呪い天使 31 『帰還』
元に戻る―――
呪い天使31 『帰還』
僕達は元に戻った。
仲の良い、あの4人組に戻った。
鈴科が学校から消え、僕達は本当の仲間となることができたんだ。
鈴科は病院にいるそうだ。
骨を折った、と風の噂が耳に入ってきた。
さらにいつ治るかは分からない、というもんだから帰ってくるのは遠い日のことだろう。
罪悪感はない。
これくらい自分はされたのだから鈴科は同じように罰されなければならない。
そして恐怖も消えた。
これで終わったと思ってたんだ。
ある日のこと。
僕たちは久し振りに4人で遊ぶことにした。
ボーリングやカラオケや、買い物までした。
朝から晩までずっと遊び続け、あっという間に今日が終わる。
「あっ、携帯が鳴ってる・・・。」
三日月が携帯を開いた。
4人のプリクラ写真の待ち受けには『新着メール一件』と書かれていた。
「・・・・上前からだっっっ!!!」
「えっ!?」
全員がいっせいに小さい画面を覗き込んだ。
同時に笑みがこぼれる。
『三日月から内容は聞いた。やっと4人に戻ったみたいだね!
鈴科は入院したんだって?ははっ傑作だね(笑)
そうそう、本題なんだけど、俺さ、明日そっちの学校にまた戻れるんだ。
そんときはよろしくな!では電車に入るので・・・じゃねー』
「上前戻るんだって!!!!」
「やったっ!これで本当に元に戻るんだ!」
全員が全員、喜びの表情を顔に出した。
水沢も、喜びを隠し切れていない様子だった。
というか隠す必要もないから表現的には間違っているのだろうが・・・。
僕も水沢も都宮も、何回もメールを見ようとしていた。
何度見ても変わらないメールを何度も何度も見た。
そんなことで過ぎ去っていく時間も楽しく感じた。
本当の友達というのを知った気がした。
ただ、いるだけで楽しいんだ。
次の日
「今日はだな、嬉しい話があるぞ。」
先生が陽気に話し出す。
おなじみの僕達3人は顔を向き合った。
三日月は隣のクラスでうずうずしていたに違いない。
そして僕達は輝きを放つその目で先生を見てやった。
すでにクラス中が騒いでいる。
それを楽しんでもったいぶる悪戯な先生。
僕たちの視線を感じたのか、先生はとうとう言葉を吐いた。
「上前が帰ってきたんだ!」
クラス中が騒ぎ始める。
そして喜びの表情になる。
クラスメート、やはりたったそれだけで、みんなが仲間なんだ。
その仲間の帰還。
クラス中がさらに盛り上げた。
「久し振りですー!」
上前がやってきた。
更に盛り上がるクラス。
男子も女子も、上前を仲間と認識していた。
そうでなければこの盛り上がりは無いだろう。
仲間の大切さを直視し、僕は身震いをした。
その時間の終わりには上前の前に人だかりができていた。
僕は波に乗る遅れたために最後列だ。
この身長のために上前が見えるか見えないか、というところだけだ。
気付けば中には都宮も水沢もいた。
後で話せるからいいや、と諦めて僕は席に着いた。
その後。
僕と上前はやっと話せた。
「久しぶり!」
「おう!久しぶりだな!どうだった?あれから。」
「まぁ、いろいろあったよ。でも今大丈夫。全て元に戻ったんだ。僕は運がいいんだ!ははっ!」
もちろん―――上前にあのことは話せない。
このことを知っていいのは加害者である僕と三日月と、被害者である都宮と鈴科だけ。
変にこのことは教えない方がいいだろう。
上前は転校中起きていたことを知らない様子だった。
・・・それにしても上前は以前と変わらず明るい。
上前が加わり、5人で合流した。
一日はあっという間に終わっていった。
そして流れるように楽しい日々は過ぎ去っていく。
最近楽しいことばかりである。
自分を含める5人メンバーでいるときは本当に幸せだった。
だから家に帰るのが果てしなくだるい。
そして嫌だった。
寝るに寝付けなく、僕は暇を消そうと努力をした。
家に帰るのが辛くまでなってきていた。
早く学校に行きたい・・・。家なんて・・・つまらなさすぎる・・・。
退屈だ。
気付きたかった。
この『暇』『退屈』というものは『自由』ということで
『安らぎ』であり『幸せ』ということだということを。
『何もない』という日常がどれほど良いかということを知ってればよかった。
いや、知っていたはずだ。
楽しい毎日に、ごく普通に過ぎていく日常が、あたりまえのものとなり、
この『何もない日常』を辛いものだと勘違いしてしまっているのだ。
そのうち気づくことになる。
この『退屈』『暇』『何もない』がどれほど大切なことなのか。
こんな形で強引に作った幸せは――――――
そう、強引に作った幸せなど・・・