仲間
「【地獄の業火〈ヘル・ファイア〉―――】」
『講習会』が、始まった。
異世界の力を知る。
そのためにはまず、力を身体で覚える事が大切。
ということで、正義君は僕のおちんちんをヘルファイアで炙り始めた。
自身の絶叫で鼓膜が破れそうになる。
正義君の友達、カエデ君は、お得意のヘッドロックで、僕の抵抗を無力化する。
「なんか鉄臭くね?」「コウ君のちんちんが焼けている匂いだね」「香薫ってこと?」「ソーセージだけに!?」
「ギャーハハハ!!」
こうして『講習会』がエスカレートすること、早三十分。
性器、肛門、髪の毛、両乳首と、全身をまんべんなく焼かれた僕の身体から、徐々に組織液が染み出ていく。
「うわ!なんかネチョネチョする!」
カエデ君が思わずヘッドロックを外した所で、僕は熱さのあまり、地面を転げ回る。
組織液は、地面の砂利をべっとりと全身にコーティングすると、それがまるで、チョコスプレーをたっぷり纏わせたチョコバナナのような見た目になった。
「ちょっとー」「グロすぎ!」「投稿して凍結したらどうすんだコノヤロー!」
焼け焦げた筋肉に、直に砂利が食い込む。
地球を全て痛みだとしたとき、この小さい体にそれが全て入り込んでくるようだ。
「【地獄の業火〈ヘル・ファイア〉―――】」
追い打ちをかけるように、血液が沸騰する。僕の痛覚が、全身の輪郭を縁取る。
だが、ここは流石の正義君。伊達に異世界をオールクリアしていない。
生き物が死ぬか死なないかのギリギリのラインを、その絶妙な能力バランスで調整してくる為。なかなか死ぬことが出来ない。
「反革命勢力煽ってェ〜、国王の娘さん囲ってやっちゃってェ〜、あとはドラゴン聞き出してイチコロよ。」「すっげ、たってきた、マジで。」「姫、燃やした時にさァ〜、締まりがすごくてさァ。リカくらい笑」「ちょっと正義く〜ん恥ずかしいって」
彼らが異世界談話に花を咲かせている間、僕は大声で悶え続ける。苦痛のエネルギーを全て、音に変換するように。
「ちょっとコウ君、静かにしようか。」
自身の英雄譚を邪魔された正義君。怪訝そうな顔つきで、右手を僕の喉に添える。肉を溶接したような、何かが出口を失ったような、そんな感触がした。
「〜〜〜ッ!!コッ!!コッ!!!」
「ワハハ」「鶏みたい」「い〜や、例えるならコカトリスだな」「うお!出た!正義君の異世界ジョーク!ワハハハ!!」「おいテメェも笑え!!」「正義さん正義さん、そいつ今喉焼けてますw」「あ、そうだった」
「ギャーハハハ!!!!」
熱傷による直接の死因。多臓器不全を避けるため、主要な臓器を除いて熱せられる俺の体内。血流を正しく循環させることでショック死を防ぎ、細菌感染すらもピンポイントで焼き尽くす。
それら繊細な行為を無意識の内にコントロールしている正義君のテクニックは、当に神域であった。
だが、
「コ、コーーーーーー……」
僕の体は、大きく海老反りになる。
「あっ、ヤベ、これは」「えー、何々〜?」「さっき、喉だけじゃなくて気道も焼いちゃったみたい笑」「お?死ぬ?」「おもろ」パシャパシャパシャ
火傷とは異なるベクトルの痛みが追加で付与される。窒息だ。
僕は指を口に入れ、喉の肉を爪で掻き出した。鶏肉を指で割いたような感触がした。だが、酸素は入ってこない。
次に僕は拳を作り、死に物狂いで胸を叩く。当然ながら、肺には何も入ってこない。
やがて、全身の苦痛は、アドレナリンではカバーしきれなくなる。
そして―――余剰分の苦痛は、別の願いとなって現れた。
殺してくれ。
神様、母さん、仏様、ご先祖様。
この苦痛を、終わらせてくれ。
今、殺してくれれば、たとえ相手が正義君でも、感謝すらしてしまうだろう。
殺して!殺してくれ!ドンドンドン
「見て!ゴリラみたい!」「ウホ!ウホウホ!」「異世界にもゴリラっているのぉ?」「いたウホ」
死を乞う事すら、喉を焼かれた今の僕には許されないのだ。
絶妙にコントロールされた生と死のシーソーは、いまだ平行を保っている。
この苦痛は、いつまで続くのだろうか。
殺してくれ……殺……
「お、動かなくなった」「警察とかやばくね?」「大丈夫。俺の究極奥義、灰すら残らねえから。多分DNAとか。」「じゃ平気だな!」
……、……、……、
やがて、苦痛の塊が言語野を侵食すると、僕は考える事すら出来なくなった。
ただただ、苦痛を感じ続けるだけの、肉の塊。
究極形態に達した僕の身体。
その時だった。
「!?」「おい!」「アイツ、動き始めたぞ!」
僕の身体が、右拳を力強く握った。
「嘘だろ……ありえねぇ……」
そして、めいいっぱい、自分の頭蓋骨を叩き割ると、右拳に、大脳皮質がこびり付く。
火事場の馬鹿力とは、こういう事なのだろう。
あと一発で、小脳を完全に破壊できる。
生命活動を、停止できる。
「うおおお!俺、感動しちまったよ!」
「涙が……涙が止まらない……」
苦痛の究極形に人体がもたらした神秘の光景、【自殺】――。その美しさに、正義君一同は皆、スタンディングオベーションをしながらシャッターを切り続ける。
あと、一発。
右拳が、頭部目掛けて加速する。
「【全回復〈フル・リジェネーション〉】!」
取り巻きの一人、リカが詠唱する。
瞬間、ズタズタだった僕の身体を、光の糸が紡ぐように再生する。
そして、そのまま右拳が頭蓋骨を叩き割り、大脳皮質を空気中に晒す。
「【全回復〈フル・リジェネーション〉】!」
瞬間、叩き割れた僕の頭蓋骨を、光の糸が紡ぐように再生する。
はぁ……はぁ……
「おぉ!よくやったな、リカ!」「どうやったんだよそれ〜!」
「実は私も……転生者なの。」




