2.弟とデートで衝撃事実?
遅くなりましたぁ。
窓の外には静かな住宅街、大きな通りから外れ、行き交う車も人も少なく、鳥が自由に遊んでいる。
そろそろ、この景色にも飽きてきたわね。
倉本星子から結婚前の藤堂星子になり、実家に出戻ってきて、一週間。
帰ってきた日には、パパとママ、兄の陽太から、元旦那レンに対する非難と、かなりの痛手を被ったと思われている私への慰めの言葉の雨あられが降りまくった。
でも、弟の空弥だけは相変わらずの冷静さで、私がそれほどショックを受けていない事を悟り、『おかえり』の一言だけだった。
「うん?」
鵜飼い?
結婚前と変わらない私の部屋の窓からは、道路と周りの家が見えるだけ。
のはずなのに、鵜飼いを連想させる景色。
小型犬をリールで繋ぎ、左右に三匹ずつ散歩させるおじさんの姿。
そう、鵜飼いならぬ犬つかい?
で、他に腰に巻かれたリールには、その小型犬達を見張るような動きをする一匹の雑種。
うん?あれは、羊飼いならぬ犬飼い?
「トントン。」
ドアのノック音。視線を窓からドアに向け、「はぁい。」と気の抜けた返事。
この時間、部屋に来るのはママしかいない。
「どうしたの?」
ところが、姿を現したのはクウヤ。つまり、冷静で私の本性を見抜いている弟だ。
「今日、仕事が休みなんだ。」
「あぁ、そうなの。で?」
「ほら。」
クウヤの手から渡されたのは一枚の往復葉書。高校の同窓会のお知らせと書かれている。表書きには、あたしとヨウタ、クウヤの連名。さては幹事が手を抜いたな。
あたし達は三つ子だ。高校まで同じ学校に通い、よく三人でつるんでいた。
「クウヤ、行くの?」
「あぁ、ヨウタも行くよ。」
「じゃあ、あたしも行こうかな。もしかしたら、良い男ゲット出来るかもしれないし。」
「そんな所で出会いを求めないといけないほどになったのか?」
「そうじゃないわよ。友達ならたくさんいるわ。でも、良い男っていないのよ。」
「セイコのお眼鏡に掛かるような?」
クウヤがおどけた笑みを見せる。
「そう。ルックスが好くて、お金があって、会話もそれなりの人。」
「レンは違ったのか?」
「仕方がないじゃない。レンは他の女に子供を仕込んでしまったんだから。」
「レンもバカだよな。新しい女をちらっと見たけれど、どう見てもセイコより良い女には見えない。まぁ、ルックスだけじゃわからないけど。」
「そうね。でも、あの女、むかつくのよ。三人で出掛ける用があったの。その時、当たり前のようにレンの横にいて歩く時もレンにべったり。少しはあたしに気を使って、後ろを歩くとか、レンと距離を置くとか、して欲しいわよね、そう思わない?」
思わず、興奮してしまう。あぁ、思い出すだけでも腹が立つぅ。
「自分のモノだと主張したかったんじゃないか?特に他の女から盗ったという気持ちがあるから余計に、な。」
「それに、ロリータ蛍光ピンクよ。肌の色と合わない真っ白なファンデーションで実際の口からはみ出している真っ赤な口紅。ファッションセンスもないなんて、最悪。レンも趣味が悪くなったわ。」
「じゃあ、セイコを面白い所に招待してやるよ。出掛けよう。用意して。」
「えっ?何なの?急に。」
「憂さ晴らしだよ。三十分で用意出来るよな。じゃあ、下で待っているから。」
「ちょ、クウヤ。」
有無も言わさず、さっさと部屋を出て行ってしまう。
何処に行くのかわからなければ、服も化粧も決められないじゃない。
