂らにそれを向けて居られた頃はまだ平和だった」


「その気持ち一つで、物や動物を神にもバケモノにも変える力も持つのになぁ」


「自分らの力に気づかず不安ばかりの世の中さ」


「そりゃ、イマもムカシも変わらねぇ」


「そうだな」


「そうだそうだ」


「昔は闇を恐れて」


「今は技術を恐れてる」


「昔は自然を恐れて」


「今じゃ世界を恐れてる」


「人間てのはどうしようもねぇな」


「だが、おかげでこうしてバケモノでいられる」


 ずっと鳴らして、酒を啜って飲み切って、二人はふらりと立ち上がる。


 ゴミを纏め、公園のゴミ箱に放り込み、ゆらりと怪しい足取りで、駅に向かって歩きだす。


「遅くなっちまったなぁ」


「ああ、母ちゃんに怒られそうだ」


 背広から取り出す携帯を見下ろし、確かめため息を。


「いつの時代も、おっかぁは怖えよな。おっかねぇて言うくらいだからな」


「確かになぁ。いつの時代も女にゃかなわん。と、俺はコッチの線だ」


「オレはバスだわ」


 改札口に携帯を押し付け距離取り向かい合う。


「またいつか」


「ああ、いつか」


 手を振り別れる、男たち。


 タヌキはふうらり揺れるように歩き出して独り言つ。


「二百三十年ぶりだったか?」


 人ごみに紛れて消えるその背中。


 見送り、ウサギも歩き出す。


「次まで化け物で互いに居られたらな」


 クッと喉を鳴らして、跳ねるように去っていく。


 会おうの言葉を喧騒にとろかして。

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