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呪い天使 29 『手帳』

体育館での悲劇が僕を襲う―――


呪い天使29 『手帳』



「・・・・・伊藤・・・・・・伊藤・・・・・・」


「死なない程度に頼むよ。」


僕はゆっくりと小声で言ってやった。

鈴科はまた口を開こうとする。

そして鈴科が言ったあの一言は、僕の一生を変えさせるような気がした。


「・・・たとえ死んでも・・・・呪ってやるからな・・・・・・・絶対・・・・殺してやる・・・・・・・」


その声はかすれていて、息も乱れていたので途切れ途切れになっていた。

だがそんな弱々しい声に僕は足の震えを止めることができないどころか震えが強くなっているのを感じた。

そして目の前に先生や生徒が集まっていることにも気付いかず呆然としてその場に立ち尽くしていた。


他の生徒全員、僕に続けて走り寄ってくる。

先生も寄ってくる。

冷や汗をたっぷりと顔に流す先生の指示で全員が跳び箱をどかした。


「伊藤・・・!どかそ・・・!鈴科が・・・!」


ここで僕はようやく体を動かすことに成功した。

僕もようやく焦りの表情を浮かばせながら跳び箱をどかすことに専念した。


すでに鈴科は苦痛の表情さえもしていなかった。

先生はその後生徒を払い、手元にある電話で他の先生を呼んだ。

体育の授業は中止され、遠くから赤いランプが見えてくる。

鈴科は病院へと運ばれ、生徒全員は教室に帰ってきた。


廊下で三日月が僕の手を取り合おうとする。


「やったね。」

「・・・あぁ・・・うん・・・・・成功だね・・・」

「どうしたの・・・?」

「いや・・・ちょっと鈴科に気を悪くすることを言われてね・・・。」

「気にしないでよ!もう、終わったんだから!」

「うん・・・あ・・・ノート・・・ × つけといて・・・」

「ん・・・・・・?あ・・・うん・・・分かった・・・。」



三日月は自分の教室に戻り僕から受け取ったノートを取り出して赤ペンを握った。


『そして鈴科に体育の時間、怪我を負わせる。』


×



・・・一方都宮はというと―――――


・・・・もちろんこれも今の僕は知らない話だ。

都宮もまた震えを止められない人の一人であった。

そして体育の時間の前に鈴科と話していたことを思い出していた。


・・・


【鈴科?ちょっとさ・・・私・・・・嫌になってきちゃったの・・・・・】

【何をだ?】

【あなたの教科書代を払うことよ。お金も減ってるし、何と言っても時間がもったいない。】

【ネットで充分だろ?それにお前の父の手で早く仕入れることくらい可能だろ。】

【でもあなたは何もしてないわ。お金も払わなければ労働もない。―――楽よね。】

【だからなんだ?お前が俺から離れても居場所はないし伊藤たちからこの攻撃が続くだけだぞ?】

【別にかまわない・・・。でももうヤなの・・・。】

【・・・お前も伊藤と同じように殴られたいのか?】

【・・・やめてっ・・・そういうわけじゃないの・・・・!!でも・・・!】

【今日の放課後だ。学校裏の林に来い。来ないようなら俺が強引に連れて行かせる。】


チャイムだった。

神の救い手が降り立ったのだ。

そして体育館へと向かい・・・普通に授業がすすめられ・・・鈴科が救急車に運ばれたのだ。

・・・・・・


・・・


都宮は頬杖をついて机の上で窓の景色に目をやっていた。

もちろん黄昏ているわけではない。

この“事故”が自分にとって良いものなのかどうか審議しているだけなのだ。

視ているのは外に広がる木々ではなく、心なのである。

確かに鈴科に嫌気がさしていた、丁度そんな頃だった。

だが―――クラスメートが救急車で運ばれたのは決して喜んではいけない・・・。

あの様子を見る限り・・・かなり危ない状況じゃないかとも思えるのだ。

不安を感じていた。

殴られる、怖い、 そう感じてすぐに起きたことだった。

タイミングが良いようで悪いのだ。


そしてふと目線を変えてクラスを見た。

グループごとに鈴科の話題で会話があふれている。

自分の周りには―――誰もいない。

鈴科と行動しているのは放課後でクラスの中では行動こそしていなかったからこそ他人から鈴科同様軽蔑視をされずに済んでいたが、そのおかげでいつも一緒にいた三日月と伊藤といることができなかったため、クラスの人との会話は減っていき、今では一人ぼっちの状況である。

鈴科と学校―――というか公の場で話してはいなかったが、メールの交換はしていたのだ。

それで孤独に気付きもしなかった。

鈴科がいない今、自分は孤独だということを認識することになった。

複雑な心境に、また目線を窓に移した。


・・・



僕たちは休み時間に廊下で話し合っていた。


「・・・鈴科・・・・・なんて言ってたの・・・?」


震えも消えてきて、鈴科の話題を出すのも大分慣れてきていた。


「殺す・・・死んでも呪う・・・とかって言ってたよ・・・。どうしよう・・・」

「死んでも呪う、とかってただの文句だよ。死なないよ。あんな程度で。」

「だといいけど・・・。」

「何おどおどしちゃってるのよ。これで全て無くなったんだから有意義に暮らせるじゃない!」

「・・・そうだねっ!そうだよそうだよ!喜ばなくっちゃっ!ねっ!?」

「うん!」




――――――――――――――【楽しいね】――――――――――――――――――――

――――――――――――――【うん。】―――――――――――――――――――――






僕は家への道のりを長く感じながら帰宅した。

部屋にこもる。

かけ布団をヒラリと広げ、その中に体を入れた。

そして丸くなる。

その中で僕はやはり震えていた。

後悔なんかではない。

恐怖だ。

罪に対する恐怖ではない。

鈴科の言葉だ。

あの言葉がどうにも気にかかる。

もしも退院してきたらどうするのだろうか?

僕は殺されるのであろうか?

いや・・・殺されはしないだろう。

まてよ・・・・暴力団の存在があるではないか・・・!

そうだ・・・そうだよ・・・!

いくら鈴科でも自分の人生を棒にふるような真似は、あの性格的にありえない。

間違いなく鈴科は暴力団に依頼するだろう―――


と、一つの仮説が僕の頭をよぎった。

仮説といっても大げさな推理でもなんでもないが。

むしろ最も安易な答えなのかもしれない。


鈴科はお金を援助している。

鈴科は何故こんな年なのにもかかわらず暴力団を率いているのだろうかと、まず考えた。

写真での一件でもそうだ。

何故あんなのをスキンヘッドやらに暴力団は受け入れたのだろうか?

実は鈴科も都宮と同様、お金持ちの域に達していて・・・

それで大幅に援助しているから今まで鈴科はトップに近い位置にいるのでは。

そうなると以前僕が考えていた、鈴科の教科書についても頷ける。


お金を援助している―――だからトップなのだ。

そうなると鈴科は暴力団の犯罪も責任が問われてくるに違いない。

よって鈴科は僕を殺すことなどは容易ではないのかもしれない。


そう結論付けた。

例えそれが違おうとも、僕はそれを信じた。

気付けば体中汗が濡れていた。

冷や汗ではなく、普通の汗。

思いきりかけ布団を投げ出して扇風機とうちわで涼み始めた。

震えはもうない。

僕は心身ともに安らいでいた。


この先何が起こるかも知らずに。

『新展開突入・・・なのでしょうか。引き続きお楽しみください」

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