異世界ぐるめ探訪 ~学校の給食 学校の怪談レストラン「七不思議学園」~
「同窓会……かぁ」
自分の家のベッドの上で、タバコを吹かしながら一人つぶやく。
中学校の同窓会のお知らせ……正直、仕事は忙しいし、別に会いたい友達がいるわけでもない。
まあ、それよりも今は。
「……お腹すいた」
この空腹感をどうにかしなければならない。
「今日はなに食べよう」
スマホを取り出して異世界のグルメサイトアプリ「ISENAVI」を起動する。
画面をスクロールしてお店を探していると、あるお店が目に止まる。
学校の怪談レストラン「七不思議学園」
「学校がテーマのコンセプトレストランかぁ……」
出される食事は給食を再現しているらしい。
同窓会のお知らせが届いたからなのか、妙に心惹かれてしまう。
久しぶりに給食を食べるって言うのも悪くないのかもしれない。
「よし、決めた」
ルート案内を起動して、マンションを出る。
階段を二階登って、三階降りて、エレベーターで最上階へ。そこから屋上に出る。
夕日に照らされた屋上……どこか不思議な懐かしさを覚えた。
そんなことを考えていると、突然、ドアが現れる。
どこにでもある教室のドア……ガラッと引き開けて中に入る。
「いらっしゃいませ」
出迎えてくれたのは、おかっぱ頭の赤い服を着た少女だ。
「一名ですけど、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「……ちなみに喫煙席は?」
「学校でタバコは吸ってはいけません」
タバコが吸えないのはかなり残念。
だけど、コンセプトをしっかりと守るっていうのは好感が持てる。
これは味にも期待ができそう。
「わかりました。じゃあ、お願いします」
「はい、こちらへどうぞ」
少女に案内されて席につく。
出された水を飲んで一息つく。
見渡すと、どこか懐かしい学校という空間が完璧に再現されている。
テーブルと椅子も学校で使っていたものとよく似ていた。
見れば机を寄せ合って、食事をしているグループも居る。
まるで学校にいるような気分になった。
BGMもまた素晴らしい。
いくつもの童謡が、無人のピアノで演奏されている。
生演奏なのがまた素晴らしい。
でも、今はこの、学校帰りの子どものように、ぺこぺこになったお腹を満たしたい。
「さて、今日のメニューは……」
メニュー表にはただ一言「今日の給食」と書かれているだけだった。
まあ、確かに給食が選べるって言うのもおかしな話だ。
なら、これを選ぼう。
「すいません」
「はーい」
給食着を着た人体模型がやってくる。
普通なら驚くかもしれないが、この手のお店に通い慣れた今の私には驚くような要素は一つもない。
「きょうの給食をお願いします」
「かしこまりました」
人体模型の店員さんは深々とお辞儀をすると、私が入ってきたドアとは別のドアから出ていってしまう。
どうやら、向こうが厨房になっているらしい。
料理を待つ間、もう一度お店の中を見渡す。
なんとなく他のお客さんが目についてしまう。
コートを着てマスク姿の女性に、すごく身長の高い白い服と帽子を被った女性、全身紫という攻めたファッションセンスのおばあさん……女性比率が高い。
「おまたせしました」
声のする方を見ると、二宮金次郎像が背中を向けて立っていた。
その背中には料理が載せられている。
「すいません、手が離せないのでご自分でお取りください」
「あ、はい」
料理のトレーを取ると、金次郎像は本を読みながら、教室を出ていってしまった。
本を読みながら歩くのは危ないような気はするけど、まあ、彼もプロなんだから大丈夫でしょう。
それよりも今は……。
「うわ―……懐かしい……」
一目見るだけで、懐かしさが込み上げてくる。
袋に入ったソフト麺にミートソースの入った器。三角形の牛乳とそれに入れるミルメーク。おまけに砂糖ときなこがまぶされた揚げパンまで付いてきている。
夢の給食と言っても過言じゃない。
これはもう我慢できない。
「いただきます!」
さっそく、ソフト麺の袋を開けて、ミートソースに投入する。
しっかりと混ぜ合わせ、一口すする。
