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呪い天使 42 『父上』


呪い天使 42 『父上』



社宅のすぐ近くにビルがあった。

そう・・・ここが父さんの働く場所。

この大きさなら・・・・・・・母さんを救うことができるお金くらい・・・。


背広の男が二人、入口から出てきた。

さっきの男と、どこか懐かしさを感じる男。

それが・・・それが・・・・・・・・



「と・・・・父さんですか・・・・・・!?」



そう呼ばれた男は背を向け、社内に戻っていった。


僕はその態度に焦っていた。

意味も分からず、ただ立ち尽くしていた。

そして自動ドアが閉まり、僕はやっとその方へ向かい走り出した。


「父さん!父さんー!!!」


会社の中で僕は叫び出した。

朝っぱらから。

社員全員、今日も頑張るぞ、と意気込んでいるそんな時。

もしかしたら、今日もまた同じ徒労が始まる、とため息をついているのかもしれない。

・・・そんなの関係無い。

僕は大の大人に囲まれながら僕は必死に叫び続けた。

その中に父さんはいない。

一人姿をくらましたあの人は父さんのはずだろうが、何かが起きたのだろう。

何故背を向くの・・・・?

なんで・・・・・


「くっそぉっ・・・放せっ・・・・!父さんー!おいっっっ!」


「一回、落ち着きなさい。今、伊藤課長を呼びますから。」


「早く・・・早く・・・早くしろっー!」


ふと思い出していた。

昔の僕はこんな発言をしていただろうか?

社会の中で、この狂ったような口調で、行動で、発言を。

公共の場所でも、どんな場所でも僕は落ち着いて行動していたはずだ。

どちらかといえばクラスの中では謙虚な方だった。

いや、どんな時でも謙虚だった。


やっと来た。

人ごみの中を堂々歩いてきた。

彼が―――伊藤課長か・・・。

そして・・・父さんだろうか・・・。



「雄か。少し外に出なさい。」


「・・・・・はい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



夢だった父さんに出会えた。

でも、会う前から願っていた希望はない。

様々な展開が頭をよぎる。

それは全て悪い方向にある。

いつから・・・愛想つかしたのだろうか?



「父さん・・・あの・・・・・・・・・・・・」

「お前の話は、聞くつもりはない。」

「母さんが・・・病・・・」

「だから聞くつもりはないと言っただろ!?」


一番の目的さえも聞いてもらえない様子だった。

父さんは父さんでないようだった。

覚えていたはずの優しい父なんかではない。


「じゃぁ、一つ聞かせて下さい。何故そんな態度なんですか?社員に恥をかかされたからですか?」


嫌味をつけたしておいたのは当然、希望を失っているからである。

もうこの男に頼ろうと思っていなかった。


「・・・お前、副会長になったんだってな?」

「悪いですね、そんなに息子は会長がよかったのですか。とんだ自己満足主義者ですね。」

「・・・・・・・副会長でも県登録はされる。すぐに分かったさ。お前のことくらい。」

「でも会いに来なかったじゃないですか。」

「お前の目の前には来てない。だがお前のクラスメートには会っていたんだよ、ついこの前にな。」


そうして父は続けた。

僕が相槌を打つこともできない程、間を空けずに話し続けた。

この間がなかろうと僕は相槌さえ打てないだろうと思っていた。

確実に心臓が重たくのしかかっているからだ。


「クラスメートが言っていたんだよ、何人も・・・







 『伊藤雄くんは生徒会長になれなかった、という理由だけで生徒会長の人をいじめたあげく怪我をさせた。』







 ってな・・・・・。

 絶望だよ・・・、まさかお前がそんな人間に変わり果ててたなんてな。

 悪い、会議が入っている。もう俺の前には現れないでくれ。」




父が再び消えていく。

ここで普通ならば『母さんの治療費だけでも下さい』と言えただろう。

今、普通ではない状況なのは言うまでもない。

まさか・・・まさかそんな理由で夢だった父を失うなんて思ってもなかったからだ。

もちろん正確には少し内容が間違っている。

僕が鈴科を怪我させたのは、単に鈴科にいじめられたからだ。

その仕返し。

だが、僕がし返しさえしてなければ・・・。

間違いなく僕と父さんは昔の関係のまま続けられていただろう。

後悔が僕を襲う。

理由は・・・自分が原因なのだ。


ふと、また考えていた。

昔の僕はどうだったのだろうか?

鈴科からイジメを受けた時もそうだった。

『鈴科がもうこんなことしなければいいんですけどね』

そう言い、願っていた。

でもあるときを境に僕は鈴科を憎み始め、こうとまで言っていた。

鈴科に仕返しをしているとき、三日月の『楽しいね』という発言に対し、

『うん』

そう答えているのだ。

明らかにあのときは楽しんでいた。

そして、鈴科が苦痛を味わうのに快感を得ていた。

行動が―――過激になってきている。

僕は確実に・・・変わってしまっている・・・・・・。


もう、穏やかな自分はいない。

先生を騙し、三日月と二人で裏を操作し・・・

そんな自分がここにいる・・・。






僕はゆっくりとその足を前に運び出した。

背は曲がっている。

手は下に垂れさがっている。

前は見えていないに等しい。

いつしかまた夜になっていた。



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