銃と簀巻きとイチャラブ
起きると、まだ空は暗かった。隣で王女が寝息を…ナニしたんだ?思い出せ、あの状況からそうなるか?ちゃんと服着てるしそういった道具も見たところはない。昨日、話を聞いた後…
王女も起きる。
「ヤっちゃった?」
「いや、まだ確証はないっす…」
「私から誘った記憶が…」
「あ、思い出した。」
予想通りのあまりいい気分の話ではなかった。が、次の一言は予想の斜め上をぶち抜いてきた。
「上書きして。」
…はぁあぁあ⁉︎いやいやいやいや、アンタ一国の王女だろ?いいのかそんな簡単に。
「お願い…」
「うん、そこまでは覚えてる。」
俺は王女をベッドに寝かせ、キスをする。
「そこまでは覚えてるんだけど、そこから記憶がない。」
「でしょうね。」
急に王女の体が弛緩する。ちょっとここまで誘っといて寝落ちとか…生殺しもいいトコだよ…まぁいっか。
「あ"ぁー…そうだった。」
王女は頭を抱える。
「まだ外は暗いですよ。」
からかってみる。と、
「じゃあ続きっ」
「ふぁっ⁉︎」
誰にも見つからないように部屋に戻る。個室でよかった…急いで着替える。軍服ではなく野戦服のズボンと黒いシャツ、バックパック。拳銃を一本とライフル一丁、ライフルの予備マグ数個をズボンのポケットに押し込み、拳銃に至っては予備は持たない。ブーツにズボンの裾をねじ込んで部屋を出る。
少し遅れそうになって、ブリーフィングルームに飛び込む。えっ…ちょ、王女様着替えてよっ。昨日と同じ服じゃさすがに…
今日は昨日と違い森の中での戦闘。しかも相手は銃を持っている。二連銃らしいが熟練が操ればかなりの脅威だ。残念なことに今回、敵は全員職業軍人の奴らだという。敵も俺たちの制圧に本腰を入れたようだ。
今回、狙撃班の提案で王女は狙撃班と行動を共にすることになった。敵の大砲への対策だ。それに隠密性と戦闘能力を併せ持つ奴らと一緒にいた方が何かと都合がいい。また、護衛に女性兵士をつけるという条件を付けられた。断る理由はないが、ごめん…なんかごめん…
戦闘開始直後、敵の練度が高いことがわかった。また相手も銃で武装している。厳しいがなんとかなる。大砲も脅威だ。歩兵と連携して厄介な展開をしている。MC51を撃つ。単発で確実に仕留める、というより反動がでかすぎてフルオートが危険なだけだが…ドットサイトのバッテリが切れてしまった。アイアンサイトを使う。左右に敵が動くのが見えた。バディに伝え右を片付けてもらう。そいつがMP7の3点バーストを1マガジン分撃ち込むと右の敵は沈黙したようだ。こちらも敵を撃つ。距離が近くなったからバディには隠れててもらう。10人はいないが全員銃を装備している。一度敵をやり過ごす必要があるな。木の陰に隠れて隙を伺う。バディには第三班の援護に行ってもらった。敵が二手に分かれる。片方が草の深いところに入ったところでもう一方に注意しつつシグザウエルp226で片付ける。そういえば呼びマグ持ってきてないんだった。もう一方が銃声に気づいてこちらに来る。が、もうそこには俺はいない。ヒットアンドアウェイ。基本だ。でかい木の陰に隠れる。MC51に持ち替えて、敵を撃つ。二人外した。撃ってくる。仕方ない…狙撃班からは死角だし…最後のマガジンだから盲撃ちで無駄にできない。どうする…片方がリロードをしている。そうか、奴の銃はリロードに時間がかかる。もう片方はパーカッション式のリボルバーを使っていてリロードが速いがもう片方は…次のリロードが運良く二人重なった。その隙に二連銃の方を撃つ。沈黙。ハンドガンに持ち替えて、リボルバーの奴の目の前に出る。急に現れた敵に奴は躊躇した。撃つ。防具を貫いてヘッドショット。お終い。第三班と合流する。⒎62mm弾を使ってる奴がいるから分けてもらおう。森の中を走る。途中敵と遭遇したがP226で倒した。拳銃弾empty。ようやく合流した時にはもう敵が撤退を始めたと無線連絡が入った後だった。そのまま周囲を警戒しながらこちらも撤収。無線で指示された合流ポイントで全隊集合。戦闘は終了した。