「うーん、これこれ! この安っぽさと生ぬるさが最高なのよねぇ」
つるん、というよりぶちぶちと頼りなく千切れる、このソフト麺特有の腰のなさが本当にたまらない。啜るたびに、ミートソースの酸味とほんのり甘い挽き肉の味が絡みついてくる。
しかもこの温度……給食室から持ってくるまでに完全に冷めきってしまうわけでもなく、まさに生ぬるいというべき温度になった麺とソースが、舌の上でじんわりと広がって、あの頃を思い出させてくれる。
「うーん……懐かしいなぁ」
牛乳にミルメークを入れると、とろりとした琥珀色のシロップが白い牛乳にじわりと溶け込んでいく。
揚げたての熱は消え、少しひんやりとした冷たさを帯びた、揚げパンを手に取る。
だけど、これがまたいい。
きなこと砂糖と揚げた油がしっかりと馴染んで、しっとりとした黄色の衣に変化している。
きなこと砂糖が飛び散りにくくなっているのも、また良しだ。
「!!」
一口かじると、表面はしっとりとしているのに、中はふわっと弾力のある生地が歯を押し返してくる。かみしめるたびに、じゅわっとコクのある油の味と、砂糖の甘みが染み出してくる。
そこにきなこの香ばしさが合わさると、それはもうえも言われぬ美味しさがある。
できたてアツアツのパンにはない、この独特の味わいがたまらない。
その甘さを流し込むように、ミルメーク入り牛乳をゴクンとひとくち。
「うーん……これこれ、この駄菓子感がいいのよねぇ」
本物のコーヒーのような深いコクも苦みもない、本当にコーヒー風味ってだけの甘い牛乳……微妙に冷たさの残る牛乳がゆっくりと喉を落ちていく感覚が、この給食メニューにベストマッチとしかいいようがない。
つい黙々とすべての料理を平らげてしまった。
「ふぅ……美味しかった……ごちそうさまでした」
食後の挨拶を済ませると、立ち上がる。そのまま、お会計をするために教壇へと向かった。
そこには最初に出会った赤い服のおかっぱの少女が立っていた。
「お会計は……」
財布を取り出し、支払いを済ませる。
「ありがとうございました。では、じゃんけんチャレンジがありますが、どうしますか?」
「じゃんけん?」
「はい、勝てばささやかですけど商品もありますよ」
うーん……じゃんけんかぁ。久しぶりだなぁ。
ちょっとやってみようかな?
「じゃあ、お願いします」
「はい! では……」
少女が手を出して構える。
私も子供の頃を思いだして、本気で構える。
「「じゃん、けん……ぽん!」」
***
「またのご利用をお待ちしています」
おかっぱの少女の声を背にしながら外に出ると、ドアはスーッと消えてしまう。
手にはカップ入りのプリンが握られている。
夕日の中でそのプリンをじっと見つめる。
そう言えば、あの時、最後のプリンを二人でわけて食べたあの子は元気なんだろうか?
無性に懐かしさが溢れてきて、子供の頃に帰りたい気分になってきた。
でもそんなことは無理に決まっている。
だけど……
「レビューを書いたら、同窓会の返事を書こうかな」
そんなことを思いながら、夕日に照らされる屋上をあとにした。
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ISENAVI !新着レビュー!
学校の怪談レストラン 「七不思議学園」 評価:★★★★★
雰囲気◎のコンセプトレストラン
投稿者:夜のエンジェル
内装から料理に至るまで、きめ細やかに学校を再現するその姿勢には脱帽です。
今回いただいたのは今日の給食メニュー。給食なんだから選べないのは当たり前。
ソフト麺にきなこの揚げパン、ミルメーク付き牛乳はあの頃の自分を思い出させてくれます。
お会計後のサービスも、気が利いていて、あの頃を思いだしたいひとは是非とも行ってみてください。
当然、学校なんで完全禁煙なんですけどね。
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異世界ぐるめ探訪シリーズとしてまとめています。
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