エピローグ
エピローグ
「それで?」と、一通り話し終えたところで、桐子がたずねてきた。「それで?」
「だから、それだけ」
「抱きしめられてそれだけ?」
「うん、それだけ」
「徳永さん、言わなかったの?」桐子は言った。「あんたのことを、好きとも気になっているとも、言わなかったの?」
「言わなかった」
「あーあ!」桐子は空を仰いだ。「してやられたね」
「何が?」
「あれだけまわりにショウの事が好きだと吹聴しておいて、結局、ショウの方から告白させおいて、自分は何もいわなかっただなんて、しかもギューだけして行っちゃうなんてさあ」桐子は怒っていた。「私なら欲求不満で死ぬかも…」
「でも、徳永さんが本当にわたしのことを好きかどうか分からないし」
「あんた、まだ、そんなこと言っているの?」
「えー…」
「今度会うときは、ちゃんと向こうに言わせなけりゃ」桐子はむちゃくちゃ不足そうだった。
「そう…だよね。うん、そうだね」
「まぁでも、あんたにしちゃあ珍しく行動的だったね。それだけでも尊敬するよ。よかったじゃん、次の道ができてさ。ニューヨークへ行くなら、エイゴ頑張らないとねー」
「うん、頑張ろうと思う」
「すごく上手になって、見返してやりなよ」
「そうするよ」
「次会うときは、秋か。あーニューヨークかぁ。羨ましいなあ」
「ごめんね、一緒に行くって言ってくれていたのに」
「ほんとうだよー」と言いつつ、桐子は嬉しそうだった。
久しぶりにすがすがしい気分だった。
体はいまだぽかぽかと温かく、心は羽のように軽かった。
笑みがひとりでにこぼれた。
徳永さんが座っていた場所は、空のままだったけれど、もう寂しくなかった。
わたしは席にもどると、いつもと同じように仕事を始めた。
<完了>