呪い天使 46 『闇夜』
呪い天使 46 『闇夜』
闇夜に僕を襲っていたのは水沢だった。
クラスで、鈴科の跳び箱の事故の加害者が僕だと告げたのも水沢だった。
三日月の犯行もクラスに広まり、退学まで陥れられていた。
そうして水沢は消えていった。
ふと後ろを見ると、三日月はこういった。
「私はっ・・・うっ・・・うっ・・・・・敵じゃないっ・・から・・・・ねっ・・・っ・・・?」
震える声で三日月はそういった。
三日月は、僕が想像する以上に優しかった。
今までその優しさを特別視することなく、それが普通だと思っていた。
もしも彼女が僕の前から消えたらどうなるのだろうか?
きっと僕は死んでいただろう。
生きているとしても、ただただ一日が過ぎるのを待っていただけだろう。
そんな彼女を僕は水沢との会話で手をふりほどいだ。
彼女を突き飛ばしたその手を僕は見つめ続けた。
僕は一瞬だろうがなんだろうが、彼女を疑っていたことを思い出していた。
こんなにも僕を理解してくれて味方になってくれた三日月を、
僕は水沢との会話中に僕は我を失い、手を激しくふりほどいでしまった。
僕は膝から崩れ落ちて三日月を一瞬見つめた。
そして、居場所を失ったその手を掴んだ。
「・・・ごめん・・・・・一瞬・・・・その手を・・・・ふりほどいて・・・・ 少し・・・疑った・・・・・・・でも・・・・・今は違う・・・・・・ ・・・・・しかも・・・僕のせいで・・・たい・・・退学に・・・・本当に・・・ごめん・・・」
三日月は首を横に振ってくれた。
大丈夫、という意味なのだろうか。
謝らなくてもいいよ、という意味なのだろう。
たびたび僕が言う『ごめん』も彼女はずっと首を横に振っていたことにより確信した。
首を横に振るたびにサラサラした髪が乱れ、彼女の顔を包み込んだ。
僕も三日月も下しか向いていない。
片手に握った手提げの中から少しだけ出ているマンガの原稿が、風が吹くたびにヒラヒラとめくれて僕の眼に留まった。
数分に一回のペースで僕は謝る。
首だけを振る三日月。
そして上を向いたり、横を向く僕。
通行人がいないのが幸いだ。
三日月は何も言わずにただただ涙を流している。
号泣ではない。
うずくまりながら顔を見せようとしない。
表情も見えない。
だから、涙を流している、というのは推測にしか過ぎないのかもしれない。
時間は刻々と過ぎていく。
もう、30分はたったのだろうか?
次第に月の位置も変わってきてる気がする。
・・・もちろんそんな気がするだけだ。
目線の行く先は最終的には髪で顔を隠した三日月へとたどり着き、僕は謝るしかできなかった。
更に数分たった後だった。
三日月が一言残して帰ろうとした。
「ごめんね・・・」
何故謝るのかわからなかった。
悪いのは全て自分なのに。
それがまた辛くて仕方無かった。
もう既に少し三日月との距離が遠ざかっている。
「ごめん・・・!ごめんね・・・・・・!でも三日月がいてすっごく嬉しかった・・・」
僕は彼女に叫びかけてみた。
彼女は流していた涙の粒を空中に飛ばしながら振り向いた。
振り向いたその瞬間だった。
三日月も、叫んだ。
表情が強張ったのが感じられた。
そして叫びながらこっちへ走ってくるのだ。
当然僕はその意味が分らなかった。
よく見ると街頭以外の光が三日月を照らしていて、
伸びた僕の影が三日月にまで届いてたのだ。
「危ないっ――――――――――――――――!!!」
何も聞こえていなかった。
後ろからくる、
トラックの音など。
後ろをふと振り向く。
見覚えのある・・・トラックだ・・・。
あのとき、東京に来たばかりの僕を襲った、あのトラック。
窓ガラスに映るのはやはりあのスキンヘッドの暴力団で・・・
・・・・助手席に誰かいる・・・・・・・
もう、トラックは目の前にある。
動き、逃げることをまたもや僕は忘れていた。
だから窓ガラスに映る二人の男の姿がよくみえた。
ブレーキさえもしないそのトラックがあと1秒もたたない間に僕に激突しようとしている。
・・・助手席・・・・・・なんで上前が乗ってるの・・・・・・・・・・?
ダッ!・・・ダダッ・・・・!ガガガッッッガッ・・・ギィー・・・!
僕はフェンスに飛ばされた。
トラックには当たってない。
当たったのは三日月の両手だった。
悲鳴と共に三日月が宙を舞い、地面にたたきつけられ、そして引きずられた。
上前を乗せたトラックはブレーキせずに闇夜に消えていった。