何人かの親衛隊員が負傷したらしいが大事はない。20分で戦闘は終了した。まぁ敵の半分以上が撤退したから撃破数はそれほどでもない。しかし相手はさすが職業軍人。戦術の判断、情報伝達が早い。無線を使っている俺たちよりも早いんじゃないか?ちょっと後々課題になるかもしれない。それに大砲、かなりの精度だ。隊長の班には至近弾もあったらしい。まぁみんな無事だったんだ。もう寝よう。
最初の戦闘から一ヶ月がたった。民兵や多数の兵士はこちら側についたと王女は言っていた。かなりのペースで革命は進んでいるようだ。と、同時に敵も手強さを増している。残存する敵勢力の軍人の割合が高くなっているのだ。同じ人数でも練度の差がシャレにならない。先週も分捕ったばかりの敵拠点が全滅させられていた。民兵ばかりを配置していたせいだ。自分の采配ミスに王女もショックを受けたようだ。十代の女の子にその事実は大きすぎるようだ。しかしそれが戦争でもある。フォローの仕方がわからなかったから、彼女の気が済むまで手を握っていた。
半月後。
俺は傭兵だ何をしているんだ。相手は王女あの時のことも何かの間違いだ。何を期待している。全く俺らしくない。全て等しく無関心が信条なはずではないか…面倒だったでブリーフィングに自分から進んで行っている自分がおかしかった。
「とうとう首都まで戻ってきた。」
親衛隊員や王女は歓声を上げる。街の中心部から北西に7〜8km離れたところに城が見える。まだ、最初の革命の時の傷跡が多く残っていた。単眼鏡を除くと、城の外壁に多数の大砲を打ち込まれた跡があり、左側にあったであろう塔は崩れ落ちていた。それでも、王女は笑っていて、兵士の士気は上がっているのがわかった。それと同時に、首都に入る時の戦闘での戦死者が悼まれた。親衛隊初の死者、よく話すやつだったから俺たちのショックも大きかった。近くにいた第三班の班員に聞いたところ、彼は自分の部下の女性隊員をかばって、敵の銃弾を受けた。庇ったのは彼の娘だった。その時、うちの隊員も被弾したが、その経緯はわからないと言っていた。命に別状はなかったらしいが。
その夜、闇討ちに備えてスリーマンセル20セットで哨戒を行った。今回は親衛隊と傭兵部隊のごちゃ混ぜだ。件の女性兵士がもう復帰していた。もう一人の親衛隊の奴と彼女が同じ班になった。普段はまだ活気付いているであろう街の中を銃を持って歩く。不慣れな場所だが、班員が二人ともこの辺り出身で迷うことはなかった。途中、女性兵士が話しかけてきた。
「そちらの部隊の負傷者なんですが…」
「あいつ?あぁ…そういえば一向に被弾の経緯を話さないんだよね。こっちとしてもうちの隊員に被弾させるほどのやつが敵にいるとしたら脅威になるし教えてほしいんだけどね。」
「いえ、敵の腕とかじゃないんです。父が被弾した後、そこの彼と二人で私を助け出していただいたんですが、」
もう一人が割って入る。これ以上彼女にその瞬間を思い出させるのは酷だろう。
「少尉はその後、少佐を回収しに一人で敵の目の前に突っ込んだんです。彼も被弾し釘付けになったところで僕達も援護に回りましたが、彼は何があっても少佐を離さなかった…」
「…うん、そういうやつだからねー。彼いつもそうだよ。『自分の命を犠牲に』って言うんじゃなくて、『俺なら出来る』って突っ込んでいくんだ。」
