呪い天使 16 『信頼』
水沢、都宮・・・
呪い天使 16 『信頼』
「ねぇ、水沢?あんね、伊藤って水沢のこと嫌いだったんだよ?」
水沢も都宮の演技に騙された。
そして水沢は伊藤の存在が怖くなっていく。
ほんの少し前までは唯一の男の親友であった伊藤が悪魔に見えてしまった。
親友が二人いる状態で、一人の親友がもう一人の親友の事を話してくれたこの状況。
水沢は話してくれた親友・・・都宮を信じることになったのだ。
ある日・・・先生が朝の学活を始めた。
またいつもと変わらぬ朝の学活。
例にならって誰も先生の顔さえ見ようとしない。
それに慣れたのか先生もそのまま学活を始める。
僕はいつも通り先生の方を向いていた。
「今日は、上前君は休みかね?」
いつも朝一番にくるような上前の突然の欠席。
みんながみんなの顔を見つめる。
そして再び前を向き、下を向いた。
僕だけは上前の席の影を見つづけていた。
机がどこか空っぽになったような感じだった。
先生が出席簿に記入しようとしていたそのとき、彼はやってきた。
「おっ、おはようございます・・・。」
上前が慌ててドアを開いた。
「遅刻だぞ。ほら、席につきなさい。」
「はい・・・。」
先生は話を続けた。
「そうだ。この前の生徒会選挙で勝った人が決まった・・・」
一瞬、クラスが固まった。
緊張が解け、みんなは先生やら鈴科やら伊藤を見る。
僕は、先生の手を見つめ続けていた。
「当選したのは、鈴科君です。」
クラス中が驚きの顔を隠し切れない。
なんせ一次審査で負けたにもかかわらず二次審査で当選したからだ。
生徒審査でそこまでの差をつけて鈴科がかったのだろか?
僕の目線はずれることがなかった。
見つめているのではない。
睨みつけているのだ。
心臓に重いものがのしかかったような感覚に襲われた。
視界が暗闇に包まれていくのも分かった。
初めから写真の件で無理だと知っていたものの、この告知は僕にとって酷だった。
「鈴科君、これから頑張って下さいね。」
「あぁ・・・はい。」
先生がなにか話しているのが分かった。
しかし耳は耳としての役割を果たしてくれようとしない。
「では、終わりだ。」
チャイムがそっと鳴り響く。
と、同時に三日月の声が聞こえる。大きな足音も聞こえる。
「ねぇっっっっ!伊藤―――――!!なんでっ!?なんでっ!?」
「・・・鈴科に僕と暴力団が歩く姿の写真を撮られ、先生に渡された。
完全に信頼は消えたみたいなんだ・・・よね・・・ははっ・・・」
僕は下を向いたまま笑って見せた。
もう、終わったことだ。
今さら悔やんだって意味がない。
人にあたるのだけはよそう。
都宮もそこに入ってくる。
都宮と三日月が話し始めた。
音は耳に入り、耳から抜け、それが繰り返された。
目を開けて、やっと音が声となり、僕は口を開いた。
「いいよ。終わったことだしさ。授業の準備、授業の準備。」
震えながらでこっちを見つづける水沢の顔が目に映った。
目が合いそうであわなかった。
いや、この状況だ。
むしろ僕は背けるように目をずらした。
結局水沢はこっちに来てくれなかった。
別にどうでもいいや、と思ってまた下を向いた。
そんなとき先生がやって来た。
同時に都宮はトイレに行ったのが分かった。
逃げたような感じだったがこれも関係のないことだった。
先生はそんな都宮の姿を細い目で見ていたのも、今の僕にはもちろん関係なかった。
「伝えた通りだ。残念だな。とりあえず生徒には教頭の圧倒的支持とでも言いなさい。」
学校で一番エライ人は普通校長だ。
しかしこの学校の校長より教頭の方が実績も高く人望が厚い。
そんな教頭はこの学校を牛耳っていた。
それを理由にするって・・・
あまりにひどい話じゃないのか。
先生が教室から出て行く。
都宮もトイレから出てくる。
都宮は安心した表情で戻ってきた。
「(今のところ退学じゃぁないんだ・・・。)伊藤ー、どんまいだよ。」
・・・水沢は僕が目線を背けたことに気づいていたそうだ。
そして水沢は思い出していた。
都宮の一言を。
水沢は震える足を抑え、席を立った。
伊藤たちのほうに行こうとした瞬間・・・
ずっと大人しくしていた上前が都宮達の方へよってきた。
水沢は大人しく席に座った。
もちろん僕の目には、彼の行動は全く映っていなかった。
「なぁ・・・伊藤・・・」
みんなが
「ん?」と上前のほうを優しく見つめる。
「俺さ、実は明日転校することになったんだよね・・・・ははは・・・」
水沢、都宮、上前・・・