呪い天使 33 『掃除』
病院で起きたことは―――
呪い天使 33 『仕打』
何度でも僕の頭をよぎるのは―――鈴科の言葉。
「・・・たとえ死んでも・・・・呪ってやるからな・・・・・・・絶対・・・・殺してやる・・・・・・・」
都宮は鈴科を無くしたことで孤独になった。
僕たちはそんな都宮と寄りを戻そうと考えた。
もちろん、図々しい話なのかもしれない。
だが―――僕らは明るい都宮を知っていた。
そして誤解があったことを知った僕たちは心から仲直りすることができた。
話さなかった水沢とも・・・話しかけて仲が戻った。
偶然にしてはできすぎだろうが、上前まで帰還してきた。
つまり、今僕は幸せの絶頂期だ。
今クラスの状況は皆、鈴科に対して良い目を向けていないはずである。
無論僕が跳び箱事件の首謀者だとも知らないだろう。
そんな中僕は鈴科の病院に見舞いに行っただろう人物に話しかけた。
鈴科はどうだった、何と言っていたか?
だが答えは無かった。
それは偶然ではない。
誰に問いかけても同じ返答。
不安が僕を襲った。
鈴科の身に何かあったのだろうか?
その話題は何故クラス内でタブーなのだろうか?
そして放課後になった。
まだ何人もの生徒が教室に残っているため、一人帰る準備を早々進めるのはどこか気が引けそうだ。
だがそんな様子も気にせず僕は隣のクラスに走っていった。
そうして・・・病院に着いたのだ。
・・・
「鈴科影斗という人のお見舞いに来たのですが・・・」
―――――あまり驚く事実ではないとしても――――――
「鈴科君ですか?今調べますね。」
―――――それは悪い予感をさらに大きくする結果になった―――――
「あの・・・鈴科君ですが・・・今・・・この病院にはいません。」
―――――実際あまり驚くような事ではないが――――――
「あの・・・お客様・・・?お客様・・・・?」
―――――僕の足は震えた――――――――
気付けば僕は帰宅しようと震える足を運んでいた。
「伊藤・・・。どうしたの・・・別に、大したことじゃないじゃない・・・」
「うん・・・そうだよね。でも、何か嫌な予感がしてたまらないんだ。」
「病院にいない理由は、『言えません』の一点張りだったけどさ・・・」
「僕が知りたかったのが、鈴科がアイツに何を言ったかだ・・・。」
「あぁ・・・お見舞いに行った彼ね・・・。」
その彼に鈴科は何を言ったのだろうか?
そもそも言葉を発することはできたのだろうか?
何故クラスの人はあのような態度をとったのか・・・。
鈴科の容体は一体どうなのであろう・・・?
次の日、僕はチャイムが鳴る二時間前に学校に着いていた。
当然誰も学校に来る気配がない。
部活もまだ始まってないようだ。
寝ようと思った。
机を3列ほど並べ、バックを枕にして準備は整った。
だが、寝れるはずはない。
もうあれこれ24時間以上は寝てないことになる。
まだ震えは止まらない。
暇つぶしをすることにした。
意味もなく教室の掃除をはじめる。
ほうき、ちりとり。
流石に雑巾掛けまではする気は起きないが・・・。
やはり頭の中では鈴科のことが渦巻いている。
鈴科はこうなることを予測して病院からいなくなったのだろうか。
僕が御見舞いにくることを想定して・・・。
また怪我させられるとでも思っていたのかもしれない。
それとも僕からの脅しが来ると考えた、とも考えられる。
もしくは鈴科が御見舞いに来た人に言ったことを僕に聞かれないために消えたのかもしれない。
そうなのならば、御見舞いに来たあいつは何を言われたのだろうか?
まさか僕の犯行が伝えられたのだろうか?
・・・そんなことは・・・・・・絶対あってはならない・・・・。
そろそろ1時間前になりそうだ。
そんなとき。
あいつがやってきた。
病院にやってきたあいつが・・・あいつがやってきた・・・・。
何と言うチャンスなのだろうか・・・!
