呪い天使 38 『憂鬱』
呪い天使38 『憂鬱』
頭に刻まれた言葉。
「呪ウンダカラネ・・・僕ハ君ヲ・・・」
「・・・たとえ死んでも・・・・呪ってやるからな・・・・・絶対・・・・殺してやる・・・・・・・」
その後に起きる恐怖をまだ僕は知らない。
工事現場を終わる僕。
さっきのアレが怖いのか、工事現場のオジサンと一緒に帰ることにした。
だが、分かれ道は意外と早いもので僕はすぐに一人になっていた。
何の音もない。
こんな夜にはついつい耳を澄まして無の音を感じてしまう。
足音。
そのあと響く足音は・・・ない・・・。
ササッ・・・
何かが聞こえた。
そう感じているときには後ろを見ずに全速力で走りぬけていた。
否、もう前さえも見ていない。
ようやく足を止めた理由は目の前の信号が赤く光っているからだ。
僕はベンチに腰を下して汗を流し続けた。
にゃぁ・・・
僕に問いかけるようにベンチの下側から何かの鳴き声がした。
僕はベンチから離れて電柱に背中をピタリとつけた。
・・・黒い猫か・・・・・。
さっきの音も・・・この猫なのだろう・・・。
僕は背中を猫のように曲げながらトボトボと歩きだした。
ようやく電気もついていない一軒家に帰ってくる。
結局家に入っても電気をつけずに家の前にある街燈を鏡で反射させながら、
算盤を片手に毎日の日課ともなる貯金の計算をひっそり行なった。
数えるのは一桁の枚数のみ。
当然日に日に日課の時間は縮小されていく。
貯金も本当に底をつきている。
母さんは今病院で安静に入院してるものの、良いとはいえない状況だ。
いつ何がおきるか分からない。
更にひどくなる場合もあるだろう。
そしてベット費、入院費・・・・・。
もう・・・お金が・・・・・。
入院することができなかったら・・・母さんは間違いなく・・・・
・・・・・間違いなく・・・・・・・・・・
僕はそっと喉まで込み上げてきた言葉を飲み込み、そっと目を閉じた。
入院費は日に日に払わなければいけない。
・・・もう生活さえもが厳しい・・・・・。
入院さえ終わってくれれば僕は今までの生活ができるはず・・・。
できるはず・・・できる・・・はず・・・・・。
部屋に戻り、部屋にお金が落ちていないか、隠されていないか探し求めた。
きっとあるはずだ。
部屋の次にはリビングも探すとしよう・・・。
もしかしたら母さんがコツコツ貯めていた膨大な資金が・・・
少ない可能性を僕は信じてみた。
机、引出し、じゅうたんの下、布団、枕、椅子のカバーの中・・・
冷蔵庫、レンジ、棚・・・机の裏・・・・・。
・・・・・・何も無い・・・。
お金どころか物という物もガラクタも何も無い。
換金できそうな物さえない。
もう、本当に終わりかもしれない。
・・・母さんも僕も・・・・・・・・・・・・
寝ることを決心した。
明日目が覚めてしまえば同じ徒労が繰り返されるのだ。
いっそ眠り続けたい。
何もかも忘れて永遠に自分に別れを告げたい。
だが僕が生きている限り、母さんが生きている限り、僕は母さんを守らなくてはいけない。
助けなくてはいけない。
この生活に喜びを得たことは未だにない・・・が、退院さえすれば僕は救われる。
頑張るしかない。
窓から大きなアクセルの音がした。
バイクだろう。
そう認識していたときには僕は布団の中で丸くなっていた。
その布団は小刻みに振動を続けている。
バイクだ。
そうして僕は寝る体制に戻った。
明くる日も明くる日も僕は仕事を続けた。
朝。
仕事はお店で接客だ。
だが―――僕は接客の仕事を下りて店の整理等の仕事に携わることにした。
もうだめだった。
見知らぬ人に声を掛けられる・・・それだけで僕は少なくとも5歩以上は遠ざかる。
体がふいに反応してしまう。
―――――それがたとえ老人だろうと。
店の整理のときも必ず自分の背中の後ろには壁だった。
もしくはダンボールの山。そうやって仕事をこなしていく。
だがここ最近はダンボールさえもだめになってきた。
以前ダンボールが崩れたのだ。
フラッシュバックのように僕の頭に“あの事故”がよぎったのだ。
数分間僕は震え続けていた。
もちろん―――気付かないうちにだ。
夜。
また工事現場に向かう。
「あのぅ・・・・道を教えてくれないかのぅ・・・・・・・?」
「う・・・うわああぁっっっっっ!」
僕はまた走り出していた。
道も定まらないままに暴走し、行き止まりに直面しては何故か絶望していた。
そして工事現場に向かう途中で起こる・・・アレ・・・定期的にくる・・・アレ・・・
「ネェ・・・ネェ・・・」
北極で凍らせてきたようなその手が僕の肩に乗っ掛かる。
僕は後ろのモノに手を一回振り、逃げ去った。
その手は顔に当たっていたと思う。
だが、またアレはやってくる。
「痛イヨ・・・痛イヨ・・・君ミタイナ人ハ死ヌベキダヨ・・・」
工事現場の明かりが見えるまで走り切った。
そしてアレはいなくなる。
これも毎度のこと。
家に帰ると僕は再度お金を探していた。
ついには隠した記憶がない自分の部屋にまで手をだしていた。
僕は机を探った。
ガサゴソと音をたてながら手を忍ばせていく。
何かが手に引っかかった。
それを手にとり顔の前にもってきて、顔は久しぶりに笑みへとなった。
僕はお金よりも大切で、希望のある物を見つけてしまった。
オルゴールだった。
フラッシュバックのように記憶が蘇る。
そうだった・・・
・・・・・・・・
・・・
【話が変わるけどもよ、君は家族思いだねぇ】
・・・
【いや、家族写真らしいものがあったし、その写真の裏に手紙みたいなものがあってな。ま、読んでないけどな。】
・・・
【『PS 最終手段だ。父さんが雄を迎えに行けなかったとき、ここまで来てくれ。』】
・・・
・・・・・・・・
そうだった。
このオルゴールの裏側には・・・・
父さんの手紙が・・・・
父さんの居場所が・・・・・
そして父さんからお金を・・・・・
父さん・・・・・
父さんなら・・・母さんを助けることができるかもしれない・・・
僕は気付いたら身支度を済ませ、外に出て駅を目指していた。
僕はどこまで父さんに期待しているのだろう