転生帰還者
僕は、選ばれなかった。
勇者にしか扱えない伝説の剣〈つるぎ〉、現代知識で成り上がり。ペットスキルでハーレム無双……。
目を閉じれば、ファンタジーの世界が色鮮やかに浮かび上がる。
だから―――この町で、この学校の中で、『異世界帰還者』が現れ始めたと知ったとき。
やっと僕の時代が来た―――そう思った。
「【魂灯〈ソウル・イグニション〉】―――」
「えぇ〜っ!正義君、すごーい!」
だが、僕の時代は変わらなかった。
教室の真ん中で火柱を放ち、周囲の女共に持て囃されているのが、『異世界帰還者』こと林 正義君。
彼は一ヶ月前、麓の山道でトラックに轢かれ、意識不明のまま昏睡状態に陥った。
もう二度と目覚めることはないと言われた彼だったが、3週間後、彼は奇跡の復活を遂げた。科学では説明のつかない神秘の力『炎魔法』と共に―――。
彼の話によると、トラックで轢かれた後、目が覚めると中世風のどこかに居たとか何とか。
そこで3年間の生活の末、ラスボスのドラゴンを討伐したところ、特典として現世での蘇生及び能力の持ち込みが許されたとか。
あとめちゃくちゃセックスもしたらしい。
ああ、羨ましい。
「おい、ドブゴブリン、何見てんだぁ〜?」
まずい。
羨望故に、つい、無意識の内に目で追いかけていた。
僕は再び、読んでいた異世界小説の活字の上に視線を戻し、無視を決め込む。
「てーめーえーしーか、居ねえだろうがゴラァッ!!!」
正義君は、足を乗せていた机を激しく蹴り飛ばすと、じわじわとこちらへ歩み寄る。
全身から吹き出す汗。
僕は全力で活字に集中する。
この生き物とは、目を合わせてはいけない。そう思った。
正義君は座席の前に座ると、右掌をこちらへ差し出し、僕の小説の折り目を鷲掴みにした。
「キャーハハ」「ねぇ見て、固まってる」
遠くから、女子の笑い声が聞こえる。
紙面の上半分を手で隠されても尚、小説を読み続ける僕の姿は、客観的に見ても非合理的に映る。だが、今の僕にとっては、そうする以外の術が無かった。
【地獄の業火〈ヘル・フレイム〉】―――!
イラストレーターの不祥事で絶版済みのプレミア小説が、粉塵へ帰す。
遮蔽物無き今、僕の視線は、必然と正義君の目と合った。
「なぁお前さ、異世界、興味あんだろ。」
「は、……はい……」
「午後、裏山に来い。この能力の『講習会』開いてやるよ。」




