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2.鍵

 オズマとカミオカが廊下の角を曲がると、そこには鈍く光る金属に体を覆われたロボット警備兵たちがいた。


 ぐるりと頭をこちらに向けるロボット兵たち。頭部のセンサーが赤く光る。


「侵入者――発見」


 機械音声がそう告げると、ロボット兵たちは次々に銃を構える。


「やべっ!」


 カミオカは刀を振り上げると、一振りでそれらを粉砕した。


「ふー……」


 カミオカが額の汗をぬぐうも、休む間もなく、すぐさまこちらへ別のロボットが向かってくるような足音がする。


「オズマ、ちょっと走るぞ」


「はい」


 二人は小走りに廊下を抜ける。カミオカは舌打ちした。


「しっかし、ここはやけに機械どもが沢山いやがんなあ」


「ええ」


 オズマは同意した。確かに、いくら倒しても、その数は減るどころか、どんどん増えているように思える。


「なぜでしょうね。こんなに多くのロボットが――」


 言いながらも、砂埃の中でオズマの目は素早く近寄ってきた敵の姿を捕らえていた。今度は犬のような姿をした四足歩行のロボットが、カミオカの背後から飛びかかってくる。


「カミオカさん、背後に!」


 カミオカは刀を振り上げようとした――が、その前にオズマが相手の頭部を銃で打ち砕いた。


 冷静な動きで相手を仕留めたオズマに、カミオカはにやりと笑う。


「ありがとよ!」


「いえ」


「……しかし、さすがに俺もちょっと疲れたな。ちょっとあの辺の部屋に入ってしばらくやり過ごさねぇか?」


 カミオカの提案に、オズマも頷く。


 カミオカは研究所のIDカードを取り出すと、近くの部屋の入り口にかざした。


 ドアが開くやいなや、二人は転がるように部屋の中に逃げ込む。

 カミオカは盛大なため息をつきながら床に座り込んだ。


「えらく簡単にドアが開くものですね」


「ああ。このカードは偶然手に入れたんだがな。マジで役に立つぜ」


 カミオカがカードキーを見せびらかす。


「セキュリティが厳重なごく一部の部屋以外はこれ一枚で簡単に入れるみたいだからな」


 カミオカはそう言って笑った後、ぽつりと呟いた。


「それにしても、ここに来る時には数体しかいなかったからなんとか撒けたが……まさか感づかれたか?」


「感づかれた? 誰にです?」


 カミオカはその問いには答えず、部屋の中を上機嫌で漁りだした。

 引き出しの中を開けたり、棚の中の物を引っ張り出したりするカミオカを見て、オズマは慌てる。


「ちょっとカミオカさん、泥棒じゃないんですから」


「大丈夫だって! 家探しは探索の基本だぜ!」


「まったくもう」


 あきれ返るオズマ。カミオカは構わず引き出しを漁り続ける。


「それにしてもなんだか熱ぃなー、この部屋は。なんだか息苦しいし」


「エアコンでもつければいいでしょう。換気扇を回すとか……」


 オズマは顔を上げて換気扇の方を見た。


 換気扇の羽は他の部屋とは違いぴたりと止まってしまっている。空気が淀んでいる原因はそれだろう。

 

 オズマは壁についているスイッチを押した。が、換気扇は動かない。


「何か引っかかっているのでしょうか」


 言いながらも、オズマの視覚は換気扇の羽の間に何かが挟まっているのを素早く捕らえた。

 カミオカもオズマの目線の先を追い、羽の間に挟まっているものに気づく。


「んん? ありゃ、カードキーじゃねぇか!?」


 カミオカが言うよりも早く、オズマは椅子を引っ張ってきた。椅子の上で懸命に背伸びをするオズマだったが、換気扇に手は届きそうにない。


「お前じゃ小さいから無理だろ。俺が――」


「小さくありません。机の上に乗れば大丈夫です」


 少しムッとしたような表情で机を引っ張って来ようとするオズマに、カミオカは身をかがめながら言った。


「肩車してやるよ。そうすれば届くだろ」


「え? ……でも」


 狼狽えるオズマ。


「ほれ、早く」


 はじめは嫌がっていたオズマだったが、カミオカがその体制のまま頑として動こうとしないので、観念したようにカミオカに肩車された。カミオカの背中にしがみつきながら、オズマは懸命に手を伸ばした。


 羽に引っかかっていたカードキーを手に取ると、カミオカはオズマを下ろす。


「......ありがとうございます」


「良いってことよ。……それにしても、お前意外と重いな」


「……」


 いたずらっぽく言ったカミオカに、オズマは黙り込む。


「すまん、傷ついたか?」


「ち、違います。......全くもう」


 オズマは横目でカミオカをちらりと見ると、カードキーに視線を移した。


「これは、マスターキーですね」


「なるほど、これがあれば普通の鍵じゃ開かない場所にも入れるってわけだな?」


 カミオカがいたずらっぽい笑みを浮かべる。


「……一体どこに入ろうって言うんです?」

 

 カミオカはその問いには答えず、ふっふっふ、と含み笑いをした。



    *



「着いたぞ、ここだ」

 

 カミオカはマスターキーを使って廊下の一番奥にある部屋を開けた。


「この部屋は……?」


「セキュリティ管理者の部屋さ。正面から出ていくのはやめだ。敵が多すぎる。代わりに裏口からずらからせてもらうぜ」


 オズマはカミオカに続いてセキュリティ管理者の部屋に入った。部屋の中には豪華なソファーと大きな机、そして部屋の奥には、小さな扉があった。


「おそらくこの扉の奥に緊急脱出用の出口があるはずだ」


 オズマは頷いた。いざという時に上官だけでも脱出できるように管理者の部屋にだけ非常用出口がついているというのはあり得そうな話だ。


「だがその前に……」

 

 ニヤリと笑うカミオカ。


「分かりました。部屋を漁るんですよね? 好きにして下さい」


「やりぃ!」


 棚の中を笑顔で物色しだすカミオカ。

 オズマはため息をつくと、辺りを見回した。


 するとオズマは、机の上に置かれていた一冊のノートにふと興味惹かれた。

 ボロボロのページをめくってみる。


  

「この部屋には何もないみたいだな! そっちはどうだ? 何かいいものはあったか?」


 カミオカに背後から声をかけられ、オズマは慌ててノートを閉じた。


「いえ、こちらも何も……」


「そっか。じゃあ、奥の部屋に行ってみるか」


「……はい」


 オズマはノートを机の上に戻し、奥の扉の方へと駆けて行くカミオカの背中を追った。



 記憶回路と情動回路が、きしむ。


 平然を装っていたが、オズマの頭にはノートに書かれてあった一文がどうしても頭から離れない。


 『2248.08.07

 同盟の連中からイカれた注文が舞い込んできた。死体の脳を起動歩兵に転用しろだと? ボスのタカクラとかいう男によれば、人工知能さえ使わなければ条約の穴をつけるって理屈らしいが、そんな馬鹿なこと――』






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