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呪い天使 43 『再度』


呪い天使43 『再度』




『伊藤雄くんは生徒会長になれなかった、という理由だけで生徒会長の人をいじめたあげく怪我をさせた。』



僕のクラスメイトが父に告げた言葉だった。

父はそれに大きく絶望した。

僕との関係を零にしようと、この瞬間決めていたらしい。

母さんの治療費について話す隙さえも与えてくれなかった。


この言葉、実際には間違っている。

僕は鈴科に対し“いじめ”をしてはいない。

ただ“仕返し”をしただけだ。

さらに言えば理由も全く異なる。

生徒会長になれそうにないから、という理由でいじめたのは僕ではなく鈴科。

そのあまりにも酷く残酷ないじめに僕と三日月は仕返しを考えたのだ。

全て鈴科の自業自得なのだ。

だが―――良心を思い出せば・・・

結局仕返しなぞしなけれなよかった、の結論に至る。

理由はどうであれ、僕は鈴科を怪我させた。

その結果は変わらない。

父が僕の前から消えた。

その結果も変わらない。

僕のせいである。


良心に振りかえっているとき、僕は次第に仕返しを楽しんでいた。

鈴科の苦しむ様子をあざけ笑っていたのだ。

昔の僕だったら考えられない行動。

もう、僕は変わってしまっているのだ。


何かかが心につまり、息苦しく、歩くのも遅くなっていく。

ため息はついては深呼吸をした。

疲れも早くなっている。


そして―――信じるあてがいなかった。


僕はこの時絶望していた。

誰もかも信じられなかった。

一度割りきった、鈴科の『呪う、殺す』だとかの脅しも、どうやら本気のようだ。

トラックが僕に突進してきた。

自分はタフだな・・・とつくずく思った。

よく生きていたものだ。

だが二度目はないだろう。

ここから先は完全に逃げなければならない。

さらにはいつも夜遅くに襲ってくる鈴科からもより注意を払わなければならない。

もしも鈴科がナイフをポケットにでも忍ばせていたのならどうだろうか?

後ろから追われて首をすっ・・・と切るだけで僕は天に昇る羽目になる。

母さんが生きている限り、母さんを助けなければならない今が終わらない限り、

僕は死んではいけない。


次に頭をよぎったのはお金だった。

お金のあては、もう他人しかいない。

借りるしか、手がなかった。

危険なこととは知っていても、それしか道がなかった。

もちろん闇には手を出さないつもりだ。

あくまでも有名で安全な普通の金融機関に行く他ないのだ。



あたりが暗くなりはじめたのは、自宅の最寄り駅に着いた頃だった。

暗くなりはじめる、というよりはいきなり暗くなった感じだ。

だからまだ真っ暗とはいえない。

空の色は見ていなかった。

ただ目線の先にあるアスファルトに日がないだけだ。

なんとなく暗いのだろう。

夕暮れではないが夕方だろう。


ふと、いつも視界にある地面に映った影を見ると、左右にユラユラと揺れている。

また、今日もまた鈴科が僕を襲ってくるのだろうか?

