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呪い天使 49 エピローグ 『番外』

呪い天使49 エピローグ 『番外』




「三日月先生、連載お疲れ様でした!!」

「いえいえ。これからもよろしくお願いします」



私は三日月由奈。ちなみに24歳。

自分で言うのも変ですが、一気に少女コミックの頂点付近まで辿り着いた話題の新人漫画家です。

8年前のあの絶望的だった事故。

それでも天使が私に舞い降りてくれました。

そうです。私の右手は奇跡的に完治したのです。

もちろん最初はリハビリなどで苦しく、涙を流す日々が続きました。

でも、今こうして漫画家になっています。

2年で怪我は治り、19歳のときから月刊誌で連載デビュー。

すぐに人気が出て、映画化になったり書籍化されたりそれはもうヒット中のヒット。

入院中ストーリーを考え続けたんだからこれくらいしてもらわなきゃ困っちゃうよね。

・・・少し自分の自慢話に花が咲き、過信しちゃいましたが、私は毎日がとても楽しいです。



『私はあなたを探してる』



これだ。

これが全国の少女にヒットしたのです。

題名はベタなのは気にしない。売れたんだから、気にしないの。

ストーリー内容が気になる?

そりゃぁもう、少女コミックの王道、恋愛ストーリーです。

私が入院してる時から温めた話をふんだんに盛り込めたのです。

でもさっき編集長との会話通り、連載は終わっちゃったんだ。



「三日月先生!本当にあの漫画は面白かったよ。新時代の幕開けになるほどだよ」

「まぁ、それも打ち切りなのですから皮肉なもんですけど」

「最後がね・・・。最後は展開がワンパターンになっちゃったからねぇ」

「まぁ、ヒット作ってのはそんなもんですよ。きっと」

「前向きだねぇ!次、次作の連載期待してるよ!じゃぁね、気を付けてくださいね!」

「はい。お疲れ様でした!」



口では強がってるけど、実際は真逆なんです。

最後ワンパターンになったのは、一生悔やむだろう失敗だ。

いや、失敗じゃないかもしれない。

だって、もう思いつかなかったから。

人気な作品だったし、私自身も納得いかなかったから、

一か月に出す一話の量を大幅に増やしていたの。

それこそ週刊誌と同じくらい。

楽なんてしてはいられない!男と同じくらい私も頑張った!

編集長にとってこんなに嬉しい事はないんじゃないのかな?

たしかにページは増えて大変だけど、人気なんだし、その分本誌の売り上げも上がったから。

だから、毎日忙しかったし、ペンを握り続けてた。

そしてネタは次第にそこをつき、最後には展開が切り開けなくなったんです。

仕方無い。自業自得だ。


今言われた、『次作の連載期待してるよ。』の返答は『はい』だったけど、

実際はそんなの無理。

言ったでしょ?私にはもうネタが底をついたって。




・・・はぁ・・・どうしよう・・・もう、終わりかぁ・・・。




ふと遠くを見ると辺りには春らしく青々とした緑が生い茂っている。

白いたんぽぽの綿毛が一つ、私の少し長い髪の毛に落ちていった。

ゆっくり手をあげ綿毛をとり、風に流して飛ばしてやった。

このたんぽぽの綿毛と違って、私はまた道がなくなったのかもしれないなぁ。


あの事故から8年たった今、私はクラスの人たちのほとんどと会っていません。

もちろん私は街に出る暇も無ければ同窓会になんて行く暇はなかったし。

暇があっても行くつもりはなかった。

私は、鈴科の事故の共犯者として一目をおかれた身だ。

水沢は『殺したい』とまで怒りを露わにし、伊藤を襲っていた。


でも、上前と都宮にだけは会っていたんだ。

まぁその二人に会いさえすれば、いいのかもしれないけど。

私が絶望しながら入院しているとき、彼らはやってきた。

上前は自分が助手席に座らせていたと告げてくれた。

都宮は

「水沢に訂正し忘れていた」と泣きながら謝っていた。

そうして私と上前と都宮はずっと仲良いまま過ごして行けたんだ。

でも私は手術のために外国の病院に行ってから都宮たちとの連絡はさっぱりだったのです。


そういえば鈴科は・・・どうしたんだろう・・・・・?