まぁ、いいわ。無難な格好で行きましょう。淡いベージュのワンピースに濃いグリーンのジャケット。化粧もナチュラルに決め、お譲様風に装えば、大体の所はカバー出来る。それに、男受けも良い。
「お待たせ。」
リビングに行くと、ママと話をしていたクウヤが立ち上がる。
「あら、二人でお出かけ?」
「あぁ、セイコの憂さ晴らし。ほら、家に閉じ籠りきりだったみたいだから、さ。」
「素晴らしい兄妹愛だわ。」
ママが瞳をきらきらさせ、感動している。
何が兄妹愛よ。
「行きましょう。」
「あぁ。あっ、母さん。今夜、夕食はいらないよ。セイコと外で済ませてくる。」
「わかったわ。気を付けてね。」
「行ってきます。」
あぁ、そうだ。あたしとクウヤはタイプが似ているんだ。
良い子、(まぁ、子という年齢でもないけれど。)演じてしまう癖がある。平穏無事でいるために身に付けた装い。
そう。あたし達みたいに綺麗だったりすると、周りからの反感や嫉妬を買い易い。特に同性の。それをいちいち相手をしていたら、面倒臭くて仕方がない。
そこで良い子を演じれば、上からの評価を得て、ある程度守ってもらえるし、反感の度合いが低くなる。
心の中で舌を出しても、そうやって今まで乗り越えてきた。
中には底が知れないと言うヤツもいるけれど、悔しかったら自分もこのくらい綺麗になってみなさい。そんな気分だ。
「クウヤも二重人格ね。」
「自分が二重人格だという意識があるみたいで、よかったよ。」
横顔で微笑み、車庫の前を通り過ぎる。
「ちょっと、車で行かないの?」
「あぁ、そうだ。」
クウヤは普段はしっかりしているように見える。口調も態度も確かにしっかりしているが、時々、すごいボケをかましてくれる。
「で、何処に行くの?」
運転席に座るクウヤに視線を向けながら、流れる景色に視線を向けた。
「とりあえず、カフェ。美味しいコーヒーをご馳走するよ。その後は行けたら映画でも行って、夕食にしよう。学生の頃に行った、あの店でたまにはどうだ?」
「うん。ところで、クウヤ。」
「うん?」
「せっかくの休みなのに、デートする人もいないの?」
クウヤが呆れたように溜息を吐き出す。
「俺がそんなモテない男に見えるか?」
「全然。」
「今日は、一週間も閉じ籠りしているセイコのたまに空けておいたんだろう。あっ、やべ。」
「ふぅん。何だかんだと言いながら、家で一番あたしに甘いのはクウヤなのね。」
「煩い。」
クウヤの耳が赤くなっている。おかしい。
家の兄妹が何だかんだと言いながら、仲が良いのは何でなんだろう?
周りの話を聞くと、一緒に出掛ける事もしないと言う。
でも、あたし達は、たまにだけれど、こうやって、出掛けるし、共通の友達から誘いを受ければ、三人揃って遊びに行く。
「ヨウタが心配しているから仕方がなく。アイツ、今、仕事が忙しいらしくて、さ。」
言い訳っぽい。
でも、確かにヨウタは忙しそう。帰りも遅いし、休日も出社していく。
「そう言えば、ヨウタ、彼女はどうしたの?」
「あぁ、タエちゃんとか言う子だろう。」
「そうそう。タエちゃん。よくは知らないけれど、真面目なヨウタらしい人選。」
「続いているらしいよ。まぁ、最近はデートしている時間もほとんどないらしいけれど。もしかしたら、結婚とかも考えているのかもしれないな。アイツなら。」
「ふぅん。」
一度だけ会ったヨウタの彼女。タエちゃん。
平均的なルックスで平均的な会社に勤め、穏やかな子。確か、あたし達より二歳年下。
