雑踏
毎日が流れるように繰り返されてゆく。
時間に押し流されて、止まることも出来ないまま
足を踏み出すことでしか 自分を守れずに
僕たちは今日も乾いた海を渡る
ふと足取りを止めてみたくなる
けれどそんなこと出来るはずもなく
また少し歩調を速める
だってもしもそんなことしてみようものなら
そこには間違いなく足取りを止めた僕に憤る自分がいて
無数の冷たい視線と小さな罵声があるのだ。
『そんなに急いで何処へゆくの?』
『そんなに必死に何を目指すの?』
―そんなもの知らない。とにかく忙しいのだ。
―そんなところで立ち止まってると、すぐに置いてゆかれるよ。
そうして僕もまた流されていくのだ
黒い土石流みたいな人の波に
ねぇ知っている?
此処はね海だったんだよ
ヒトはみんな急ぎたがるけれど
ヒトはそんなに速く生きられないんだよ
此処はね広い広い海なんだ
ゆっくり、波に身を任せて
泳いでゆく場所だよ
けれど海は涸れてしまった
此処はもう海ではない
そして乾いた海に流れ出したのは
生くる亡骸たちの真っ黒な河