平和は目的、和平は手段。
〜そして終わりを告げた幸せ〜
こちら日の丸部隊、“伍長”。
当部隊、最初で最後の戦死報告をします。
タイラ・カズ中尉、タッグネーム“伍長”
某国の王女の護衛任務中、王女の暗殺を企てた集団と戦闘、これを排除。その後、付近の茂みに隠れていた何者かが放った矢から王女を庇い胸部に被弾。心臓にこそ当たらなかったが、肺を貫いて矢は停止。出血多量、止血を試みるも失敗。王女の避難は完了、数人の衛士に護衛を引き継ぎました。
「伏せろ、王女!」
突き飛ばされた。倒れ込んだところに彼の血が飛び散る。見上げると右胸を矢に貫かれた彼がそれでもまだ銃を撃っていた。撃つ度に傷口から血が吹き出す。
「もう撃たないで!死んじゃう!」
「それでもいい!」
「よくないッ!」
しかし、彼は撃つ事を止めず、私は衛士に敵の死角へと引きずられていった。彼も一旦近くの木の陰に隠れる。胸に刺さった矢を引き抜いた。血が飛び散る。もう彼の傷口から下は真っ赤になっていた。さっきから彼が撃った弾は一発も当たっていない。それほどにダメージは深刻なのだ。私は銃を抜く。散々からかわれた腕だけど、彼を回収する時間稼ぎになれば。撃つ。外れた。撃つ。当たらない。気づかれた。撃つ。当たった。衛士も敵を倒し今度こそ敵は全滅。彼はもう動かない。大きな血だまりに倒れている。もうダメ…そんなことない。そんなことないと何回も自分に言い聞かせる。彼の体を思わず揺さぶろうとしたとき、「王女!…まだ、まだ助かるかもしれない…」その言葉でもう無理だとわかった。彼は、血の中から手をあげた。その手を握る。とても冷たい。氷のように。この手を温めたら彼が治るような気がして、両手で包むように抱き締める。
「ごめん、ミラ。」
彼は私に謝る。彼が初めてみんなの前で私を名前で呼んだ。
「カズ…お願い。死なないで。」
「…ごめん」
彼の頬を涙が伝う。
「お願いだから。」
返事が無い。胸に手を当てる。現実が恐ろしすぎて、何度も何度も強く手を押しあてる。でも鼓動が感じられない。何度名前を呼んでも応えない。確かめるたびに、地に足のつかない恐怖が襲ってきた。
城に戻って部屋で彼を待った。いつもなら、最短の道で私を慰めに来てくれる。ベッドに腰掛けて待つ。いつもより遅いなぁ…子供達に絡まれてるか、この前結婚したばかり衛士たちにのろけを聞かされてるに違いない。しばらくすると、いつもの足音が聞こえる。とても静かで規則的。部屋のほんの少し前で立ち止まる。いつもと同じ。一歩進んでノックを二回。いつもと同じ。「いるよ」いつもと同じ短い返事。ドアが開く。痛々しい包帯を巻いた彼を想像する。でも彼は普通にラフな服を着ていた。まぁ見せるものじゃないか…泣いて目が赤くなった私を見て彼は困った顔をする。
「ごめんね、ちっちゃいカップルに捕まっちゃってサ。」
ほらやっぱり。
「遅いよ。早く慰めて。」
まったく我ながらなんて高飛車なんだ。でも彼は気にした様子もなく、私を抱きしめる。
「っ…」
「あぁごめん痛かった?」
「大丈夫、心配しないで。痛くないよ。」
変なとこで無駄に強がるのもいつもの彼だ。
「ミラ」
「なに?カズ。」
「愛してる」
「どうしたの?」
「なんでもない」
キスをする。
目を開けると、部屋には私一人で、布団の目元が濡れていて気持ちが悪かった。
ウチの隊で戦死者…書類や、何も知らない奴からしたらたった一つの数字の変化にすぎない。けれど、伍長は自分自身の戦死を報告してきやがった。ふざけた奴だ。女好きでロリコン。ノリが軽くてチキン野郎。王女の部屋に行くときに毎回ビビってドアの前で立ち止まるのをみんなが知っていた。そのくせ、敵の司令官の首を切ったときのようにみんながビビることはいつも奴がやっていた。
戦死報告PS
俺のスマホの検索履歴消しておいてくれる?
王女に見られたら困るものばかりだ。
消さねーよ。エロサイトばかりしか見てないお前が、ジュエリーのサイト見てるなんて可笑しくて仕方がない。
ふと鏡を見ると、目の周りが腫れて自分でも誰だかわからない顔になっていた。彼がいたら心配してくれるんだろうな…もう泣き過ぎて目が痛い。
鏡を見たからわかった。ベッドの脇の棚に見慣れないぬいぐるみがいた。目つきの悪い猫。黒い銃と黒い箱を持っている。箱の中には、派手さはないが、綺麗な指輪が入っていた。
左手の薬指に指輪をはめる。
彼の温かさが頬を撫でたような気がした。
「隣の国どうしよっか…カズならどうする?」
猛烈に反省中にございます。