「セイコの考えている事を当ててやろうか?どうせ、あんな平均点の彼女で満足出来るのかとか言いたいんだろう?」
「昔から、ヨウタはそう。平均点の女を選ぶの。あたしみたいに綺麗な子には目もくれないの。ほら、高校の時。M女学院のお嬢様。結構綺麗な子にコクられたじゃない。」
「あぁ、あったな。そんな事。」
「ごめんなさいしちゃって、その後に付き合った子、何処にでもいるありふれた子。大根足で、違うな。象の足みたいに足首がなくて、それを気にも留めていない、顔も平均的な子。雑誌で見たようなメイクをして、似合っていなかったわ。あぁいうのは、女優とかモデルとか、綺麗な人がするから綺麗なの。そのくらい、理解して欲しいわね。それなりならそれなりのメイクをすればいいのよ。無理矢理、背伸びをするから、嫌なのよ。自分を見失っているもの。」
「相変わらず、手厳しい発言で。」
クウヤが呆れたように苦笑する。
この流されるような口調、嫌なのよねっ。
「その点はクウヤを認めてあげるわ。まぁ、上の下くらいを選ぶじゃない。確かに素材は平均値でも自分を見失っているような子はいなかったわ。」
「自分はどうなんだ?」
「あら、私は特上を選んでいるわよ。ルックスも経済力も。」
「そうかなぁ。」
奥歯にモノが挟まった口調。
「何よ。」
クウヤを睨みながら、言葉を吐き捨てる。
言いたい事ははっきり言いなさいよ。
「セイコは男運がないと言うか、男を見る目がないと思う。」
「あたしが?」
ありえなぁい。だって、今までの人、全員と言って良いくらい、友達から羨ましがられたわ。
「最初のトモは別としても、十九歳の時は女形フィギュア・アニメオタク。二十歳、暴力男。二十一歳、浮気男。二十二歳、見栄っ張り苦学生。二十三歳、ホモ。二十四歳でレンを捕まえたが、二十九歳で出来ちゃった離婚。見た目だけで選ぶから、そうなるんだよ。」
「ぐぅ。」
言葉が出ない。
確かに、中身はロクでもない男ばかりだ。
その中でもレンはまともだと思っていたんだけれど…。
「嘘泣きしてもばれるから。素直に認めなさい。次から考え直せば良い話だから。それに、本気で好きだったヤツなんていたのか?」
「それって、どういう意味よ。」
クウヤを横目で睨む。美人の睨みは怖いというが、クウヤには慣れた事のようだ。気にもしていない。
「そのままだよ。」
「…。」
ううん、違う。
それなりにその時は、彼を好きだった。
ただ、欠点が見つかると、一気に熱が冷めただけよ。
「さぁ、着いたよ。行こう。」
「えっ、あっ、うん。」
駅前の平面駐車場。実家に近い場所で、よくあのマンションから来る時に利用していたし、レンの会社もこの辺り。
「この辺にカフェなんて呼べる場所、あったかしら?」
「いいから。」
何か秘密めいた笑みを浮かべるクウヤ。仕方がなしに、横を歩き出す。
道を歩くと必ずと言って良いくらい、たくさんの人が振り返る。
まぁ、あたしが綺麗だからだけれど、隣に恋人やレンがいる時は女性も目を留める。
特にヨウタとクウヤ、三人でいる時は、視線は倍増する。
ヨウタとクウヤはタイプが違う。
ヨウタは会社にいたら絶対不倫をしたいタイプと言われ、クウヤは白馬に乗った王子様と影で言われている。
何で不倫なのか?ヨウタ本人は不倫するように思えないが…。
何より笑えるのがクウヤだ。実際に白馬で現れたら、彼女達は手を取るのだろうか?
