呪い天使 28 『呪殺』
写真の裏―――――
呪い天使28 『呪殺』
店員の言葉で僕は鳥肌を立てることになる。
そして時が一瞬止まるのである。
「いや、家族写真らしいものがあったし、その写真の裏に手紙みたいなものがあってな。ま、読んでないけどな。」
今まで僕はそれに気付いていない。
だが―――何か希望を見つけたような気がしてならなかった。
僕は他の客のことを気にせずにバックを店内で広げだした。
そして手にしたオルゴール。
僕はその写真をめくった。
写真の裏には一枚の紙がノリで貼られていた。
紙は黄色く汚れている。
小さな字・・・おそらく万年筆だろう。
その文字で書いてあったのは手紙ではなく・・・
・・・・父さんの居場所だった。
そして最後にこう書いてある。
『PS 最終手段だ。父さんが雄を迎えに行けなかったとき、ここまで来てくれ。』
「・・・・・・・・・・・・どうしよぅ・・・・・・・・」
僕は慌てた。
足が震えている。
どうするべきなんだろう・・・?
場所は近くもなく遠くもない距離であり、行こうと思えばいつでも行けるような距離だ。
だが母さんもいる。
普段外にあまり出ない僕が電車でどこかに行こうとするならば間違いなくある程度は感づかれるだろう。
会いたいけど・・・・・・会いたいけど・・・・ 。
そして・・・明日は待ちに待った鈴科への最後の・・・・・・一行。
たしかにとりあえず副会長になったものの想像通り父の気配を感じない。
これは夢にも思っていなかったビックチャンスである。
明日にでも行きたい。
でも何かが僕をひっかけていた。
家に帰った僕は布団に身を投げ捨てるかのように寝そべった。
じっと手紙を見つづけた。
・・・・・・・・・どうしよう・・・・・・・・・・・・。
知らず知らずに同じ言葉が口から出てくる。
時が経つのを忘れ見続けてるうちに僕は夢の中に落ちていった。
次の日
僕は結論を出した。
今はいい。やめよう。
今はやるべきことがある。
僕を蹴落とした、あいつを思う存分潰してやるんだ。
それがまずすべきことだ。
三日月と計画は完璧に考えた。
大丈夫・・・僕なら出来るはずだ・・・・・・・。
やってみよう・・・いや、やるしかない・・・。
体育の時間が始まった。
鈴科はまだ学校にきている様子だった。
チャイムと同時に体育館の中心にジャージ姿の生徒が集まりだした。
「今日は前日に引き続き、跳び箱だ。気を引き締めて行うように。整列。」
学年カラーの青色の体育館履きのシューズが規則正しく揃う。
そしてラジオ体操だ。
・・・といっても掛け声だけでラジオ放送は無い。
近いうちにテストがあるそうなのでみんな至ってまじめだ。
目をつぶって記憶にまかせて本番の練習をする者もいる。
だがそんな人が決まって体操の順番を間違えるので体操風景はどこか間が抜けているのである。
体操が終わった後は定番のボイスランニングだった。
体育館の中を掛け声とともに永遠を感じさせるほど走り続けるのだ。
後ろにいる鈴科の上履きが今日もみんなと違う色だったのが目に映った。
僕は前にいる三日月と目を合わせ、軽く笑った。
何故かこの学校は男女共同体育だ。
それであって2クラス同時に行う。
偶然僕と三日月は同じ体育の授業を受けられるということなのだ。
「個人個人、自分に見合った段の跳び箱を飛べ。」
鈴科は体育も得意だった。
だけども今日は高い跳び箱を選ぼうとしなかった。
顔が完全に俯いている。
当然先生からの注意を浴びる羽目になっていた。
鈴科と僕は同じ段の列に前後ろで並んだ。
僕はあまり跳び箱が上手でなかった。
鈴科と同じ跳び箱の段ということはなかなかにレベル高いトコロである。
クラスのみんなには
「調子のったな」と笑われながらちゃかされる。
「僕だってやればできる」とその笑い声に返答してやった。
僕の番だ。
ふと先生を見れば三日月が先生の熱いアドバイスをうけている。
そして後ろに鈴科が居るのを確認して跳び箱へと走り出し、跳んだ。
やはり僕に跳び箱なんて不可能なこと。
全身から激突して、跳び箱が何段か崩れそうになる。
・・・いや、崩れたかもしれない。
さらにはマットも大幅にずれている。
サーカスの大失敗かのような派手な失敗様だ。
必死に僕はそれをうけとめる。
マットも直す。
たくさんの人からの笑い声が聞こえる。
少し聞けば
「美味しい〜」だとか
「狙ったね。」との声も聞こえる。
でも今回ばかりは言われても嫌な気分にならなかった。
むしろ心臓の鼓動以外聞こえていなかった。
次は鈴科の番だった。
僕の手がだんだんと湿ってくる。
足が震えてきた。
必死に表情を殺すようにつとめた。
しかしどうしても口がにやけてしまう。
鈴科が思い切り踏み台を踏み、跳び箱に手をついた。
同時に僕の目と口も大きく開いた。
ガダガダッッッ!!!!!!
雑談の声は一瞬に消され、僕は走り出したあと悲鳴が鳴り響いた。
跳び箱が鈴科とともに崩れ落ちた。
鈴科は跳び箱に潰されていた。
顔と腕しか見えていなかった。
僕は跳び箱をどかしながら鈴科の方へ寄っていった。
跳び箱の下敷きになった鈴科はマットのない場所で落ちていた。
マットをずらしておいて正解だった・・・・。
同時に近くに転がりそうになっているゴムボールをポケット隠した。
鈴科が僕に気付いたようだった。
鈴科は少々の赤い滴が飛び散っている跳び箱に顔面を押しつぶされている。
そこからかすかに見える口元をゆっくりと開き始めた。
「・・・・・伊藤・・・・・・伊藤・・・・・・」
「死なない程度に頼むよ。」
僕はゆっくりと小声で言ってやった。
鈴科はまた口を開こうとする。
そして鈴科が言ったあの一言は、僕の一生を変えさせるような気がした。
「・・・たとえ死んでも・・・・呪ってやるからな・・・・・・・絶対・・・・殺してやる・・・・・・・」
その声は大きくかすれていて、息も乱れていたので途切れ途切れになって僕の耳に届いた。
だがそんな弱々しい声でも僕の足をさらに震わさせていた。
さっきまでの震えと違うのは明らかだろう。
再度、目を下に向けては震えだしていた。
そして目の前に先生や生徒が集まっていることにも気付いていなかった。
そして――――――――――――