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6.中部第七シェルター

 二人の目的地、中部第七シェルターはオズマが眠っていた研究所から車で二、三時間走ったところにある。


「こんなところにシェルターが?」


「ああ。あれがそうだ」


 カミオカが指さす方向を見ると、荒れた原野の真ん中に、ぽつんとコンクリート製の建物がある。一見何の変哲もない小屋なのだが、ここがシェルターの入り口なのだとカミオカは言う。


 錆びついた分厚い扉を開けると、真っ白い埃が立つ。カミオカは部屋の隅に歩いていくと、取っ手のついた床板を一枚持ち上げた。


 床板の下には地下へと続く真っ暗な穴。二人はランプの明かりだけをたよりに、危なっかしい梯子を下りていった。ヒンヤリとした空気に乗って漂ってくる、僅かな水音と人の気配。


 第三次大戦以降、人々は戦火や災害を避けて各地に点在するシェルターに分かれて暮らすようになった。そのうちの一つがここ中部第七シェルターである。

 

 しばらく梯子を下りた後、薄明りの灯った広い空間にオズマとカミオカは降り立った。


「……僕と約束された方というのは、こちらに?」


 オズマがカミオカの顔を見上げる。


「うんにゃ。こっからはこのシェルターの地下水路を通っていくからな、その前に色々と準備もしたいだろ? なに、ここの連中とは付き合いもある。悪いようにはしないはずさ」


「そうですか」


「そうだな……まずはあいつにでも挨拶するとするか」


 地下とは思えないほど活気のあるシェルター内。居住スペースの他にも、飲食店に飲み屋、日用品店が軒を連ねる。


 オズマが興味深げにあたりを見回していると、一人の兵士が駆け寄ってきた。

 

「見ない顔だな! 新入りか? あまり問題は起こさんように――」


 不信そうな目でじろじろとオズマを見ていた兵士だったが、オズマの横にいたカミオカに気づくと、急に態度を変えた。


「ややっ、カミオカさんではありませんか!となるとこの子はもしや……」


「ああ。水路を通っていきたい場所があるんだが、ここに少しの間滞在してもかまわねぇか?」


「もちろんです!」


 びしっと姿勢を直し敬礼をする兵士。


 するとカミオカの姿を見つけたシェルターの住人達がぞろぞろと集まってきた。


「あー、カミオカさん、久しぶり! 今度飲みに行こうや!」

「カミオカのおっちゃん! 約束したブラックホールの話してくれよー!」

「カミオカさん、うちの部屋が雨漏りがひどくって、修理してくれない?」


「あー、分かった分かった! 後でな!」


 カミオカは一通り顔見知りに挨拶を済ませると、逃げるようにシェルターの奥へと走って行った。

 オズマは目を丸くする。


「本当に、知り合いが沢山いらっしゃるようですね……」


「まあな」


 今から数年前、カミオカはこのシェルターに滞在していたことがある。その時の顔なじみが今でも彼を慕っているのだ。


 やがて二人はシェルターの端のひときわ暗く人通りの少ない一角に足を踏み入れた。


 オズマは一つの店に目を引かれた。洋服屋だ。色とりどりの衣服の中に、誰が買うのだろうか、白衣やら防護服やらパワードスーツなんてものも売られている。


 しげしげと売られている商品を眺めていると、金髪の派手な女性がにこにこと近づいてきた。


「いらっしゃーい! じゃんじゃん買っていけくださいね!」


「い、いえ、僕はただ見ているだけで」


 慌ててオズマが否定すると、店主はチッと舌打ちした。


「ファック! 冷やかしかッ!」


「す……すみません」


 たじたじになっているオズマをカミオカが呼ぶ。


「オズマ、何やってんだ、こっちだぞ」


「は、はい」


 オズマがカミオカの呼ぶ方向へと走って行くと、ひときわ薄暗い通路の隅に店のシャッターを上げ、店を始めようとしている人影が見えた。カミオカは足を止める。


 店を開けようとしているその人物は、真っ黒な外套ですっぽりと身を包み、いかにも怪しそうに見える。


「こんな夜から店を開けるんですね」


 こっそりと呟くオズマ。カミオカは答えた。


「まあな、アイツは変わり者だから……」


 カミオカが言うと、外套の男がカミオカの声を聴き振り返った。


「おや、誰かと思ったらカミやんじゃないか。腕の調子はどうだね?」


 不気味に笑う男。その顔は外套にすっぽりと隠れていて、男ということは辛うじてわかるが、年齢や表情はよく分からない。


「ああ、すこぶる良好だよ。自分でもドン引きするくらいだ」


「ククッ、そいつは結構……」


 彼はひとしきり笑うとこう切り出した。


「ところで隣の……お嬢ちゃんだかお坊ちゃんだか分からんが、その子は?」


「実は俺の隠し子……とか言ったらどうする?」


 オズマは呆れ顔をしたが、外套の男は顔色一つ変えずにこう言い放った。


「ほう、そいつは驚きだな。あんたのオタマジャクシからこんなに可愛い生き物が製造できるとは」


「ひでぇなあ。これでも昔はモテてたんだぜ? 子供の授業参観の時なんか、女の子たちが『カミオカのお父さん、超イケメンじゃない!?』とか噂しちゃったりして――」


 熱心に語るカミオカを無視し、男はオズマの顔をじっと見つめた。オズマはびくりと身を震わせる。


「十二年前の英雄、か……。間近で見たのは初めてだが、まさかこんな子供の姿だったとはな」


「……なんだ、知ってたのか」


 オズマはおずおずと切り出した。


「……あの、僕は英雄なんかじゃ」


「いいや、英雄さ」


 男はぴしゃりと行った。


「君は良くも悪くも、この世界を変革したんだからね」


 オズマの顔色が変わる。カミオカは言った。


「おい、その話は振らないでやってくれ。今はまだその時じゃない」


「クククッ、そいつは失礼した」


 男は全く悪びれた様子の無い声でそう言うと、真っすぐにオズマを見据えた。 


「そうそう、自己紹介がまだだったね。私はオコノギ。このシェルターの武器整備担当だ」

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