あたしなら、ムリ。だって、今の時代に白馬に乗った王子様が家の前に来る時点で、ひく。せめて、ポルシェとかで来て欲しい。その方が何ぼ現実味があるか。
「何、一人で笑っているんだ?気持ち悪い。」
「だって、白馬の王子様と歩いているって思ったら、笑えるぅ。」
「白馬の王子様、ね。」
クウヤが呆れたように呟き、空を仰ぐ。
「ほら、ここの地下だよ。」
「ここ?」
白い壁が黄色く変色したビル。地下に続く階段は薄暗く、入ってはいけない気持ちにさせる。横の店の一覧みたいな看板に目が止まる。地下には店が一軒。メイド・カフェとなっていた。
「クウヤの趣味?」
「まさか。同僚に一度だけ連れてこられたんだ。セイコ、一度も来た事ないだろう。話題作りに丁度いいだろう。」
「女が行っても平気なの?」
「もちろん。」
ちょっとだけ興味があるけれど、少しだけ怖い気がする。
クウヤの腕を掴んで、踏み締めるように階段を降りていく。
趣味の悪い、ドアが一つ。自動扉が開き、そこには目を背けたくなるような気恥ずかしい世界。
ミニスカートのメイド服を着た女性が、甘い声であたし達を迎えてくれる。
美人ではないが、平均並みの女の子。
ピンクと白を基調にした店内、はっきり言って、あたしの好みじゃない。
「お帰りなさいませ。お主人様、お嬢様。」
「レンカちゃん、いる?」
「はい、こちらへどうぞ。」
安っぽい白いソファー。周りを見回すと、メイドの格好をした人と楽しそうに話をしている人、食べ物を口に運んでもらっている人も。
何なの?この世界は?ありえなぁい。
「クウヤ、これだけなの?」
「まぁ、何か飲むだろう?」
「じゃあ、温かい物がいいな。そうね。カフェラテでいいわ。ケーキとはいらない。」
「そんなにゲンナリするなよ。これからもっと面白い事があるから。」
テーブルに置かれた小さなハンドベルを鳴らすと、先ほどのメイドが出てくる。
「ほっとカフェラテとほっとコーヒー。」
「かしこまりました。」
彼女はクウヤを真っ直ぐに見つめ、微笑む。
あぁ、あの熱い視線。クウヤが気になるのね。
「この奥には秘密の小部屋があるんだ。」
「秘密の小部屋?」
クウヤがあたしの耳に唇を寄せ、話し始める。
彼女の視線が刺さるようだわ。
「そう。特別メニューでピンクな事をしてくれるサービスがあるんだって、さ。」
「よく知っているわね。」
クウヤを見上げながら、溜息混じりに呟いた。
本当に常連なの?
「俺はそんなサービスにお世話になるほど、渇いちゃいないよ。同僚がお気に入りの子がいて、秘密の小部屋に行くんだと。そのお気に入りの子がレンカちゃん。」
「ふぅん。なるほどね。よっぽど渇いているのね。少し分けてあげたら?」
クウヤが苦笑交じりに髪を掻き上げる。
「お帰りなさいませ。ご主人様、お嬢様。」
彼女と入れ違いにやってきたのは、マスカラと化粧でのっへらした顔を誤魔化している、メイドと言うか…。
あれ、何処かで見た事があるような…。あっ。
「レンの!」
彼女も驚いた顔をしているが、あたしだって驚いている。
何でこんな所で働いているわけ?レンと結婚したんじゃないの?
「まぁ、そこで驚いた顔をしていないで、座ったら。メイドさん。」
クウヤ、知っていたのね。
横目で睨みながら、無言の訴えをする。
「はい、失礼します。」
動揺を消し去り、コーヒーをテーブルに置き、クウヤの横に座る。
馴れ馴れしくクウヤに障るなよっ。
「お砂糖とミルクはどうされますか?」
よく平然とお店のマニュアルをこなせるわねっ。
レンは騙されていたのかしら?
「いらないよ。」
「はい、ご主人様。」
何がご主人様よ。
この仕事自体をやるのは、一向に構わないわ。
でも、レンの新しい妻がこんな事をしているなんて許せないっ。
「レンカちゃん。いつもの常連さんは来ていないの?」
常連さん?こんな女に?