「?」
「そん時も誰か『回収は無理』とか言ったでしょ。奴の前でそんなこと言うと『じゃあそれできた俺カッコ良くね?』ってノリでやっちゃうんだ。ほんと馬鹿だよね。」
彼は俺が少尉を非難しているのだと思い込んだらしい。
「…それでも少尉が少佐を回収したことには…」
「いや非難してるわけじゃないよ、むしろ何もせず帰ってきたらぶん殴ってた。そうか。だから何も言わなかったんだ。あいつに今後『大丈夫ですか?』とか、『怪我させてごめんなさい』とか言っちゃダメね。」
「どうしてですか?」
「そりゃそうでしょ。あいつ多分そういう類の言葉かけられたら自分が失敗したって思い込んじゃうよ。あいつほど頭硬くはないけど俺だってそう思う。だって『自分なら出来る』って粋がって突っ込んでったのに結局被弾して助けられるなんて当事者としたら恥だよ。」
「そんな軽いものなんですか?」
「そうだねー。実を言うとサ、俺たちの部隊ってみんなメンタル弱いんだよね。民兵たちよりもずっと、だからこんなところでちょっとでも深く考え込んじゃうとすぐPTSDまっしぐら。だからあえて軽く考えるんだ。俺等からすると君たちの精神力は羨ましい限りだ。ただ…」
そう言って俺は女性兵士をジェスチャで指す。
「君は無理するな。明日は休んだほうがいい。君もだ、彼女についていなさい。」
言い終わったところで無線が入った。
《第6班、不審な人物1発見、声をかけるも第7班の方面に逃走。しっかり確認したわけじゃないが子供だ、紫のコート!》
「こちら第7班、了解。あ、それと隊長、奴の被弾した理由がわかりましたぜ。」
さっき聞いた話をそのまま隊長に伝えて無線を切る。
建物の隙間から何かが飛び出してくる。飛び出してからそいつは俺たちに気がついたようだ。赤?黒?っぽい上着を着ている。
双方に沈黙。
「…ひっ捕らえい!今日の晩飯だぁ!」
言いながら三人全員で襲いかかる。目標はその場で腰を抜かし倒れ込む。そのあとは有無を言わさず簀巻きにして持ち帰った。
拠点に帰ってそいつを開放してやると、ティーンになるかならないかくらいの少女だった。うちの隊員が我先に集まってくる。
「おいお前、被弾はどうした。」
「女の子がいると聞いて。」
「帰れ…いや待て帰るな。聞いたぞ“経緯”。」
「寝ます」
「逃げるな。隊長!こいつ自分から来ました。」
「そうか、お前ら二人ともその子から離れろ、目に毒だ。」
「何もしませんて〜クンカクンカするだけだよ〜」
「俺もただハスハスするだけですよ。」
「帰れ。」
あ、やっべぇ王女様ドン引いていらっしゃる。
「きゃーっなにこの子カワイーっクンクンしていい?」
そうでもなかった。
「王女様…」
少女が口を開く。そして王女に小さな手帳を渡す。
「これは…街の哨戒の配置図!どうしてこんなものが!」
親衛隊の一人が驚いた声を上げる。
「軍人さんが、もうすぐ南から王女が来るから渡してくれって。」
「その軍人さんはどうしたの?あと君黙ってこの子怖がってるでしょ」
「…鉄砲で撃たれました。」
察した。
少女が手渡した手帳には、K・Aとある。「カズヒト…」
「まさか、副隊長⁉︎」
騒つく。それってまさか…処刑されたという…まぁ大した忠臣だな。
結局、そのあとは何も起こらず夜が明けた。
次の日、また次の日と時間は過ぎていくが膠着状態は終わらない。待っててもどうしようもない。
いよいよ今日から城を攻め落とすわけだが、実際もう、俺たちの戦列参加時と状況がそっくりそのまま逆転していて、何重にも城は包囲されていた。敵の軍人は籠城を決め込んでいるようだが、民間人は全て解放されたらしい。俺たちは全員が餓死するのを待つ気はない。王女から、全兵装使用自由の許可が下りた。濃紺の軍服に背の日の丸。それぞれがそれぞれの戦い方に最も合う装備を選んだ。戦闘前の点検。昨日きれいに掃除したから使い始めた時と変わらないくらい綺麗だった。
