呪い天使 15 『憎悪』
都宮が鈴科を信じたその理由・・・
呪い天使 15 『憎悪』
トイレに入った都宮はチャイムが鳴るのを無視して、頭を抱え込んでいた。
都宮は総計二時間の出来事・・・職員室、鈴科、との会話を思い出す。
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写真がわたされた。
一見、どっからどう見ても伊藤と上前が暴力団と歩いているような写真にしか見えない。
だが、その写真の奥にはそれよりも重要な問題が写されていたのだ。
伊藤と不良が歩いているあの写真には都宮の姿が写っていた。
「都宮さん・・・何か知っていることはありますか?」
「・・・・は・・・はい・・・・・・」
「これはどこですか?」
「・・・ホストクラブです・・・・・・・」
「未成年が飲酒していいと思っているのですか?」
「・・・・・・ダメです・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・下手すれば退学の可能性もあります。校長先生と話してみますから。」
「あっ・・・・退学だけは・・・・退学だけはやめてください・・・・・・」
「それは校長先生の判断によります。」
都宮は下ばかり向いていた。
職員室から出るときも、ずっとずっと。
そして職員室のドアの前にいたアイツにも、最初気がついていなかった。
あと少しでぶつかりそうになときアイツは都宮に話し掛けてきた。
「都宮か・・・はははっ!」
都宮はその声に気付き、表情を変えた。
地獄を一望し落胆している顔から何かを恨もうとする顔に変化してしまった。
「鈴科・・・・・あなたね・・・・・・写真を撮ったのは・・・・・」
鈴科はそこで都宮にこういう。
あの写真は伊藤が鈴科に撮ってくれと頼んでいたものだった、
伊藤はもともと鈴科と組んでいて、都宮を裏で嫌っていた・・・と。
都宮は今この瞬間、感情が乱れていた。
もちろん最初は疑いを持ち、伊藤を当然のように信じていた。
「今、伊藤は三日月と仲がいいだろ?
すべて俺が操作したことだ。三日月に上前の犯行を見せたのも、何もかも。
そして伊藤は三日月を手に入れた。友達のお前を捨ててな。
まぁ・・・捨てられたのはお前だけじゃないがな。」
伊藤は、三日月を手に入れた今、まとわりつく都宮を自分の目の前からはずすため 、
事前に鈴科が暴力団の情報から仕入れた都宮の秘密を写真という物的証拠に現像して職員室に提出したのだ。
つまり、良い女友だちを手に入れた伊藤が旧友の都宮が邪魔となり捨てた。という内容であった。
感情が乱れていたためか、単純な嘘にも都宮は耳を貸してしまった。
女としてのプライドも失った都宮だからこそ、信じてしまった嘘なのでもあろうか。
そして都宮は鈴科を振り払い、女子トイレに走りこんだ。
トイレの中である人の名前をつぶやく。
強く、小さく、そして恐ろしく・・・・・。
「伊藤・・・・・・・伊藤・・・・・・・・・・・・・・・」
都宮はトイレの壁を殴りつけた。
その日、都宮は授業に参加しなかった。
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そんな次の日も、都宮は学校に来なかった。
僕と水沢、上前、そして三日月は一日中心配し続けていた。
その放課後。
水沢が一人で自宅に帰ると家に都宮が待っていた。
「都宮ー!どうしてここに・・・?・・・みんな心配してたんだよ?・・・大丈夫・・・!?」
純粋に安心し、ニコッと笑う水沢に都宮は冷たくこういい返す。
「表の顔ではね・・・。」
水沢はその言葉に一瞬ためらう。
明らかに、今までの明るく心優しい都宮じゃない。
「水沢・・・ごめんね・・・私・・・知っちゃったのよ・・・・」
都宮も一瞬ためらいを作りながら切り出した。
「ど・・・・どうしたの・・・・・・・・・・?」
「それがね・・・・・・・・」
伊藤が本当に心から都宮のことを仲間だと思っていることを都宮は知る余地もなく、
伊藤を、突き落とそうと都宮は決心した。
「ねぇ、水沢?あんね、伊藤って水沢のこと嫌いだったんだよ?
もともと、伊藤と鈴科・・・組んでてね、伊藤、水沢のことも裏で嫌っていたの・・・。
わたしも同じよ・・・・・・。
私たち、伊藤と鈴科にハメられてたんだよ・・・・・。」
「・・・嘘でしょ・・・・・・?」
あぁ、嘘だ。
そう都宮は心の中でそう笑ってやった。
自分が嫌われただけで水沢は嫌われていない。
だけども伊藤がすべて納得いく形で終わらせるわけにはいかない。
水沢と伊藤の親友という関係を、今ここで断ち切ろうと決意したのだ。
伊藤の交友関係を、踏みにじってやろう。
今まで私をコケにしやがって・・・。
そう、都宮は憎悪を深め、感情のままに水沢に話した。
何が起きたかを全て熱弁した。
もちろん事実ではないことも入っている。
話すたびに涙はあふれ、口が詰まっていく。
この涙は本物なのだろうか?
都宮はそれすらも気付けないまでに話を進めていた。
続けて水沢は同じ発言を繰り返した。
あえて都宮は返事をせず下を向いた。
その芝居は説得力にあふれていた。
水沢は都宮を見つづけた。
「由奈ちゃん・・・三日月はね、このことまだ知らないの・・・。
私さ、由奈ちゃんとは仲良い今までいたいから一応伊藤とは一緒にいるね。
不本意だけど、由奈ちゃんとはさ・・・友達でいたいから・・・
水沢・・・。私と水沢は友達だよね・・・・!!」
くさいセリフだったが大丈夫であることは都宮は知っていた。
ここまできたらすべて押し切るしかない。
少なくとも自分と水沢は親友のはずだった。
親友が嘆き悲しんでいるのを見れば水沢の心は揺らされる。
涙を流す都宮のセリフはやはりどこか説得力があった。
水沢は何も言わず強くうなづいた。
そして彼は決して目を見せようとしなかった。
都宮はそこで涙を流そうと目をこすった。
目がだんだんと潤いでいった。
そんな都宮に返す言葉もなく、水沢は何もない空ばかり見ていた。
「・・・・・・・そんな・・・・・・・・・・・・・・・」
あれほど深かった信頼関係はこの瞬間、崩れ落ちていった。