「えっ?」
「ほら。前に黒縁眼鏡を掛けた、いつも濃紺のスーツ着たレンカちゃんを気に入っている男と来たんだ。わかるだろう?その時に、レンカちゃん、奥の小部屋にいて、指名出来なかったんだよ。それで、ここに来てくれた子に聞いたら、超リッチな常連さんの指名だって、言っていたから。」
「あっ。」
レンカ、絶対にこの女の本名じゃない。
まぁ、あえてレンカと呼ぶけど、レンカは驚いた顔を隠すように口を手で覆った。
「何が言いたいの?」
レンカは真顔でクウヤに視線を向ける。
「別に。今日は指名出来たから、聞いてみようと思っていただけ。」
「嫌がらせ?わざわざ、こんな所に来るなんて?確かにレンの子供はお腹にいるのよ。」
今度はあたしを睨み付ける。
冗談じゃないわ。アンタがこんな所で働いているなんて知らなかったわよっ。
「他の女のモノになった男には興味がないの。それに、レンが貴方で満足するとは思えないわ。せいぜい、捨てられないようにする事ね。なんなら、ご主人様を鎖で繋いでおけば。」
レンカは唇を噛み締め、言葉を飲み込む。
多分、これ以上言い合いになれば、騒ぎになるし、負けを認めたのだろう。
「行きましょう。」
あたしは立ち上がり、クウヤに帰るように促す。
「もう、他の男がいる人に何も言われたくないわ。たった、一週間よ。それともその前からいたのかしら?」
小声で言葉を吐き出すレンカを睨み付けた。
「まるで尻軽女みたいに言われたくないわね。身体を張ってしか男を騙す事も出来ない女に。言う必要なんてないと思うけれど、彼は私の兄妹なの。じゃあ、さようなら。せいぜい、お幸せに。」
言葉を投げ捨て、店を出る。本当は逃げ出したい気分だけれど、堂々と威圧的に。
外に続く階段を上がると、眩しいほどの日差し。一瞬だけくらっとするが、すぐに持ち直す。
「何を考えているの?クウヤ。」
クウヤを睨み付け、足を止めた。
「口直しにお茶しよう。」
「ちょっと、クウヤ。」
「そこで話そう。」
駅前の普通のカフェに入る。窓際の喫煙席に座り、ホットカフェラテを差し出された。
「ありがとう。」
「彼女がレンの相手だと確信がなかったんだけれど、やっぱり、そうなんだ。」
「どうして、レンの相手だと思ったわけ?」
「あぁ、さっき言っただろう。超リッチな常連。つまり、それがレンの事さ。」
「レンがあんな店に?」
「メイドみたいに、自分に従順な子に萌えって、なったんじゃないか?」
言われてみれば、そんなところがあった。下手に出られると弱いというか…。
確かにあたしは従順ではなかったわね。
「で、秘密の小部屋で子供を作っちゃったって事?」
「いや、何か噂だと秘密の小部屋ではそこまでしてはいけないと言うか、見張りのシステムがあるらしい。」
「なるほど。外でも会っていたのね。」
「あんなに上玉の客なら、そこまでするだろうね。」
頭が痛くなってきた。
あぁ、やっぱりレンもバカだったのね。そういう場所で出会った女に熱を上げるなんて。
従順なのは商売であって、客にじゃないのに…。
まぁ、関係ないけれど、ね。
「お母様に告げ口すれば壊れるかもしれないよ。あのお母様が許せるはずがないだろう。」
「そんな余分な事しないわよ。レンの好きにさせるわ。痛い目を見るのはレン自身だし、そんなに長く続くとは思えないわ。だって、彼女の従順は明らかに嘘っぽかったもの。」
「確かに、その通りだ。じゃあ、セイコはレンに未練がないという事だね。」
「当たり前でしょう。」
クウヤがにっこり笑い、コーヒーを口に含む。
何がやりたかったのか、さっぱりだわ。
「じゃあ、映画でも行こうか?」
「夕食は美味しい物をお願いね。それと、支払いはクウヤ持ちよ。」
「はい、はい。お嬢様。」
クウヤが立ち上がり、歩き出す。バッグを持ち、あたしも後を追う。
あっ、そうか。もしかして、クウヤはあたしが、レンに未練を残していると思い、未練を断ち切れるように振舞ってくれたのかもしれない。あたしがそんな弱い女だと思ったのかしら?でも、ありがとうね。
そっとクウヤの腕に自分の腕を絡め、顔を見上げ、微笑んで見せた。最高に綺麗な笑顔。