「全隊、城の四方に展開、一気に制圧しろ。
王家の新たな門出に、栄光あれ!」
戦闘開始。
のちにこの戦いを目にしたものは口を揃えてこう言う。
「圧倒的だ。」
王女は異様な光景を見た。逃げ出した民間人や、近くの兵士、誰も、恐ろしさで声が出ない。これが、自分を守っていた衛士なのか、“守るため”に自分に指一本触れさせまいとして培われた力は、ここまで恐ろしいものだったのか。2人だけ自分のもとに残った衛士も恐ろしい目をしたまま敬礼を続けていた。ここまで離れていても、強すぎる殺気はなんら収まりもせずにここにいるものすべてを飲み込もうとする。怖くて、双眼鏡を覗くことができない。見てしまったら彼等に近付くことすら出来なくなりそうだ。肩に誰かが触れる。見ると女性衛士がいつもの優しげな顔で立っていた。
「安心してください。彼等は戦場に憎しみを持ち込んだわけではありません。目を背けないであげてください。何も恐れることはありません。この力は貴女をお守りするための力、あれほどの力が貴女お一人のためにあるのです。何も恐れることはありません。」
恐る恐る双眼鏡を除く。そこには圧倒的な力で触れるもの、近づくものすべてを破壊するナニカがいた。しかし、彼女の言うように、不思議と恐怖は感じない。
しかし、副隊長の遺した警備の巡回路も意味がなくなってしまったではないか。
もう城に到達したようだ。迫撃砲が姿を見せる。見せると同時にそれを操るための人間が吹き飛んだ。四方に狙撃兵が配備されている。親衛隊で銃の扱いが上手かった二人が日の丸のスナイパーに一ヶ月付きっ切りで狙撃を学んでいた。迫撃砲は結局一発も発射されずに彼らの城への侵入を許してしまった。
程なくして、城の制圧の一報が入った。しかし、まだ来るなと言われた。
いつもふざけている傭兵が、
「あんな屑野郎の座っていた椅子に王女を座らせることはできません」
と言って通信を切った。
しばらくして入城の許可が下りた。最上階、玉座に案内される。一年前に暮らしていた建物なのにとても新鮮な感じがする。胸が弾んだ。それは、国を取り戻した喜びからだろうか、それとも手を引いているのが彼だからだろうか、玉座に座ると、彼は恭しく礼をして私の隣に立った。よく見ると服が全く汚れていない。彼だけではない。親衛隊、日の丸、先頭に参加したすべての人間の衣服が、甲冑がキズどころか砂埃すら付いていないのだ。
「王女の戴冠式に汚れた服で出席するわけにはございません。」
涼しい顔をしてそう答えられた。なんということだろうか。あれほどの戦闘で、私達までが硬直させられるような圧倒的強さで、敵を粉砕したにもかかわらず、服の埃を気にしていたというのか。そろそろお時間です。彼とは反対側にいる親衛隊の隊長にそう言われ、 姿勢を正す。戴冠式は粛々と進んだ。私が王冠を戴いた時は涙ぐむ奴までいた。全く泣きたいのはこっちだよ。あなたたちのおかげでここまで来れた。何もできない小娘の私を信じて命をかけてくれた…
「全員、動くなぁ!」
全く空気の読めない声が響く。全員が入り口の方を向くとそこには、全身に大量の爆薬を巻きつけた男が一人いた。導火線の前で、マッチを擦っている。あの量の爆薬だと、内部で二度も大規模な戦闘のあった建物は耐えられない。
「道を開けろ!」
親衛隊も従うしかない。戦闘ではあれほど強かった彼らも、一瞬で全てが終わるこの状況では何もできない。
男はフラフラと近づいてくる。
