呪い天使 22 『有言』
三日月の一言から全ては始まる・・・
呪い天使 22 『有言』
僕は都宮にも離れられてしまった。
鈴科に嫌われ、知らない間に水沢は僕の視野から消えていき、
上前も転校していったうえに、都宮は鈴科と仲間になっていた。
しかし保健室で寝ている僕に三日月が言った言葉は僕を目覚めさせてくれた。
「・・・・私たちも・・・・・・・・仕返しするべきだよ・・・・・・」
僕の目は青色に光り、三日月の手を握った。
僕と三日月はその放課後、ひとつのノートを古びた文房具屋さんで購入した。
そしてその帰りにファーストフード店に寄り、ジュースのLをそれぞれ買うと二階の窓際の席に腰をおろした。
そして購入したノートをビニール袋から取り出した。
ペンでキュキュッと表紙に文字を書く。
『計画実行ノート』
そして真新しさを感じさせる一枚目が目に映る。
ペンを持った。
消しゴムは用意していない。
つまり普段使うシャープペンシルではなく、ボールペンだ。
一つ一つ項目を考えていく。
『都宮―――――――――』
部屋に帰った僕はベッドについていた。
そして無造作に机をあさりだした。
・・・そういえば今はないんだった。
オルゴールの音色にこの心を落ち着かせようとしたがそれは不可能なこと。
父との写真も慌てていたせいか修理屋さんに預けたままだった。
横を向いた僕の目に映ったそのノートをとりだして顔の前に持ってきた。
そしてふと思い出したのは生徒会長のことだった。
・・・父に会えない。
あの後、実は副会長にはなれていた。
人員不足だ。
生徒は生徒会に興味を持たないどころか軽蔑の視線さえ送っている。
僕が立候補した大きな理由の中には父との再会という、世間的には不純な理由もあることに違いはないが、
生徒会で経験を得られるということは紛れもない事実だった。
一応調べていた。
会長になることを想定して事前から調べていたのだ。
生徒会室、前回の会長の仕事など。
結果論全て無駄になったが、もしもなれていたら僕は学校を揺るがせただろう。
自信はあった。
ヤル気があったからだ。
そして、人を仕切り、行事を成功させたときの気持ちの良さをも知っているからだ。
もちろん生徒全員が一つになって喜ぶあの顔も。
・・・それが全て消えたのだ。
父にも会えないかもしれないし、仕事の達成感も得られない。
やはりこのことは僕自身を大きく動かしていた。
父に会いたかったのに。
あのときからずっとこの日を思い続けていたのに。
一次審査で勝てると思ったのに。
交友勉強生徒会、全てうまくいくと思っていたのに。
鈴科の行動、すべてが僕の道を閉ざしてくれたのだ。
思えば即答だった。
三日月のあの提案から。
すぐに手を握ってしまった。
そんな手を僕はそっと見た。
その手がどれだけ黒いモノを漂わせているかも知らずに、まだ見続けた。
もちろん視えていない。
心が手を視ようとしていないからだ。
僕が三日月から預かっていたそのノートはすでに真ん中あたりが薄く汚れていた。
これは手と汗の汚れだろうが気味が悪く感じていた。
次の日の朝
また始まる、僕の席での出来事。
都宮と三日月。そして僕。
「ねぇねぇ、また今日もどっかで食べにいかない?」
都宮が切り出した。
もちろんこの人間は何も知っていない。
僕と三日月は互いに目と目を合わせてみた。
「ごめん・・・今日はお金がないんだ・・・。」
「あ・・・私もお小遣い止められちゃって・・・」
いつもはそれくらい持っている。
僕の場合は小遣いなど少ない・・・いや、むしろ無いに等しいと言った方が正しいであろう。
だがお金のやりくりをしている僕にとってお金が無いというのはあり得ない。
そして三日月は親にお小遣いを止められるほど愚かな真似はしない。
そう・・・
「お金がない」・・・・・これは嘘だ。
「じゃぁ・・・今日は私が払うよ!」
都宮はお金持ちである。
以前開かれた上前のお別れパーティーに使った費用は全て彼女が払ったほどだ。
しかも親は社長。
そんな都宮は以前からジュースなりなんだり奢ってくれていることがよくあった。
「ありがとう!」
僕と都宮は笑いあった。
お金が浮くから喜んでいるのではない。
昨日買ったノートに赤いペンで“×マーク”がつけられるから喜べるのだ。
『都宮――――――――――――』
これに『×マーク』をつけるのだ。
「じゃぁ今日はサーティーワンいきたいかもぉ〜」
「いいよ!」
作戦通り。
また目が合った。
ふと空を見れば重くて今にも落ちてきそうな曇が空を覆い尽くしている。
そのくせに雨は降りそうではない、微妙な天気だ。
これではサーティーワン行く気にならないが・・・・というかむしろ帰りたい。
だけども・・・行こう・・・。
都宮がこうもあっさりと僕たちの言うことを聞き入れることは知っていた。
三日月があの夕陽の空で聞いた鈴科と都宮の言葉がそれを教えてくれたのだ。
・・・
夕陽を背景に、わずかに感じ取れる風が地面に落ちている葉っぱを浮かせている。
そんな中、いつもと変わらず鈴科は冷静かつ冷徹な表情をしていて、傍にいる都宮も同様だった。
都宮のこの表情は見たこともない。
【ははっ!それでこれからどうするの?オルゴール壊して気持ちいいんだけど!】
【もっと・・・もっともっとだ・・・。こんなのは序章に過ぎない・・・というくらいに。】
【冷徹ね】
【まぁいいじゃねぇかよ。・・・最終的には三日月と伊藤を離したい】
【難しいと思うよ?】
【三日月の物もなくしたり壊したりすればいい。そうすれば三日月だって暗くなっていく。
そして・・・お前にやってほしいことはだな・・・】
【・・・何?】
【いつも通りあいつらと接してほしい。そしてあいつらが無くしたくないものを探れ。】
【それを壊したりするわけね?】
【そうだ。まぁ今日はお疲れ様だ。】
・・・
そうして僕たちはサーティーワンに向かったのだ。