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5.外の世界

 メサイアによる波動攻撃がオズマとカミオカを襲う。

 衝撃波によって、二人の体は大きく弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。パラパラと、天井から落ちてくる瓦礫。地面に落下したカミオカは、膝をつき、顔をしかめながらも立ち上がった。


「大丈夫か!?」


「はい。ぼくのことはお構いなく」


 オズマが力強い返事とともに瓦礫の中から立ち上がる。カミオカはほっと安堵の息を漏らした。


「カミオカさんは……」


「ああ。俺もなんとか。……しかし、あれを何度も食らったらヤバいな」


 カミオカは渋い顔をした。その足元はまだふらついているように見える。

 見るとメサイアは再び動きを止め、溜めの姿勢に入っている。間違いない。ショックウェーブを再び放つ気だ。


 カミオカは一直線にメサイアへ向かって走り出した。


「カミオカさん!?」


 射撃をかわしながら、カミオカは答えた。


「やるなら今しかねぇ! 奴が『溜め』を作っている間に倒すんだ!」


 カミオカは叫びながら刀をメサイアに向かって振り上げた。刀がメサイアの首の継ぎ目の脆弱な部分にヒットする。メサイアの機体がぐらりと揺らいだ。


「おおおおおおあああああ!!」


 カミオカは渾身の力で刃をメサイアの首に押し込んだ。首の継ぎ目から電気が走る。鈍くなるメサイアの動き。刀の刃が振動し、空気が震える。


 「どぉりゃ!!」


 カミオカはメサイアから刀を引き抜くと、腕を振りぬき、横一閃、再度刀を振りぬいた。


「カミオカさん!」


 オズマの声に、カミオカはメサイアから離れた。

 オズマが銃を構える。その腕からは、光がほとばしっている。オズマの体から発せられる磁力を光線銃の威力に上乗せしているのだ。


「これで終わりです!」


 轟音とともに太い光が発射された。対ロボット専用のオズマの必殺技だ。巨大な磁力の塊が光を放ちながら一直線にメサイアへと飛んでいく。


 閃光があたりを包む。轟音とともに爆炎が上がる。風圧と土煙の中、オズマはゆっくりと銃を下ろした。試作メサイアは、ゆっくりと地面に倒れていく。


「どうやら、倒したようですね」

 

 カミオカは残り二体のドローンを斬り捨てると、オズマへ駆け寄った。


「終わったか……しかし、お前もなかなかやるじゃねぇか」


 額の汗をぬぐい笑うカミオカ。


「自己保存は、我々の責務ですから」


 オズマは涼しげな顔で答える。


「ああ、例の三原則か。何だか硬っ苦しくて俺は好きじゃねぇがな」


 腕を頭の後ろで組みながら言うカミオカを、オズマはちろりと横目で見た。


「カミオカさんも先ほど――」


「あれはお前が動きそうになかったからだろ! 俺だって嫌だったの!」


 カミオカは慌てて弁解した。


 オズマは黙って倒したばかりのロボットに近づいた。

 ロボットはもう動かない。頭に灯っていた赤い光も消え、完全に壊れてしまったようだ。


「そんなことより早く外に出ようぜ。車が外に停めてあるからよ」


「......はい」


 オズマはカミオカの元へと走った。


 ゆっくりと階段を上がる。もうすぐ地上、研究所の外だ。オズマは眠りについてからというもの、何年も外の風景を見ていない。オズマの胸には期待と不安が渦巻いていた。外の世界は果たしてどうなっているのだろうか? 


 それに――オズマを待っている人がいるとカミオカは言った。その人は、いったい誰なのだろう。オズマに会って一体どうしたいのだろうか?




     * 




 オズマたちが研究所から出ると、外はもう夜だった。 

 二人が少し離れた森の中まで歩いて行くと、木の中に隠れるようにして古びた車が停まっている。


「ちょっとばかし揺れるかもしれんが、まあ我慢してくれ。まさか車酔いなんてしないだろうしな」


 車に乗り込みエンジンをかけたカミオカの言葉に、オズマはうなずいた。

 カミオカの趣味なのだろうか。ずいぶん旧式の車のようだが、エンジンは驚くほどすんなりとかかる。


 オズマは窓を開け外の風を浴びた。そよ風がオズマの丸い額をそっと撫で、その心地良さに思わず目を細める。


 外は、驚くほど何も無かった。ここが本当に日本なのかと疑うくらいに。家も、店もビルも田畑も――何もなかった。

 荒涼とした褐色の大地が延々と広がり、生命の気配一つない風景が窓の外を流れていく。オズマは少し不安になった。


「何もなくて退屈か?」


 ふいにカミオカが尋ねた。オズマはハンドルを握っているカミオカの顔を見つめた。前髪が風でなびく。


「カミオカさんは、そう思われるんですか?」


「あぁ。有機物も無機物も、わけ隔てなく一掃されちまって……」


 カミオカはそう言うと、澄み渡る夜空を見上げた。


「でも、その分星は綺麗に見えるよな」


 カミオカの笑顔。オズマは視線を落とした。きっとすべてが終わった、その結末が、これだったのだろう。


「……ぼくが」


「やめろ」


 間髪入れずにカミオカは言った。


「お前の責任じゃないって、何度も言っただろ」 


「でも、皆さんが」 


「人間ってのは何かに責任を押し付けて安心する生き物なのさ」


 カミオカは遠くを見つめた。


「あんな恐慌状態だったら、なおさらな」


 オズマは助手席の背もたれにぐったりと体重を預けながら、車窓の外の夜空を見上げる。輝く満天の星々の間には、深い藍色の闇が広がっていた。

 体を休め、流れていく変わらぬ風景を眺めているうちに、オズマの記憶回路はゆっくりと修復されていった。次々と蘇っては再生される過去の記憶。




 カミオカとオズマが出会ったのは、西暦2234年に始動した、超高速探査機及び人型アンドロイドによる地球外生命探査プロジェクト――通称『クドリャフカ計画』でのことだった。

 オズマはカミオカ率いるプロジェクトメンバーの一員であり、計画の核となる『機械仕掛けの乗組員クドリャフカ


 オズマはゆっくりと、自分がクドリャフカ計画に配属されたばかりの時のことを思い出した。




     


 



「それじゃあ、改めて――はじめましてオズマ、私たちの本拠地へようこそ」


 立ち上がって挨拶する女性。女性の横には、一人の男が座っていた。オズマが来たというのに彼は手元の資料を見たまま顔も上げず、不機嫌な顔をしている。


「ほら、聞かれていますよ。早く自己紹介してください、リーダー」


「うるせぇな、分かってるよ」


 女に促され、男はしぶしぶ立ち上がった。


「俺はカミオカ。このクドリャフカ計画の開発担当主任だ。お前の使命は……もうわかっているよな?」


 これが、オズマとカミオカの出会いだった。


 ……あの夏。


 宇宙工学の粋を集めた船に乗って、オズマは旅立った。あの星空の向こう、遥か太陽系の外へと。

 

 孤独な旅を終えたオズマを誰もが祝福してくれた。空の向こうに見出された、確かな文明の痕跡に誰もが魅入られた。


 だけど――





「そろそろか。乗り心地悪かっただろ。もうちょっと辛抱してくれや」


 カミオカの声に、オズマは我に帰る。


「……はい」


 果てしなく広がる夜空。その向こうをオズマはじっと見つめていた。


 

 

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