・・・少し早いか。

猫の声にも脅え、道を聞いてこようとするおばぁさんにも脅え、

物音立つたびに、僕は疲れきったその足を走らせた。

昔と同じに戻っていた。

何もかもが恐い。

恐くないものなどない。


「いたっ・・・」


父のいる駅に着いたばっかりに、交通事故にあったことを思い出していた。

実際は事故じゃないから言い間違えか。

そう・・・僕は命さえも狙われている身なんだ・・・。

鈴科、不良、そして神。

すべてを敵に回してしまったようだ。

身を縮め、体を震わせながら偶然通りかけた公園で僕は体を寝かせ、休めることに決めた。

また、猫の声が聞こえたが、僕は冷たいベンチの上で強引に目を閉じた。


目が覚めるとそこは真っ暗な世界だった。

景観も、音も、雰囲気も。

全て闇。

鳥肌が瞬時に立つ気がした。


また棒になった足を動かし始めた。

やっとこ見えてくる、大きな金融会社。

CMでも見たことがある。

そこで母さんを救える分だけのお金をもらおう。

貯金はもう、あとほんの少しの日の入院費しかないんだ。


「伊藤ー!!!!」


やっぱり下を向いている僕の耳に、懐かしい声が聞こえた。

一瞬脅え、逃げようとしたが・・・

・・・・それは・・・・一番聞きたい声で、その顔は一番見たかった・・・。

そう・・・そこには三日月がいた。


「伊藤!伊藤だよね・・・!?」

「三日月・・・?久し振り・・・」

「・・・・うん・・・、久しぶり・・・。お母さんは・・・どう・・・?」

「あぁ・・・」


これでも元気に接したつもりだ。

だがやつれている感が三日月に伝わってしまったようだった。

さらに三日月の気を落とさないためにと

「今からお金を借りに行く」とだけ伝えて他のことは何も話さなかった。

しかし、多少の世間話をすればするほど、僕の心は開き始めていた。


「でさ、学校はどうなの?」


当然僕の質問である。

だが、理由の知らぬ沈黙が流れた。

明らかに三日月は下を向いている。

僕の顔はまた凍ってしまう。

・・・何故返答に困るのだろうか?



「実はね・・・私・・・学校やめたんだ・・・・・・・。」



凍った表情が溶けそうになかった。

顔どころじゃなく、体全体が動こうとしない。

震えることさえない。

影を見た僕はそれを確信していた。

理由を聞いたのはその数分後だった。



「理由は二つあるんだ・・・。驚かないでね・・・」



前ふりが何か危ないものを後ろに控えてる気がした。

たまった唾を一度にのみこんで、僕は三日月の言葉に全神経を集中させた。



「学校で、鈴科の怪我は伊藤がやったんじゃないかって、噂されてるのは知ってるよね・・・?

 他にも・・・アドレスを捲いたこと、上履き、教科書とか全部・・・何故かばれてるの・・・。

 でね・・・同様に、私も疑いの目が掛かっちゃってね・・・。

 都宮も水沢も、私に話しかけづらくなっちゃって・・・。

 ・・・・私・・・・・・・一人になっちゃたんだよ・・・・・・・」


三日月は想像以上に重いものを抱えているようだった。

自分のせいで三日月がこんなにも辛い思いをしている。

そう思うと、聞いたその瞬間に涙が出てしまった。

ただただ謝りたかったが、その口が完全に閉ざされた。


同時に自分もショックだった。

バレるはずがないと思っていたが、実際には失敗していた。

・・・自分が・・・凶悪な人間に見られている・・・

きっと先生にもバレているのだろうか?

いや、三日月は噂と言っていたはずだ。

だが先生に噂が届かないとは言い切れない・・・

終わった・・・

例え証拠がなかろうと、僕が地元で生きる希望が消えている・・・


状況は最悪だ。

僕は眉さえも動かせなかった。

そんな僕を見て、安心させようとしたのだろうか?

三日月はが明るくふるまって会話をつなごうとした。



「でもね、やめた原因はそれだけじゃないんだよ・・・!?」



僕は三日月の顔を見上げた。

三日月がバックから何やらファイルのようなものを出している。

表情は、完全な笑みだった。


「私ね、この前の少女コミックで、入選しちゃったんだよ・・・!」


僕の体にまとわりついている氷が完全に溶けた。

もちろん自然と笑顔になっていた。


「でね、この前編集部に行ってさ、本格的にまた入選しちゃってね・・・

 今度から連載始まるんだ!!!で、今その編集室へ行く途中なんだ!」


こんなに生き生きした三日月をみるのは初めてだった。

これほどにまで若いこの子が、もう連載が始まる。

よほど実力があったのだろう。

以前見せてもらった時も絵は上手だしストーリー構成も緊迫のある内容だった。

夢が叶ったんだね、と僕はトーンのあがった声で言った。


「じゃぁ、今から編集室行こう!そのあとお金借りに行くから!」

「ありがと!でもちょっと遠いよ・・・?電車賃は私が出すから・・・!」

「そんくらい着いてくよ!お金は・・・よろしくねっ・・・ははっ・・・・」

「うん!じゃぁまたいろいろ話そっか?」

「うん!」


二人並んで歩いた夜道。

その後ろの電信柱には、それを見つめる影が一つ。

『作者自身、三日月がようやく書けて嬉しい次第です』

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