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葛葉  作者: 50まい
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「…え?」




間の抜けた声を出した高彬たかあきらの鼻面をぴんっと人差し指で弾くと、あたしは葛葉のふかふかの肩に頭を乗せた。




「だからぁ、ちょっと皆で大和国のつきがさ城に行ってくるから」




瑠螺蔚るらいさんはっ!?」




「行くに決まってるでしょう。『皆で』行くんだから」




「じゃぁ、僕も一緒だね」




「んなワケないでしょ。あんたは、お・る・す・ば・ん」




「なんでぇ!?」




「『皆』は『前田家の皆』なんですぅー。あんたは佐々家でしょ?」




「葛葉は!?」




「勿論、一緒に行くわよ。ねー葛葉」




あたしは葛葉に頬を擦り付ける。




冷たくなってきた風。葛葉はあったかくて、気持ちいい。




「いやだよう・・・。僕も連れて行って!!」




「我侭言わないの・・・・って、またあんた泣いてる。治んないわねぇ、その泣き虫。よーせんせーに泣き虫に効くお薬貰う?」




腕を伸ばしてごしごしと手のひらで涙を拭いてやる。




「そんなの無いよう・・・」




「わかってんなら自分で治しなさい」




「葉先生はまさか行かないよね?」




「勿論行くわよ」




「なんで!」




「よーせんせーはうちのお抱えだから」




「なんで!なんで、僕だけ!僕も行きたい!!」




「じゃあ、父上に聞いてみる?」




「うん!」




「ダメですぞ、姫様」




「あ」




あたしはがばりと起き上がった。




「松尾!!」




松尾に飛びつくと、深い笑い皺が刻みこまれた顔であたしを抱えようとする。それに気づいてあたしはあわてて飛び退いた。




「あ、だめ松尾!瑠螺蔚もおっきくなったんだからもう抱え上げちゃいけませんって父上から言われてたでしょ?」




「ははあ、姫様も大人びられましたな。しかしいくら耄碌もうろくしようともこの松尾太郎隆景まつおたろうたかかげ、かつては殿の右腕となり幾千万もの敵を破ってきた武将もののふですぞ。姫様の重さなど、鎧にも満ちはしないですわい。ほれ」




あたしはぽんと片手で軽々持ち上げられる。




「うわあすごいすごい松尾!!」




「ほれ高彬殿も」




「うわーっ!」




松尾は右腕にあたし、左腕に高彬を抱えご満悦だ。




「すごいたかいたかい~!!松尾すごいー!!」




「まだまだ若いもんには負けないですわい。ふおっふぉっふぉ」




あたしと高彬はきゃっきゃっと喜んでいつもと違う目線を楽しむ。




松尾の足元で葛葉がくあーと欠伸をした。




「それはともかくとして姫様、高彬殿は一緒に行くことはできませんぞ。殿に言われておるではないですか」




「えーっ!どうして僕だけ?なんで・・・」




じわりと高彬の目に涙が浮かぶ。




「何でだめなの松尾!高彬泣いてるよ?なんで一緒に行っちゃいけないの??高彬いないんじゃつまんないよ」




「わしとしては姫様も・・・できれば連れて行きたくないのじゃ。我慢してくだされ。姫様も高彬様も」




松尾は抱え上げたあたしたちの頭に、それぞれほっぺを押し付けた。頬ずりする。




「なあに、すぐ帰ってこれますじゃ。そしたらまた遊べばよい。のう、高彬殿、男なら瑠螺蔚様が帰ってくるまで待てますな?」




「…うん。僕、待つ」




高彬が頷いたのを確認して、松尾は笑った。




「縁があればまた会えましょう」




「?どうしたの松尾泣いてるの?」




「松尾どうしたの?父上にいじめられたの?瑠螺蔚が怒ってあげるよ?どうしたの、泣かないで泣かないで」




痛いくらいに頬ずりされている皺で埋もれたその頬が、涙で濡れていた。




あたしと高彬は戸惑って、松尾の涙を小さな手で一生懸命拭ってあげた。




「きっと、また、会えますじゃ」




葛葉も心配そうに、松尾の足元に擦り寄っていた。
























「瑠螺蔚さあああぁぁぁ~~~ん・・・・」




最後の最後まで、高彬は泣きながら追いすがっていた。




あたしは輿から身を乗り出して、高彬に手を振る。




「泣くんじゃないわよ!情けないわね!すぐ帰ってくるから」




「瑠螺蔚ちゃん、あんまり身を乗り出してしまうと落ちてしまうよ?」




「だいじょーぶだよよーせんせー。またねー高彬!ばいばーい!!」




あたしは笑顔で手を振った。




そりゃあ遊び相手いなくて寂しいけど。兄様がいるし。葛葉もいるし。よーせんせーもいるし。松尾もいるし、父上も母上もいるもん。




あたしは、遠足のつもりだった。周りの、重い空気になんて気づきもしなかった。




高彬と別れて大和の国へ行ったのは、あたしが11歳になったばかりの春のことだった。

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