プロローグ
登場人物紹介
・花家 松
22才のOL。
短大卒業後、都心の大手上場企業の関連会社の経理課で勤務している。
名前が読み間違えられることが、コンプレックス。
恋愛に関してはオクテ。
・徳永さん
松の努めている会社の親会社にあたる、東京一部上場企業に勤務。
イケメンで、絵にかいたような3K。
英語がペラペラで女子に人気が高い。
上海支店から、ニューヨーク支社に移動になる半年の間、
松の努める関連会社に居候することになった。
30才。
・桐子
松の友人で、と同じ会社で働く同期。
短大出身で、松と同い年。
しっかり者。
・津山女史
貿易実務研修をするために、あちこちの関連会社に派遣されている
親会社からやってきたバリバリ系キャリアウーマン。
性格は丁寧で明るい。
TOEIC800点の持ち主でありながら、
松と同じ初心者向けの社内系会話教室に通う。
・山田さん
松の隣の支店に勤める新入社員。
社内英会話教室と、貿易実務研修で、松と一緒になる。
・トクミツ氏
松の所属する経理課の課長。
親会社から天下りしてきた人。
プロローグ
中学生一年の時に、好きな男の子ができた。
名前は同じクラスの神崎君。
席が隣でとても話しやすい男の子だった。神崎君とは、休み時間によくお喋りした。神崎君とお喋りすることはとても楽しかったけれど、その頃は、神崎君のことを「話しやすいクラスメイト」としか見ていなかった。
二年生になって神崎君とクラスが別れて、神崎君のことが好きだと気が付いた。教室が遠く離れてしまって、目で追うだけの日々になった。神崎君と近づくこともできなかったわたしは、当時夢中になっていたロマン小説風に、神崎君への想いを詩にしてノートに書いた。とても好きで好きで、他に気持ちの持って行き場がなかった。
ある日、その詩のノートを祖母が見つけた。祖母は祖父にわたしのノートを無断で見せて、まるで大事件が起ったかのように眉をひそめて話し合っていた。祖父と祖母はわたしを呼んで、目の前にわたしの部屋から持ち出した詩の書いたノートを見せて言った。
「お前のような年頃に異性に興味を持つのは当たり前だとわたしは思いますよ」と、祖母は優しく言う。「でもね、安易に仲良くするのはどうかと思いますよ」
「どうして?」と、わたしは尋ねた。
「どんな家の子か分からないだろ?」と、祖母は言った。
「お前の好きなその男は、どの家の出身なんだ?」祖父が言った。「家柄はいいのか?成績はいいのか?親は何の仕事をしているんだ?」
「…知らない。聞いたことない」と、わたしは答えた。
「付き合っているのか?」祖父は言った。
「ううん、付き合ってなんかないよ」
祖父と祖母は、安心したかのように頷いていた。
「お前の気持ちはよく分かる。でもね、若い頃の気持ちを本気にとってはいけないよ。深い入りしない方がお前のためだ」
「どうして?」と、わたしは再びたずねた。「何で本気にしてはダメなの?」
「お相手っていうものは、親が決めるのが一番なんだ」祖父が言った。「お前は、親が決めた相手と好きになればいい、そうすれば幸せになれる」
「こういった感情は一時のもので、すぐになくなってしまうわよ」祖母はわたしの詩をかたい大切なノートを指して言った。「これは見られたら恥ずかしいから、処分してしまうわね。二度とこんな詩を書くんじゃありませんよ」
祖母はそう言うと、わたしの大事な詩を書いたノートを、たき火にくべて燃やしてしまった。
わたしは祖父と祖母のいう通り、その後二度と詩を書くことはなかった。
それから少し経った二年生になったある日、松は、クラスの男の子からラブレターをもらった。
送り主は松の隣の席の、時々世間話をよくしていたクラスメイトの男の子。手紙は、辞書を引いて一生懸命書いたと思われるような丁寧なものだったけれど、松は何も感じなかった。もともと好きでもなんともない男の子だったので、何でこんなものくれるんだろうという気持だった。手紙の最後には「この手紙をもらったことは誰にも言わないで」と書かれていたが、松は、この手紙は、本気に取るべきものではないと考えた。
松は、これをどうしてよいやらわからず、もらった手紙を友達に見せた。
友達は「何で手紙なんてくれるんだろうねぇ」と言ってクスクス笑っていた。
そのうちその手紙の件は、クラスの男子生徒に知れ渡ることとなった。
彼は、とてもいたたまらない様子だった。
彼は、二度と松に話しかけることはなかったし、松もこの件については、てすぐに忘れてしまった。
<1.淡い恋心 へ つづく>