兎に角私が今さら同窓会に顔を出して、喜れる身じゃないのはたしか。

否・・・逆に漫画で有名になったからみんなから声がかかるかもしれない。

サインくれ、なんて言われるかもしれない。

少し自信過剰だけど、人間なんてみんな現金な人ばかりだ。

絶対そう来るに決まっていて、ついでに過去を許してくれるのだろう。

でもなんだか皮肉だ。

それに・・・許されたところで私は何も変わらない。


私は桜のトンネルの中を歩いていた。

風が吹く度心地よくなる。

そして風とともに桜の花びらが宙を舞う。

舞った桜に気を取られてる私は後ろから二度も声を掛けられていたことに気付かなかった。



「あのぅ・・・少し、手伝ってくれませんかぁ・・・?」



高校生の男の子だ。

車イスで段差にひっかかっている。



「あっ、ごめんごめん!」



私は彼の車椅子の後ろ側を押してあげた。 少し衝撃が大きかったかもしれない。

丁寧に押したつもりが雑に押してしまったようで、その子は「うひゃぁっ」と間抜けな声でリアクションをとった。



「ぅゎ!ごめん!大丈夫・・・!?」

「え・・?全然大丈夫ですよ!・・・ありがとうございました!」



その子は無邪気に笑った。

不器用に、綺麗な靴を上下に振って喜んでいた。

そして「じゃぁね、お姉さん」と一言言い、両手でタイヤを回して人ごみに消えていった。

・・・まだ若いのに・・・・・大変だな・・・・

完全に顔が下に向き、肩がぐぃっと曲がっている自分に気づいた。



「あっ!荷物編集室に忘れてきちゃったっ! 」



自称「うっかりもの」でもある私はすぐに編集室へと走っていった。



「編集長〜!荷物、バックありあましたぁー!?」

「おー!三日月先生!ありますよ。これですこれ」

「すみませんっ。これで何度目でしょうね?ははは・・・」



いつもこの会話だった。

私の中ではこの会話は定着している。

『うっかり私と相槌をする編集長パターン1』 なんて題を付けて暗記までしていた。

もちろん2など存在しないけど。

このパターン1は何度もあり、一字一句、全て覚えてるほどだった。

次の言葉は「どんまいだよ三日月先生。次からは気を付けてくださいね!期待しませんけど!」である。

相槌の言葉を喉のすぐそこまで出して準備する私は次の一声に首をひねらした。



「それよりも、丁度よかった!今ね、先生を探している男の人がいたんだよ」


「へ?・・・あ・・・・・・男の人ですか・・・?」


「三日月先生をずっと探していたみたいですごい焦ってた様子だったね。『ここにいますか!?』って。 なんだか怪しい雰囲気だったけど、ついさっき来たんだからちょっと追いかけてみるといいよ。少しボロい黒い服とジーパンを着て、手提げを背負っていたよ」


「・・・えぇ・・・・・・。まぁ・・・一応行ってみますよ・・・」



恐らくその男は熱狂的なファンなのだろう。

もちろん追いかける筋合いもない。

でも私は何かを感知した。

すぐにそのにぶった足を走らせ、編集室のドアを大きく開けた。



「先生!バック!バック忘れてますよー!」



本能のように私はただ走り、追いかけた。

何か希望がつかめるような気がして。

何故だろうか?もう既に頭の中ではその人が一定の人物に決まっているほどだ。

妄想でしかないだろうか?

でもこの勘はなんだろう。


漫画家になると足が遅くなるのを日に日に実感していく。

健康のために一週間に一回定期的にランニングしていた私にはそれがわかる。

定期的には知ってる距離もほんの500Mだから体力はそこまでつかない。

足は普段使わない。

でも今回ばかりは使っている。

これほど早く走りたくなった気がしたのは初めてだった。

・・・あいつだっ!あいつが今信号にひっかかっている!!



私は全速力で走った。

いい年してこんなにも走る人はいないだろう。

高校以来見たことのない、全速力だった。

・・・風を裂いている気分だ。

風を裂くことができたのかどうなのか分からないが、私はとうとうその人の肩に手をのせることに成功した。



――――勘はあたるものだ。



彼の顔がこちらを向いた瞬間私は満面の笑みを浮かべた。

でも、その向き方はなかなかにショックなものだった。

手を払ったあと、少しだけ走って、パッと後ろを振りむいて、やっとその足を止めたのだ。

そして目は威嚇する目で、ゼェゼェと息を吐いている。

だけどそんな態度を取られようとなんだろうと・・・

やっぱし私の顔は笑顔のままだった。

彼もまた、笑顔になったから。


































「伊藤・・・!伊藤だよね・・・!!」













つづく―――次回―――――――最終話――――――――

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