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呪い天使 47 『一生』

呪い天使 47 『一生』



―――――――数分前の上前はその頃・・・



「・・・離せっ!離せっっっ!」

「ちょっとだけ乗るだけだよ!怖がるなよ。拉致しようってんじゃないんだからさぁ!」


スキンヘッドのあの男。

上前も写真を撮られたとき、夜の都会を歩いた身だ。

このスキンヘッドの男が鈴科の仲間だということを知っている。


「俺はお前に何もしない」


スキンヘッドの不良は結局いつも、何もしない。

その言葉には信用できたが、何をするかがわからなかった。

そうして上前は『離せ』と言い続けたのである。

トラックに乗り込む上前。

そして、エンジンがかかりだした。

数秒後、運転席の窓からは二人の男女が確認できる。



「おい・・・!おまえ・・・!そこに人がいるんだぞ・・・!やめろよ・・!」

「悪いな。これが今すべきことなんだ。鈴科も面白いやつだよ。お金が簡単に手に入る!」

「・・・伊藤・・・!?三日月・・・!?えっ・・!おい・・・!ちょっとお前!!」



ブレーキは踏んでいない。



「やめろっっっ!やめろー! 伊藤!・・・どけっ!はやく逃げろ!はやく・・・!はやく・・・!」



「これでまたしばらく遊べるなっ、ははっ」



「危ないっ―――――――!!!」




――――――――――――・・・・









「危ないっ――――――――――――――――!!!」




僕は後ろからくる、トラックの音など、全く聞こえていなかった。

後ろをふと振り向く。

見覚えのある・・・トラックだ・・・。

あのとき、東京に来たばかりの僕を襲った、あのトラック。

窓ガラスに映るのはやはりあのスキンヘッドの暴力団で・・・

・・・・助手席には上前がいた・・・・。

彼もまた・・・僕を嫌っていたのだろうか・・・?


もう、トラックは目の前にある。

またもや、動くことを僕は忘れていた。


「伊藤っっっ!危ないっ!!!!」


一瞬のうちに三日月が 両手を僕に突き出し、僕は抵抗することなくフェンスにとばされた。

目線が三日月を向いたときには三日月とトラックが接触し合っていた。

眼が見開き、声が出た瞬間には、視界に三日月は映っていなかった。

スピードを上げ、映像がぶれている、トラックの大きな荷台しか見えない。

しかし、耳からは確実に三日月の悲鳴が確認された。



「きゃっっっ!!」



その声は甲高く、暗い夜道を更に怖くさせるものだった。

三日月の声は一瞬のうちに響き、一瞬のうちに消えていった。



「うわぁぁぁ――――――――!!!!!」



僕の声はトラックの騒音さえもかき消した。



三日月が宙を舞ったのは一瞬だった。

すぐに地面に叩きつけられ、トラックの端っこの方で飛ばされ、再度引きずられ、

気づけば30メートル以上先のフェンスに三日月が横たわっていた。


また足が固まったんじゃないか?と不安になった。

だが今回ばかりは違く、足が無意識に三日月の方へ飛んで行った。


「・・・三日月・・・・・・!」


地面は既にドロドロした液体で染まり、小さな水たまりのようになっていた。

慌てて僕は三日月のポケットから携帯をとりだし、救急車を呼んだ。

そこまでは無意識の行動だった。

救急車を呼び終えた後、朝起きたかのようにパッと目を開き、始めて三日月を直視した。

また、僕は叫んだ。


彼女はゴロゴロと悶え苦しんでいた。

目を強くつむり、歯を食いしばっている。

この表情は、誰がどこからどう見ても、苦痛の表情だった。

ふと目線を変えると左手が手提げを持っている右手を掴んでいる。

血が出ているのは・・・頭と手と足と・・・否・・・・体全体だ・・・・。

とっさに僕は自分の服をちぎって応急処置をしようとした。

とりあえずまず初めに頭に服をあてたが、一瞬にして服は赤い液体が染み込んでしまった。

ふいに三日月の姿がぼやけてくる。

腕で目をこすり、ハンカチ等を取り出して止血をすすめた。

もう、全く止まりそうにないが、僕はハンカチを当て続けた。



「誰かっ・・・ー!助・・・助けて・・・・助っ、けて下さいっっ・・!来て下、さい・・・!」



しかし誰もいない。

・・・・・誰も来ない。

僕は必死に叫び続けた。



数分後、すぐに救急車が来て止血作業を行った。

もちろん車両の中に運びながら。

運良く病院もすぐに決まった。

救急車にいる手の空いた人が警察に電話をかけた。

そういえばこれは事故であり、事件なんだ。

引き逃げなのだから。

車両の中で僕は頑張れ、と安易な声をかけることしかすることができなかった。



何時間も救急車に乗ったつもりだったが時間を見るとほんの数分で、

三日月は救急隊員が走りながらタンカで手術室に運ばれた。



ここ近頃、鈴科が言っていたことが当たってきている。

僕は確実に呪われている。

でも僕が、神から、悪魔から、天使から呪われようと・・・・三日月が助かればそれでよかった。



手の形が神頼みで固定している。

時間が一向に立とうとしない。それこそ何時間も待たされた。

時計の針は一秒毎に次へと進むのに、その一秒が一分にも二分にも感じられる。

不思議な気分だったがこれはもう慣れている。



時は深夜を指していたが僕の頭に寝るなどという言葉は全く浮かばれなかった。

赤いランプが消える。

やっと手術が終わったようだ。




「命は助かりましたよ!」




僕は安堵のため息をつく。

大きな深呼吸からの、安堵のため息。




「しかし・・・」






「・・・この手提げ・・・・彼女の物ですよね・・・?」

「はい・・・」




「・・・一番の重傷は頭部ではありませんでした・・・・ ・・・・右手です・・・・。もう2度と、2度と絵が描けないでしょう・・・」




うわぁぁぁっっっ――――――!!!!




病院で僕の声がこだました。

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