「キ タ ナ イ」
一瞬誰だかわからなかった。あまりにおぞましい声だったから。でもそれは彼だった。彼はいつもの彼からは想像もつかないような恐ろしい顔で男を睨んでいた。憎しみだけが溢れ出ている。
「戦場に憎しみや恨みは持ち込んじゃダメなんだ」
いつか彼が言っていたことを思い出す。
「そういう「負」の感情っていうのは普通の感情に比べて強すぎるんだ。絶妙なバランスで成り立っている戦場に、その感情がちょっとでも介入すると、一気に全てが壊れてしまう。」
彼は確かにそう言っていた。
でも、その彼から放たれる憎しみは、何よりも純粋だった。前列にいた兵士から順に体が強張っていく…そうか、バランスなんて関係ない、全てが純粋な憎しみなんだ。日の丸の隊員も焦り始めた。
彼を見ると、彼をみようと思って振り向いたところに彼の姿はなかった。もう一度前を向く。そこには大理石の上に赤い塊が。
「見てはいけません。」
目の前に濃紺をバックに昇る日の丸があった。
「私としたことが、配慮が足りませんでした。なんとか殺ってる所はお見せしないようにしたんですがそちらに集中しすぎました。」
あれは死体だったのか…
「爆弾は?」
「ご安心を、すでに火薬が濡れて爆発はしません。」
何で濡れたのかは言わなかった。
死体の処理が終わるまでの数十分、彼は微動だにしなかった。
そして式は何事もなかったかのように再開した。
式が終わり、会場の隅でうずくまる男が一人。それにニヤニヤしながら近づく女衛士。
「大丈夫?」
「に見える?」
「全っ然見えないっ…あははは」
「笑わないでよ…あぁあ嫌われちゃったなぁ」
「そんな悲観的になるなって」
「だってあの顔見た?元の世界でもあんな顔されたことないよ…」
「うん、だってすごかったもん。怖くて目ェ見られなかった」
「それを王女はまともに見ちゃったわけですヨ…」
「でもまぁ、あぁいう奴がこの後の脅威だね。」
「頑張ってね…ああいうのってほんと手こずるよ…」
「あんたも働くんだよっ。」
「もうやだ!王女に嫌われてもう戦う理由なんてないっ。」
「男がグジグジ泣くなよっ!」
「君は男らしすぎるんだ!」
何事かと何人もの人が集まってくるがやはり王女の姿はない。
結局そのあと一度も王女と口を聞くことなく1週間が過ぎた。
「うわーすごいやつれようww」
「草生やしてんじゃねぇよ」
全く今日に限ってこいつとバディとは…
「もうwwやめてやれよww」
止める(ふりして笑っているのは)やっぱりいて欲しくなかったこいつの彼氏で、こんな状況に追い打ちかけてきやがる。
「あーぁあ…待て、あいつ何してんだ?」
「誰?」
「路地裏に入っていったやつか?」
「ライフル持ってやがった。」
「嘘だろ⁉︎」
「あそこ多分丘への近道になってる…まさか狙撃⁉︎確かに狙えなくはないけどかなりの距離じゃない!」
「追う。セイフティ解除、案内頼む。」
「了解!」
「はい近道のさらに近道〜」
先回りに成功したようだ。しかし、地元はすごいな。
「来た!」
「すごいなドンピシャ。」
彼女は鼻を鳴らす。
「どーします?」
「どうしようねー?」
「撃っちゃいなよ。」
…多分思い出したのはあの一件だ。あれからあの少女はうちで預かっているが、一言も口を聞いてもらってない三人だ。そしておそらくあれもガキだ。
少年は上着から拳銃を取り出す。ニューモデルアーミーだ。銃身が異様に長い。多分狙撃に使うのであれば、弾丸はボールじゃなくバレット、後付けのストックも装着していた。城の見える丘で銃を構える少年。しかしいくらカスタムとはいえ明らかに射程が足りない。何がしたいんだ?単眼鏡でよく見てみる、とその奥の林にライフルの銃身が見えた。ガキはフェイクか!本命との距離35m。拳銃じゃ無理だ。仕方がない。ガキににっこり笑って近づき銃をふんだくる。そのまま構えてスナイパーを撃つ。綺麗に頭にヒットした。ガキはやっぱり簀巻きにして城に連行した。
