3.穴のあいたロボット
「おそらくこの扉の先は非常脱出用の通路になってるはずだ」
カミオカが勢いよく奥の扉を開ける。しかし、中の光景を見てカミオカは頭を搔いた。
「あり? 間違えたか」
ドアの向こうにあったのは、非常脱出用の階段でもエレベーターでもなく、白い壁の広い部屋であった。だだっ広い空間には、年代物の実験器具と何体もの打ち捨てられたロボットがひしめいている。
しん、とした空間に、無造作に並ぶ灰色の鉄塊。ロボットの墓場めいた不気味さが辺りを包む。
オズマは並んでいるロボットたちに恐る恐る近寄ってみた。
ロボットは動かない。もうすでに壊れているか、あるいは失敗作なのだろう。よく見ると頭部に大きな空洞があった。
オズマは思わず後ずさりをする。何だかすごく嫌な感じだ。
「おーい、オズマ、こっちこっち!」
部屋の隅でしゃがみこんでいたカミオカがオズマを呼ぶ。
「どうかなさいましたか?」
「あったぜ! 隠し扉だ!」
カミオカが本棚をどかすと、そこにはまた新たな扉が現れた。
「ずいぶん入念なこって。ほれオズマ、行くぞ!」
「はい……」
妙に足早なカミオカの背中を追って、オズマも扉の奥へと足を進めた。
* * *
――その頃、オズマたちがいる研究所から少し離れたところ、機械油の匂いにまみれた工房では、一人の男が作業をしていた。
ドリルやレーザー、油まみれの工具や機械のパーツが並ぶその部屋で、黒服の男は鼻歌を歌いながら、作業台に横たわるロボットを使い実験をしている。
鳴り響くノックの音。男は無遠慮に返事をした。
「開いてるから勝手に入れー」
ドアを開け入ってきたのは、白いローブを身にまとった褐色肌の美女だった。
「ご主人様、お仕事中失礼します」
優雅な物腰に色っぽい声。ローブ越しにも、その肉感的なスタイルが見て取れる。
「何だお前か」
ご主人様と呼ばれた男は彼女の声を聴くと、男ならば誰もが振り返るようなこの美女に目もくれず、再び作業台に視線を戻した。
「コーヒーならいらねぇっつったろ」
「残念ながら、そんな長閑な話では御座いませんの」
「あン?」
女は真剣な瞳で男に語り掛ける。
「01が移動を開始しました」
男はぴたりと作業をする手を止め、顔を上げる。
研究所で眠っていたはずのETEH-01――オズマが、なぜ今更? そして彼は、一つの結論に至った。
「……カミオカか。面倒臭ぇなァ。大人しく引きこもらせとけばいいものを」
「いかがいたしましょう」
何かを訴えるような、女の潤んだ宝石の様な瞳。長い睫毛のびっしり生えたその奥を、男は覗き込んで笑った。
「ま、俺もあのポンコツとは話をしてみたかったところだ」
男は錆び付いた器具を無造作に机に置いた。
「すぐ支度して出発するぞ、ナイン。お前にも、久々にひと暴れさせてやるよ」
ナインと呼ばれた女も、妖しげな笑みを浮かべる。
「……ふふ。それは楽しみですわ」
男は、その返答を聞くと自らも乾いた不気味な笑みをうかべたのだった。