呪い天使 48 『完結』
『何故かこの48話のアクセスがやけに多いです。最初からお読みください。よろしくお願いします』
呪い天使 48 『完結』
「・・・一番の重傷は頭部ではありませんでした・・・・
・・・・右手です・・・・。もう2度と、2度と絵が描けないでしょう・・・」
「嘘・・・嘘だ・・・・」
「残念ながら・・・私たちも最善を尽くしましたが・・・ 治る可能性は、0に近いと言ってもようでしょう・・・。 気持ちはわかります・・・しかし・・・・・・」
あれほど、漫画家になることを夢に見ていた三日月・・・
実力を認められ、この若さで漫画家になり連載が始まろうとしていて・・・
鈴科のことがあったとはいえ、仕事のために学校をやめたのも事実・・・・・・。
・・・・そんな三日月の手は、鈴科の手により握りつぶされた。
そういえば事故がおきたとき、三日月は右手をおさえていた・・・。
「・・・うわぁ――――――――――!!!!」
僕の声は病院内でこだました。
次の日だった。
病室に入ることが認められ、僕は朝から三日月の部屋に入った。
もちろん三日月は下を向いている。
・・・どこも向いていないのかもしれない。
右手にまかれた包帯が、すべてを物語っている。
体の到る所に骨折をした三日月は、ずっと同じ体制で朝の陽ざしを浴びている。
「・・・三日月・・・・・・・・」
「・・・・・・・伊藤・・・」
僕は丁重に断りを入れ、ベッドの近くにある椅子に腰をかけた。
包帯の巻かれていないその左手で、三日月は僕の腕を掴んできた。
「・・・・気にしちゃ、ダメだぞっ・・・!」
その無理に作った笑顔がまた辛かった。
なんでこの子はこんなにも強いのだろうか?
・・・夢が消えたというのに、人の心配なんてしている。
僕の瞳はうっすら湿っていった。
「・・・私がさ、勝手に伊藤を助けたんだよ・・・!ね。ほら・・・。 私は、伊藤を守れたんだよ・・・?それだけでも嬉しいよ・・・! 今日は早く帰って・・・お母さんのお金を借りに行きなさいよ・・・!ね・・!」
返す言葉が見当たらない。
結局僕は三日月の言葉の返答もしなければ相槌もうたず、
自分が言いたいことを言うしかできなくなった。
「・・・いや・・・僕の・・・僕のせいなんだ・・・!僕が鈴科に仕返しさえしなければ・・・しなければっ・・・!」
「・・・違うよ・・?私が・・・・提案したんじゃない・・・。仕返そうって・・・」
「・・・でも・・・やっぱり・・・・発端は僕で・・・ごめ・・・」
「謝らないでっ!」
三日月の怒鳴り口調は、初めて聞いたのかもしれない。
僕の謝りかけようとしたその口は閉ざされた。
普段の三日月は、喜怒哀楽の『怒』の面は全く見せない人だった。
その中での―――『怒』
怒鳴った後、当然のようにくる沈黙に、三日月は訂正をし、謝った。
「・・・ごめんなさい・・・・少し・・・・少し感情的になってた・・・よ・・・」
低い声だった。
いつも聞くことのないような低さであった。
「・・・・・・・・でも僕は・・・・謝るしかできない・・・・・・・」
「違う・・・・・・私が・・・私が自分で自分の夢を・・・・断ち切っちゃったんだよ・・・」
その低い声が次第に高くなっていった。
細く、高く、今にも消えてしまいそうな震える声で涙をこらえ始めている。
今気付けば三日月の目線はどこも向いないわけでなく、下を向きながらもずっと右手に向けている。
・・・・しかしその右手は動くことも許されていない様子。
本当に、三日月の手は漫画が描けなくなるのだろうか?
「・・私が・・・私が・・・うっ・・全部・・・・・・わっ、悪、いんだからぁっ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ここでようやく僕の顔を見た。
顔をあげたと同時に溢れた涙が一気に流れ落ちていった。
その後、三日月は体を僕の方へ持って行き、僕の胴に抱きついた。
もちろん彼女の右手は形だけで僕の体を全く掴んでいない。
その分左手が僕の服を強くにぎりしめる。
僕も彼女を腕で包み返した。
痛くないように、そっと軽く抱きしめた。
「・・・も・・・もぅっ・・・私・・うっ・・・漫画かけ、・・・ないんだ、よっ・・・・」
・・・夢が幼いうちに、断たれた。
あと一歩で叶うといったところで、断たれたのだ。
どうしてあの時、僕と三日月は夜道で偶然再開してしまったのだろう・・・
どうして僕は・・・あのトラックを避けられなかったのだろうか・・・
何故、今日、この日に事は起きたのだろうか・・・?
