呪い天使 50 エピローグ 『最後』
呪い天使50 エピローグ『最後』
伊藤・・・
実に8年ぶり。
8年たってもその顔つきは変わることがなかった。
大人になったけど、顔の基本的作りは全く変わっていない。
「・・・三日月・・・・・!?三日月・・・だよねっ!?」
私は伊藤の体全体を見渡した。
多少痩せている。
そして表情は全体的に暗くなっている。
「久しぶりー!・・・覚えててくれたんだ・・・!嬉しい・・・!」
「久しぶり・・・・・ホント・・・忘れるわけねぇーだろ・・・」
「・・・ここで立ち話しすんのもアレだしさ・・・ウチ来ない?」
「・・・・・あぁ、うん・・・暇だから行くよ・・・」
私たちは私の家に向かって歩き始めた。
もちろん事務所ではない。
もっと、20代女子らしい、生活感に満ちた家だ。
仕事場は・・・・・・いや、ある意味生活感に満ちているかもしれない・・・。
歩きだして初めの第一声は、『バック忘れた!』だった。
身振り手振りのリアクションをとってしまったが伊藤は笑ってくれた。
笑いがとれたので良しとしよう。
会話は尽きることを知らなかった。
この空白の8年間を何していた、とか。
私も伊藤も仕事については語らなかった。
そしてお互いに、今の話をしなかった。
ついに私は都宮と上前のことも伊藤に話した。
伊藤は安心した様子だった。
表情が一気に明るくなっていたのだ。
気分がよくなったのか、伊藤は嬉しい報告を私にしてくれた。
「母さんがさ、病気治ったんだよ!」
私にはそれが嬉しすぎた。
この年にもなって大きくジャンプした。
もちろん周りにだれもいないのを確認した後。
「で・・・お金の方は・・・どうなの・・・・?」
「・・・・・」
少し伊藤は黙った後、口を開きはじめた。
伊藤がそれを語るまでに時間がかかったので私はとても申し訳なくなっていたのは言うまでもない。
「まだ・・・返済が終わらないんだ・・・。実は今・・・借金取りに襲われているんだ・・・」
さらに話を聞けば今本当に借金取りと戦う毎日で、母は借金取りに知られることなく兄弟のいる田舎に逃げているそうだ。
――――伊藤は母に以前伊藤と鈴科のやりとりを全て話したともいう。
それを聞いた母はすべてを受け入れ、病気がすぐに治ったのことだ。
伊藤は借金を返すために精神的にも体力的にも辛い仕事をしていたのだ。
私が漫画家になって裕福になっている間、ずっと・・・ずっと・・・。
伊藤の母も内職をして、少しずつ返済を手伝っているのだ。
しかし伊藤のその痩せた体は私には少々痛々しかった。
やはりそれだけの借金をしていたのだろう。
「でも、今結構困りものでさ・・・。もぅ仕事が危ないんだよね・・・色々事情があってさぁ・・・」
「え・・・あ・・・私さ・・・結構・・・お金・・・あるけど・・・」
「あ!それは大丈夫だよ・・・。うん」
「え・・・でも・・・」
話はすぐに切り替わった。
伊藤がとっさに替えたのだろう。
少々話題が暗くなっていたが、そのおかげですぐに明るくなった。
家に着いた。
自分でも驚くほど女子の一人暮らしに最適なオシャレなマンションだ。
オートロックを解除して、私は部屋を案内した。
私たちは部屋に入ってお茶を飲んだ。
部屋は、普段使ってないため綺麗なままである。
仕事場に連れてこなくて大正解である。
「でさ・・・今日何で編集室に来たのぉ?」
「それは・・・いつも寝ている公園で雑誌が偶然落ちていたんだ・・・。そしたら三日月由奈、って!」
「・・・公園・・・あ・・・そっかぁ・・・・・・。あ!・・・・・・・漫画、初めて見たんだね・・・!あれ、結構すごかったんだよ?自分で言うのもアレだけどさっ」
「いやいや!ホントにすごいみたいだね!ビックリしたよ!でもその前に手が治ってよかったよ!」
「もう、本当に天使が舞い降りたみたいだよ!」
そして一杯のお茶。
・・・・
―――――――編集室
「いやぁ・・・三日月先生。今ごろあの男に会ってるのかなぁ?」
「そうじゃないですかね。バック忘れたのをそろそろ気づいても良いですしね」
「あとあの男・・・なんで“三日月先生の作品の主人公”の名前を名乗り続けてたんだろうかねぇ・・・?」
「やっぱり熱狂的なファンなのだろうね。初めて見たよ。でも顔つきは少しだけ似てたよなっ」
―――――
・・・
伊藤たちは話が詰まってはお茶を飲んでいた。
だがその回数は少ない。
会話がなかなか途絶えることもなく、盛り上がったり、ただただ話していたり。
時間の流れを忘れさせるような時間が続いている。
ふと、二人の目が合わさった。
沈黙が流れた後に伊藤が切り出した。
「・・・そういえば・・・・この部屋見るからに三日月、結婚してないんだ・・・」
「当たり前じゃん。私はあなたを探してたんだから」
「それ、漫画の題名じゃん!」
「・・・まったく・・・・鈍感なんだから・・・・・」
【呪い天使−漫画/三日月由奈 原案/伊藤雄】
完
完結しました。今までありがとうございました。
恋は盲目と言わんばかりに中学三年生の時から書いていきました。
一番楽しめてしまったのは作者のようです・・・。
この話を楽しんでいただけたでしょうか?楽しんでくれたのなら至上の喜びであります。
このお話で伝えたかったことは、いじめも仕返しもしてはいけない、ってこと。
実際、この物語ほどいじめをした人に仕打ちがやってきませんが、僕はいじめをするような人はいつか神から仕打ちをうけると信じています。
何故僕はこの物語を書くことになったのか・・・少し話します。
「いじめをなくそう」がコンセプトであったこの小説は、ある僕の友達に見せたい、という気持ちから生まれてできたものです。
その友人は何か気に入らないことがあるとすぐに人のものを隠す人でした。
さらにアドレスもネットに広げ、靴を隠せば教科書ノートも隠していました。
靴に画鋲なんて日常的。そんな友達は周囲の人からあまりよく思われていませんでした。
だからこの小説を書こうと思いつきました。
その人がそういうことを一生しませんように。
・・・僕のそんな気持ちが届きますように・・・・・・。
御観覧ありがとうございました。
今後、何か小説を書くことになったらよろしくお願いします。
今まで本当にありがとうございました。
評価感想お待ちしています。