それから一週間後、王女の護衛で街を歩くことになった。
出掛ける一時間前に王女に呼ばれる。まともに話すのはあれ以来初めてだった。
彼女は思いの外明るく、今日どこに寄るとか何を買うとか、そんなことを話した。
「今日は、あなたのお側にいてもいいですか?」
「もちろんっ」
街へ出た。もちろん危険はある。一応上着の内ポケットにPPK/Sとその予備マグを持っている。しかし、何もないとここまで楽しいのかこの町は…時間はあっという間に過ぎ、俺たちはレストランに入った。そしてなぜかここに簀巻きにされた2人がいる。
「あれって…」
「あのガキどもっすね」
全く…
「あー多分あいつら俺のこと心の底から嫌ってますよ。」
「何したの?」
「親衛隊の某バカップルと共謀して簀巻きにしました。」
「うっそひっどーいアリエナーイ!」
「嫌だって女の子の方はいつ夜襲があるかピリピリしてたときだし、もう片っぽは銃持ってたし…」
「あ、聞いた聞いたあの子から。『今日の晩飯』ってww」
「忘れてくださいな、夜だったから変なノリだったんすよ。」
話しながら注文をする。
「あんな殺伐としてた時にそんな笑い話があったとはねー…」
「ほんっとまぁ一番衝撃的なのは貴女のコスプレですけどねー、俺よりレパートリー多いんじゃない?」
「コスプレって!かなり真面目だったんだよ!」
「士気の維持には存分に力を発揮しておりましたよ。またみたいな…すっごい可愛かった。」
「⁉︎」
ガキどもがこちらに気づいてしまった。
「あー王女さまだー」
「どえすだー」
おい待てガキども、二つ目の呼称は誰に対して言った?
「ドSwww」
「ハイ王女様ツボんなくていいよーガキども帰れ。あとお前」
少年を呼び止める。
「女連れて食事なんざ十年早ぇ」
「…?俺のこと捕まえた時『王女に嫌われたかもー』って泣いてたって本当?」
「…帰れ。」
一通りガキどもにいじられる。くっそ…
食事が運ばれてきた。色々話しながら、食事を終えたところで、
「なんで泣いてたの?」
やっぱり…
「……」
「ねぇ」
「戴冠式で、ついイケナイ方の俺が出てきちゃったようで…」
「あぁ…アレね。怖かった。」
「申し訳ございません。」
「でも私を守ってくれた。いけない貴方じゃない。」
「王女…ありがとうございます。」
「契約破っていいかな?」
「どうしました?」
「名前、教えて。」
「…タイラ・カズ…漢字だと平和って書きます。」
「平和ね…貴方らしい…私はミラ。」
「ミラ、好きだよ。」
…一体何を血迷ったんだ俺は⁉︎
「えっと…私も。」
王女は俺の方に身を乗り出してくる。そして、唇を塞がれた。
長い一瞬は終わった。
「この後どこ行く?」
「案内してください。」
「わかった。ついてきて。」
店を出て、彼女と一緒に街を歩く。無意識に手をつないでいた。しかし、やはり楽しい時間は早くすぎるようで、もう辺りは暗くなっていた。
「あー楽しかったぁ。今度はもっと遠くに行きたいな。」
「遠く…いいですね。東の方。こっちの世界の日本も見てみたいな。」
城に入る直前、王女はつないでいた手を離した。まぁ、わかっていたが…やはり俺は一兵士にすぎない。が、ちょっとからかいたくなった。広い庭の、城から死角になるところまで彼女を連れ込む。半ば強引に抱き寄せキスをする。王女は拗ねたようなことを言っていたが、しばらく俺に抱きついたまま離れなかった。