すべて、何もかも偶然だった。
しかし、その偶然で人が毎日死んでいくんだ。
死はいつでも偶然だ。
三日月の前に立ちはだかったのは、死と同様のものだった。
そう、道がない。
彼女が楽しんで生きていく道は、昨日、あの一瞬で閉ざされた。
「ごめん・・・僕が・・・僕が避けていれば・・・!!!」
「・・・・・鈴、科っ・・・・・うっ・・・・・・・鈴科っ・・・・・うっ・・・」
もう、自分の力で何もすることができない。
きっと今発している言葉も彼女の意志とは異なるものだろう。
三日月は泣いて涙を流し続けているだけだった。
感情を口で発し続け、何かのせいにしようと逃げることしかできない。
過去など辿っていられない。
自分が過去、誰に何をしようと、今は今。
結局、死んでからでは遅いのだ。
「うっ・・・うっ・・・、・・・っ・・・っっっ・・、・・っ・・・っ・・・・」
もう、三日月は声を出すことが出来ないまでに感情を狂わし、乱してしまった。
その感情は涙となって流れるが、その涙と心は流れるのをやめようとしない。
僕も、我慢していた涙がどっとあふれてしまった。
・・・・
数分後、無情にも看護婦が面会時間の終了を告げにやってきた。
・・・・
僕は再度
「ごめんね」を発したが、やはり三日月は首を横に振ってくれていた。
・・・・
病院を出て、僕は近くにある金融会社を求め歩いた。
・・・・
歩く途中、過去の出来事が走馬灯のように思い出される。
【あ、僕、生徒会やりますっっっ!立候補します!!!】
【伊藤君、このナイフは何だい?】
【ごめんね、こんなんじゃすまないからね!】
【違うんですっ・・先生・・うっ・・・違うんです・・うぐっ・・・信じて下さいっ・・・】
【先生、私見てましたっ!伊藤君の教科書を鈴科君の友達が切り刻むのを!】
【伊藤君・・・この写真は何だい・・・?】
【当選したのは、鈴科君です。】
【俺さ、実は明日転校することになったんだよね・・・ははは・・・】
【ここ最近、そういえば水沢・・・見ないよね・・・】
【・・・時雨が・・・鈴科とっ・・・オルゴールについて話してたのっっっ・・・!】
【私たちも・・・仕返しするべきだよ・・・・】
【金を返せ・・・!教科書・・・ふざけるなよっ・・・!】
【俺の教科書がない。伊藤の仕業としか思えない。信じろよ!】
【オルゴールの手紙・・・父さんの居場所だ・・・!でも今は鈴科を・・・】
【死なない程度に頼むよ。】
【たとえ死んでも・・・呪ってやるからな・・・絶対殺してやる・・・】
【都宮・・・?やっぱり・・・友達やりなおさない・・・?】
【水沢・・・。またさ、みんなで仲良くやろうよ。】
【上前が帰ってきたんだ!】
【『伊藤、死ね』】
【単刀直入に言う。あの跳び箱は君が仕組んだことなのかな?】
【母さん!?大丈夫!?今・・・救急車呼ぶから・・・!母さん・・・・】
【ストレスや疲れによるものでしょう。状態が悪いのでさらに手術、入院となります。】
【伊藤・・・学校違くても毎日のように会おうね・・・!】
【呪ウンダカラネ・・・僕ハ君ヲ・・・】
【くっそぉっ・・・放せっ・・・・!父さんー!おいっっっ!】
【絶望だよ・・まさかお前がそんな人間に変わり果ててたなんてな。】
【鈴科の事故のこと、伊藤が犯人って疑われて、私、一人になっちゃって・・・】
【伊藤・・・。鈴科・・・・鈴科はね・・・まだ病院よ・・・・・】
【・・・水沢・・・なんでお前が俺を襲っていたんだ・・・!?】
【伊藤・・・俺は、人をこんなにも殺したいと思ったのは初めてだよ・・・。 】
【私はっ・・うっ・・・うっ・・・敵じゃないっ・・から・・・ねっ・・っ・・?】
【誰かっ・・ー!助・・・助けて・・・助っ、けて下さいっっ・・!来て下、さい・・・】
【重傷なのは右手です・・・・。もう2度と、2度と絵が描けないでしょう・・・】
【・・私が・・・私が・・・うっ・・全部・・・・・・わっ、悪、いんだからぁっ・・・】
・・・・・・
お金を借りた僕は、そのある分だけのお金を全て病院に出し、
誰にも見られない暗い世界へと歩き出した。
完 ―――――番外編に続く――――――――
『ブラックエンドが好きな方はこの48話で読むのを切ってもらっても結構です。作者の意思としては50話まで読んでくれると嬉しいです。御観覧ありがとうございました。番外編(2話分)もよろしくお願いします。 BY 0 〜マル〜』