表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葛葉  作者: 50まい
4/5

兄上がいて、母上がいて、父上がいて。




高彬たかあきらがいて、葛葉くずはがいて、葉先生がいて。




あたしには、みんながいた。




ちいさいあたしは毎日幸せで。




まさか、そんな日が壊れるなんて疑ってもみなかった。




大人たちの切羽詰った顔も、ピリピリとした空気もあたしとは関係のないところにあるものだと何の根拠もなしに思い込んでいて。




淡海おうみ国から大和やまと国へ行くときも、ちょっとした旅行気分だった。




高彬は泣いて離れるのを嫌がったけれど、あたしはすぐ帰って来れるものだと思っていたから、大袈裟ねと笑って近江を出て行った。




それから、1年。あたしと高彬は離れることになる。




たった1年。その1年が、あの一瞬が、あたしからあまりにも多くのものを奪っていった。あたしには、何も残らなかった。




葉先生の優しい声を。




葛葉のぬくもりを。




母上の愛情を。




つぐが、みやが、桔梗が。台盤所の女たちが作ってくれた暖かいご飯を。




松尾が、高村が、堺が。父上に仕えてきた男達の笑顔を。




何度も何度も何度も夢に見た。何故失わなければならなかったのか。何故奪われなければならなかったのか。不条理さに涙が出た。嗚咽が漏れた。人が近くにいなければ眠れなかった。眠ってもすぐに飛び起きる。今隣にいる人もいついなくなるかわからない。その恐怖に怯えて眠れなかった。




小さかったあたしに、そのときの傷は大きすぎた。




高彬がいた。兄上がいた。父上がいた。自分も辛いだろうにあたしを気遣ってくれた。




でも母上はいなかった。皆死んだ。






















そして、11歳の秋が来る。




二度と忘れることの出来ない地獄の秋が。

大和国…今の奈良県あたり

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