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呪い天使 37 『呪縛』

学校とお別れだ。


呪い天使37 『呪縛』



三日月はそこにいてくれて、流そうとしなかった涙が溢れてきた。

全て打ち明かして三日月はさらに顔が乱れていった。


翌日


無情にも僕の机は日の当たる教室から薄暗い倉庫に運ばれた。

今日、ぽかんと1つ空いた席の隣りの椅子には誰も座っていなかった。

そんな景色を見たのは未練が故に学校に立ち寄ったからである。

制服姿ではない僕はもちろんすぐに学校を出た。

僕の抜けたいつもと同じメンバーで、どのように学校生活をしたのかはもう知らない。


これから二度と通ることのできない校門の前で僕は自分に喝を入れる。

もうここは自分の行くべき場所はここではない。

さっそく僕の新しい生活が始まる。

朝は家で勉強をし、昼は店員となり働き、夜は工事現場ではたらいた。

辛い毎日だったが、耐え切れることが出来た。


しかし入院費を侮っていた。

バイトなどでは全く手につかない。

家の貯金も底をつきる寸前にまで落ちていった。

だけども僕は必死に働いた。

目に隈が増えるのを実感していった。

日が経つにつれ、鏡の前に立ちたくなくなっていった。



お金が欲しい・・・



もうすでに学校が終わってから相当な日が経っていた。


「毎日のようにずっと会っていようね。」


そう分かれたはずなのに三日月とは一回も会っていない。

彼女らがどうなったのかさえわからない。

授業も行事も何もかも、何がおきてるか分からなかった。

そろそろ三日月の顔も鮮明に映し出されなくなってきたころだ。

時の合間に写真を月明かりに照らしながらじっと見つめて顔を確かめた。

・・・いつになったら会えるのだろうか・・・。


いつものように無気力な様子で工事現場へと向かう僕。

今日は偶然にも通学路を通ることになった。

少し前には毎日見てきたこの景色も、遥か遠くの過去の模様に見えてくる。

いつもと同じだったこの信号。

そしてお決まりだったあのベンチ。

ベンチに座るとき、いつもと反対側の方に腰を下ろした。

ランプが青になるまでずっとその冷たいベンチの暖かさを探し続けた。

この信号、ベンチ、街燈。

何もかもが懐かしい。

信号が青くなると同時に僕は下ろしていた腰を上げた。


ゆっくりと歩く僕。

凍っているかとも思えるこの無力な手を無造作にポケットにしまった。

転ぶといけないから片方だけを外に出しておいた。

数分ごとにポケットの手を入れ替える。

・・・まだだろうか、工事現場は。

学校の奥にあるとはいえ、工事現場はどこか遠く感じて景色さえ眼に写らなくなってきた。

外に出ている片方の手で耳を抑えるようになってきた。

しかしもう片方の耳も寒い。

手は充分に楽をしたはずだ。

両手で耳を覆った。

手も耳も凍る気がした。


寒さに負け、ついに走り出した僕。



タッタッタ・・・


タッタッタ・・・



・・・・・・・・



タッタッタ・・・

タタッタタッタタ・・・



タッタッタ・・・

タタッタタッタタ・・・



・・・・・・・



・・・・・・・




何故だろう・・・。


足音が・・・響いている・・・・・

止まれば消え・・・歩けば響く・・・

当然のことだろうか・・・?

ただこの静かな街にこだまして響いているだけのはず・・・

・・・しかし・・・不器用に響いている足音が・・・

僕は気になって・・・

見てはいけない後ろを振り向いた。



このとき、振り向かず全速力で走ればよかった。




「ネェ・・・ネェ・・・ネェ・・・・」




両肩に新しい寒気を感じる。

目の前に真っ黒な人影がある。

冷たいしっとりとした二つの手が僕の肩をつかんできた。




「呪ウンダカラネ・・・僕ハ君ヲ・・・」




僕は激しい悲鳴をあげ、肩にある冷たいものをはじき走り去った。




タッタッタ・・・

タタッタタッタタ・・・



タッタッタ・・・

タタッタタッタタ・・・



タッタッタ・・・

タタッタタッタタ・・・



ダメだ・・・着いてくる・・・。

とても・・・逃げられない・・・!



助けて、と叫ぼうとしたとき、工事現場の明るい光が見えた。


「オオ、伊藤くん!今夜も頑張ってるねぇ!」


・・・今、僕は救われたんだ・・・。

工事現場のオジサンの罪のない笑いに僕は救われた。

笑い返して僕は仕事をはじめた。

ふいにかるく振り向く僕。

アレはいなかった。

一本に伸びているこの道のどこにもアレはいなかった。

目を細めて道の奥を見てみるが何もいない。


でもこの肩は全てを物語る。

まだ消えない寒気。

あの冷え切った手。

あの感触を忘れない。

夢では無い・・・。

夢じゃないのだろうか・・・。

夢であってほしい・・・・・。

夢じゃないと知ってても、夢だと願った。


仕事もあまり手につかない。

オジサンに笑いながら

「今日は不調だね」なんて言われるが僕は愛想笑いしかかえすことが出来ない。

それでも笑って話し掛けるオジサンに僕は心を開かせた。

次第に会話も弾み、仕事も快調なペースだ。


年の差も忘れるような会話だった。

話の盛り上げ方が少し昔の人を匂わすが、話が盛り上がっていることに変わりはない。

今さっき起きたことも気軽にはなすことが出来た。


「それでですね、さっきなんか人に追いかけられちゃって〜」

「そりゃぁー大変だったなぁ。まぁSFなわけないしな。安心しなってなよ!」


そうだ。この世の中にSFなことが起きてたまるもんか。

あってはならない。

非現実的だ。

きっと誰かが追いかけただけ・・・

誰かが・・・・・追いかけた・・・・・・だけ・・・・・

・・・・・・・・・誰かが・・・追いかけた・・・・・・だけ・・・・・?



少し経ってから思い出した。

跳び箱に埋もれてたときの鈴科の言葉・・・。




「・・・たとえ死んでも・・・・呪ってやるからな・・・・・・・絶対・・・・殺してやる・・・・・・・」




この後、僕はSFなんかよりも怖いものを知ることになる。




『なお、SFとかではありません』

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