「・・・っ」
はっ、と彼は引き下がろうとした。
僕はそれを食い止めた。
彼の胸倉を思いきりつかんだ。
少し聞こえる悲鳴。
しかしその悲鳴は口を塞ぐことで解決された。
そしてゆっくりと方向を変え、窓の方へと彼を誘導していった。
「お前・・・鈴科から何を聞いた!?」
「んぐぅ・・・ぅぅ・・・」
僕の手が離れ、彼の口が現れた。
ほんのり赤くなっている。
「何も・・・何も聞いてない・・・何も聞いてない・・・!」
「嘘をつくな・・・どうせ何か聞いたのだろう・・・?まさかクラスの人に言ったんじゃねぇよな・・・」
「本当に・・・何も聞いてない・・・!」
「じゃぁあの御見舞いのときのことを詳しく教えろ。」
「わかった・・・わかったからその手をどかせよ・・・」
ばっ・・・
払うように僕は胸倉から手を離した。
彼は降り飛ばされるように弾き飛ばされた。
なんて力のない・・・。
まだ55分前。誰も来ないだろう。
「あの日・・・あの日僕は病院に行ったんだ・・・。
もちろん鈴科は君へイジメをしていたからよく見られてはいなかった・・・!
だから誰も行かなかったんだ・・・。話を聞いてる限りでは・・・。
でも僕は心配になったから行ったんだよ・・・病院に・・・・!」
「で・・・早く核心を言えよ・・・!」
「そこに・・・そこには鈴科がいなかったんだよ・・・ホントに・・・
で、僕はみんなに告げたんだ・・・。いないって・・・・
それで・・・みんな・・・・・嫌な予感を感じていたんだ・・・!
鈴科が死んだんじゃないかって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
本当だ・・・!命をかける・・・!本当だ・・・!」
「・・・・・・」
僕は彼に『このことは誰にも言うな』と告げておいた。
彼が言っていることは本当のようだった。
気の弱い彼がウソをつくとは考えられなかったからだ。
一番心残りなのは彼にとった行動が裏目に出てしまったことだ。
あたかも僕が鈴科を怪我させた首謀者かのように。
再び掃除を始めた。
その時彼は机に座って宿題を始めていた。
・・・と思ったらどこかに消えてしまったらしい。
ふと僕は気づいた。
僕が彼にとった行動があたかも事件の首謀者かのようだったのに彼は何も驚いていないこと。
僕は、鈴科からの被害者でありみんな味方、という設定のつもりであった。
なのに今の会話はあきらかに、僕は鈴科への加害者である、という内容になっていた。
それを不思議に思わない彼は一体・・・。
さらに僕がクラスの人々に聞いた質問・・・
『鈴科の病院での状態は?見舞いに行った?』
これの返答は全て『零』
その時のクラスの話題は・・・
【そろそろ鈴科が復帰するんじゃないのか?とクラスが思い始め、若干騒ぎだした。】
そんな頃だったのだ。
なのに先ほど彼が言った内容は
【鈴科が病院にいないから、死んだかもしれない。とクラスでは話題だ】
そう言っていた。
食い違いが起きているのだ。
クラスでは何が起きたのだろうか?
まさか彼はとっさのうちに嘘をついたのだろうか?
いや、鈴科が病院にいなかった、という嘘は嘘ならばすぐに見破れる。
今回は彼の発言と僕の病院での実体験が一致していた。
嘘ならばそんなことをとっさに言えないだろう。
それは嘘じゃないから―――事実だから・・・。
この震えは何だろう・・・
だが―――間違いなく鈴科の安否は眼中になかった。
では何故クラスの中では『鈴科が帰ってくるんじゃないか』と噂していたのだろうか?
それは僕の周りでちょこちょこ聞こえてた噂話である。
ならばそれが 嘘 なのだろうか?
何のため?
ゆっくりと掃除している黒板を見つめた。
手には黒板消し。
綺麗に掃除しようと思ったから気づけたことだ。
ほら・・・また足が震えてくるよ・・・
『伊藤、死ね』
薄っすら黒板にチョークの跡が残っていた。
クラスで何が起きたのだろうか―――?




