呪い天使 23 『実行』
僕たちの行動は・・・
呪い天使 23 『実行』
僕たちは予定通りにサーティーワンに行った。
雲行きが怪しくなってきた。
店内に入るまでは雨は感じさせない空なのに、今ここで窓越しに見る空は雨を抱えているようだった。
アイスの味なんて何でもいい。
僕たちは調子に乗って
「おまかせ」を注文した。
シュガーコーンが好きなのでそれだけは選択したくせに。
そして
「悪いねぇ」の一言を都宮に告げて先に席をとっていたのだ。
空を見上げた後は三日月を見つめた。
そして見つめ合っていた。
少し口元を浮かせながら。
都宮が来るのを心待ちにしていた。
・・・来た。
「ごめーん、待たせたー?」
「いや、全然!てかありがとうね!」
「アイスくらい食べてればよかったのに・・・。」
「あっ・・・本当だっ!忘れてたよ〜」
・・・棒読みになっていたかなっていなかったかが不安だったが三日月の顔を見て安心した。
今、別にアイスを食べたいわけではなかったのだから食べてないだけなのだから。
「あっ!見てみてー!!!」
三日月がとっさに切りだしてくる。
ピンク色でジャラジャラとキーホルダーが付いている都宮のバックとは対照的に、
あまりキーホルダーが付いていなく、学校指定されてたような革の黒いバックからファイルを取り出した。
漫画である。
「これさー。これ今度、応募しようと思っているの。」
素人から見ても上手に見えた。
コマの位置から人の骨格や角度、展開や描写・・・もちろん内容まですべて完璧に思えたほどだ。
別に友達だからベタ褒めしているわけではない。
今まで絵の上手い人を幾多と見てきたが、三日月は別格だった。
間違いなく将来の漫画家にはなれるだろうと思った。
「・・・面白いよ!由奈っっっ!」
都宮が叫び出した。
でも心の叫びは違う意味を持っていただろう。
鈴科に届けるのだ。
この、僕らにとって大切なものを―――――――――
―――――無くせばいいんだろう?
「これさぁ、まだちょっと未完成でさ。明日ちょっといじってその日に投稿しようと思うの!」
エサだ。
三日月は無邪気に笑って見せた。
これをわざと机に置いて鈴科にチャンスを与えるのだ。
そうすれば都宮は私たちに喰いついてくる。
そして『都宮―――――――――』に赤の“×マーク”をつけてやるのだ。
アイスが次第に減っていき、残りのアイスはほとんど溶けているのでスプーンですくうようにして食べた。
いつも都宮に奢ってもらってるときは身が小さくなる思いでそれを口にしていたが、今回は違う。
僕たちは満足気に腹を満たした。
「ありがとう!」
「どーも!」
「本当に助かったよぉー!」
「いえいえ!お役に立てて光栄です!」
―――――僕たちにとってこの光景は少なくとも友人関係に繕っていたつもりだが・・・
この光景は周りから見て、どう思われたのだろうか?―――――――――――――
店を出ると僕たちは頭をバックで覆いながら走って帰って行った。
そして・・・
都宮と僕たちの時は立っていく。
僕たちの手の中で。
それはビー玉のごとく。
都宮も僕たちも、互いに“自分が手のひら”で“相手がビー玉”と認識している日が続く。
サーティーワンの次の日だった。
まさに予想通りに都宮の漫画に落書きらやら足跡やら付けられている。
もちろん・・・それはエサにしかすぎない。
実はそれはコピーであり、その上からホワイトやベタをしたので、鈴科はそのダミーに気付いていない。
もちろん、よく見ればすぐに分かる。
だけども人目を気にしながら行動する鈴科にとってそんな余裕などないに等しい。
だが僕たちも事を着々と進めていった。
まずは簡単だ。
都宮の物を隠したりした。
バックの中の水筒を零して教科書を台無しにしてやった。
―――当然お金のある都宮は一日でそれを入れ替えるという荒業を僕たちに見せてくれた。
それでも水筒でちょくちょくと教科書を消していく。
小さいけど。
例え今僕たちがやっていることが小さいことだろうと・・・
あることわざのように、これが続けば大ダメージへとつながる。
もちろん都宮の経済力は限度を知らないが、交友費やいつものホスト代、そして教科書代―――。
僕たちも次第に交友費にお金を使わせていく。
全て都宮の奢りで一流料理屋に行ったり、ブランドバッグを購入させたり……
そうしてその日々の最後には必ずある一言を付け足す。
『ごめんね』
これで都宮は安心したのだろうか?
増え続ける僕たちの要求に応え続けていった。
もちろん僕たちは犠牲を惜しまなかった。
情報提供に勤しむのだ。
僕たちが気に入っているノート、落書き、小物、アクセサリー・・・など。
全て僕たちがそのために作ったものだとも知らずに。
そんな中で僕たちは都宮と過した。
――――・・・・・・・・・だから・・・・・これは・・・本物の関係に見えていただろうか――――――
ある日のこと。
ごそごそ・・・
授業が終わり、汗で濡れた体操着を着ている僕と三日月は誰もいない教室にいた。
茂木先生が出張のため、体育の時間の終わりに帰りのホームルームを済ませたのでもう帰れるこの状況で、
僕たちは帰ろうとせずにある机の中を何回もチェックしていた。
ドアの前で伊藤が念入りに外を見渡す。
伊藤の合図で三日月は机から離れた。
大丈夫、するべきことはもうした。
都宮だ。
「時雨〜!見てー!今度こそ鈴科にやられないようにするよっ!マンガ書き直した!
明日月刊誌に出すよっっっ!うん!」
「やっぱ由奈ちゃん上手いよ!漫画家だよ!これっ!」
「あっ・・・今日もどこかにいかない・・・?」
―――――――――――――
いつもの即答が来ない。
・・・きたか・・・・・・?
「ごめん・・・実は・・・お金がね・・・使い過ぎって・・・・」
表情をこらえるのに全神経を使った。
待ちに待ったその言葉・・・
「お父さんに・・・・これ以上は使うなって・・・お小遣い止められちゃって・・・」
止められた程度か・・・
だが―――いつも捨てるようにお金を使っていたコイツにとってこれは大きな打撃になったのではないだろうか。
もう・・・隠す必要も無い。
「はははっっっ!ははっ!きゃははっ!」
しばらく僕たちの笑い声は絶えることを知らなかった。
都宮の顔を潤っている眼で見たが、最初はキョトンとしていたが・・・
もう・・・気づいただろう・・・。
自分だって最初から僕たちのことを友達として見ていなかったのだから、すぐに気づけたのだろう。
激しい憎悪が顔に表れている。
「じゃぁ、お別れだ!今までありがとな。」
お金と遊べた。
そして落とすべき人物を、今落とせたのだ。
至福の幸せを感じていた。
「金を返せ・・・!・・・ふざけるなよっ・・・!」
もう彼女は負け犬だった。
僕らはそれを背に笑いながら教室を出て行った。
満足げに僕たちは出て行った。